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半導体囲い込み戦略は有効か?「半導体有事」

「半導体有事」湯之上隆著・文春新書2023年4月発行

著者は1961年生まれ、日立製作所入社、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリで半導体微細加工技術開発に従事、現在は微細加工研究所所長である。

現在、経済安保、半導体サプライチェーン確保視点から、世界中で半導体製造能力競争が起きている。半導体が「産業のコメ」石油同様の「戦略物資」と見なされているためである。

日本でも台湾TSMCの熊本工場誘致、半導体新会社ラピダス設立が進む。背後には日本の半導体産業シエア衰退の危機感がある。

中国半導体産業の急成長から、米国は対中国半導体規制を強化した。2020年5月14日の台湾TSMCアリゾナ工場誘致、中国ファーウエイ輸出停止措置である。更に厳格化したのが2022年10月7日の中国封じ込めの先端半導体輸出規制である。

これら米国の中国封じ込め策は中国へ発射された目に見えない弾道ミサイルに近い。この結果、中国の半導体開発は壊滅的影響を受けた。「中国製造2025」の目標達成は不可能となった。

中国は半導体国内生産へ邁進している。世界の先頭を走る台湾半導体産業は中国にとって喉から手が出るほど欲しい。ここに「米中対立」が「台湾有事」に向かう原因がある。

中国の台湾進攻が始まれば、米国、台湾はTSMC等の台湾工場を破壊し、中国に奪取されるのを防ぐだろう。そのためのTSMCの米国への工場進出かもしれない。

台湾のTSMCはロジック半導体のファンドリーのトップメーカーである。世界シエアは58%、7ナノメートル以降の最先端半導体世界シエアは90%を占める。営業利益率49%、売上の半分が利益である。

TSMCの背後で操作しているのは、米国のアップルである。TSMC売上の25%はアップルが占める。世界のアイフォンはTSMCの貢献である。同時にムーアの法則の実践者でもある。

著者は、現在主張される地政学的戦略物資・半導体の考え方、国家安全保障上の半導体製造力競争に疑問を呈する。その理由は「半導体は一国、一地域で閉じて生産できるものではない」からである。

日本の台湾TSMC熊本工場誘致、新会社ラピタス設立の経産省政策にも疑問を呈する。工場誘致の効果、2027年まで2ナノメートル先端半導体生産の実現に疑義を持つからだ。

一方でロシア・ウクライナ戦争長期化から、2025年にも世界の半導体製造が停止する可能性があると言う。

理由はウクライナ、ロシアが供給するアルゴン、C4F6などの希ガスは半導体微細加工に必要不可欠なガスである。その供給が止まれば、半導体製造は不可能になる。

半導体産業は、チップ生産だけではなく、装置産業、材料、部品まで含めたグローバル産業である。「閉じた経済」で生産できるものではない。グローバルゆえにここまで成長できた産業。ここが石油と全く違う点である。

本書は専門的記述も多いが、日本の半導体産業衰退の理由もわかりやすく説明する。半導体の未来を考えるに適した本である。

日本経済低迷の原因は、現場主義の放棄、敗北の反省の無い自惚れ思考にある。経済再建政策も、現場を知らない、具体策の無い官僚主導の机上計画に依存する。現場を信じなければ、同じ失敗を繰り返すだけ。日本経済低迷を反省する本でもある。

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