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ユダヤ人のパレスチナ論「ホロコーストからガザへ・パレスチナの政治経済学」

「ホロコーストからガザへ・パレスチナの政治経済学」サラ・ロイ著・青土社2009年11月発行

著者は1955年米国生まれの政治経済学者・ハーバード大学中東研究所上級研究員。彼女は、ホロコーストの生き残りを両親に持つユダヤ人である。

イスラエルのパレスチナ占領を批判し、ガザ地区に関する政治経済的に分析した書籍「ガザ回廊」をオスロ合意直後の1995年に発表した。その内容は、「パレスチナ独立」を謳った和平プロセスはイスラエルの空手形であること、反対に和平の形をとったイスラエルによるパレスチナ占領支配の強化であることを見抜いていた。

本書は、2009年に来日した際の講演内容、論文及び対談を単行本化したもの。翻訳者・早尾貴紀の解説文、ガザ地区中心に取材したフリージャーナリスト・小田切拓の「対テロ戦争と二つの回廊」パレスチナ報告が記載されている。

「回廊」とは英語のストリップ(細長い一切れ)を意味する。日本語訳で「ガザ回廊」と言う。ガザ地区は幅10㎞、長さ40㎞、東京23区の6割程度の広さである。

ガザ地区は1967年6月の第三次中東戦争以後、イスラエル占領、入植によって住居を追われたパレスチナ難民ら150万人が居住する世界一人口密度の高い地区である。いわばパレスチナ人の巨大難民キャンプであり、イスラエルの管理占領下にある。

1987年12月の第一次インティファーダ(民衆蜂起)でガザ封鎖が始まり、2000年9月の二次インティファーダ以後、更に封鎖が厳格化され、ID番号で住民は管理され、で出入りも困難となった。

2006年1月議会総選挙でハマスが勝利し、単独政権となる。しかし日本を含む欧米諸国、イスラエルはハマス政権を認めず、敗北した西岸地区パレスチナ自治政府・ファタハ政権を支持し、ハマス政権の成立を拒否した。

2007年7月、ハマス政権はファタハと連立内閣を模索するも、ファタハ自治政府に拒否される。ハマス活動家は逮捕、拘束され、西岸区域から追放された。

2007年6月、西岸地区を追放されたハマス政権はガザ地区を実力でイスラエル軍の管理を排除し、実質的にガザを統治する。対するイスラエルはガザを完全封鎖し、2008年12月から翌年1月までガザに対し、大規模空爆を実施した。

その後も、2014年と2018年と大規模空爆を繰返し、ガザ地区の制空権、制海権を握り、ガザ地区の入植地拡大を図る一方、生活物資の納入を制限、ガザ経済を破壊、自立を不可能とした。

同時に西岸地区ファタハ自治政府とガザ地区ハマスを対立させ、両者を分断、対立を促進した。今やPLOファタハ自治政府は西岸地区のイスラエル占領支配のための代理人政権である。

ファタハ自治政府の大統領・アッパースの任期は2009年1月に切れている。その後、現在まで選挙も実施されず、暫定的に延長されている。その意味で正統性のない政権である。更に政権の腐敗、汚職が多く、現状、パレスチナ人の支持はない。

イスラエルは、オスロ合意後の和平プロセスで、米国の支援のもと、国際社会を支配した。結果、和平を進めるイスラエル対テロ組織ハマスの構図を作り上げた。加えて国際支援資金を管理する。

今回の国連支援決議も、米国は国連直接管理を拒絶、国連は監視員派遣のみ、支援物資の納入はイスラエル管理でガザに納入されるように変更された。

日本は1990年代、世界第二位のパレスチナ支援国である。その支援はガザ地区に届かない。ファタハ自治政府の汚職、腐敗の源泉となった。その意味で、国際社会はイスラエルの占領、入植拡大に異議申し立てもせず、直接的にイスラエルの政策に加担したと言える。

本書は、ガザ地区の政治経済学分析における必読の教科書と言える。古い本のため入手は困難かもしれない。

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