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UIデザインの歴史を振り返る9冊-前編-(1987〜1999年)


はじめに

広義のデザインの重要性が浸透してきた昨今、どちらかといえば「UIデザイン」は狭義のデザインに分類され、ここ数年でその扱いが小さくなってしまったように感じます。

「UXデザイン」や「サービスデザイン」と言った言葉が登場したことによって、対比的に「UIデザイン」はUXやサービスのことを考えないデザインかのように扱われてしまうことも増えましたが、果たしてUIデザインとはそのような概念だったのでしょうか?

UIデザインが生まれるまでの人間工学や認知工学、テクノロジーの変遷を書籍で振り返ることで、UIデザインの立ち位置を見直してみたいと思います。

ヒューマンファクタ・人間工学からのアプローチ

スマートフォンどころかインターネットが普及する以前から、インタフェースの研究は行われてきました。当然ながらアプリやWebサイトの事例はありませんが、工場やオフィスにおける人と機械の関わりについて、ショベルカーからコンピュータまで様々な道具を対象に、工学的なアプローチが向けられてきました。

1.ヒューマン・インタフェース(1987年)

都市デザインやユニバーサルデザイン、プロダクトデザインなど、幅広い分野における研究が紹介されています。

2.ユーザー・インタフェースの設計(1987年)

ソフトウェアや対話型システムにフォーカスした内容となっており、有名な「シュナイダーマンの対話設計における8つの黄金律」の出典でもあります。

認知科学・認知工学からのアプローチ

急速に発展したテクノロジーが一般家庭にも広く普及してきた時代、専門家ではない一般のユーザーも機械や高度な道具を扱うようになったことから、その分かりやすさ・使いやすさが問題視されるようになりました。その解決策として、これまでの工学的なアプローチだけではなく、ユーザー側の認知に寄り添うアプローチが登場します。

3.誰のためのデザイン?(1990年)

もはや紹介不要かもしれませんが、UXの提唱者と言われるD.A.ノーマン氏の初期の著作です。「行為の七段階理論」や、実行と評価における隔たりに橋渡しをする「よいデザインの原則(可視性・概念モデル・対応づけ・フィードバック)などが紹介されています。

4.認知的インタフェース(1991年)

D.A.ノーマン氏とほぼ同時代に、日本人の研究者たちも認知工学の視点からUI設計を捉えるアプローチを試みています。ちなみに、共著者のひとりは国内のUX第一人者でもある黒須正明氏です。

テクノロジーからのアプローチ

コンピュータ・グラフィックスの進化に伴ってUIデザインの可能性が広がり、インターネットの普及によってコンピュータを介して世界と繋がれるようになり、人と機械を取り巻く外部要因が劇変した時代、次々と新しい可能性が開かれていくことになります。

5.ヒューマンインタフェース(1992年)

インターネットの可能性に着目し、ヒト↔︎コンピュータ間だけでなく、ヒト↔︎コンピュータ↔︎ヒト間まで見据えたインタフェース設計を説く一冊です。

6.見せるユーザー・インタフェース・デザイン(1993年)

コンピュータ・グラフィックスの進化に伴い、レイアウトやタイポグラフィなどにこだわれるようになったことから、効果的な視覚コミュニケーション方法を探る一冊です。

直近10年の取り組みを総括するアプローチ

工場の機械を対象とした工学的なアプローチから、オフィスのコンピュータを対象にした心理的なアプローチ、そして、コンピュータやインターネットの発展により開かれた可能性へのアプローチが、ソフトウェアのインタフェースデザインに集約されていきます。

7.GUIデザイン・ガイドブック(1995年)

理論と事例でGUIデザインを体系的に学ぶ一冊です。

8.ユーザビリティエンジニアリング原論(1999年)

9.ユーザ工学入門(1999年)

おわりに

振り返ると、UIデザインは人と機械の関わりから生まれた分野であり、価値を提供することや、より良い体験を実現することを見据えた上で、インタフェース設計に取り組むものでした。それは決して、ただ画面を設計すれば良いというものではありません。

一方、昨今「UIデザイン」として紹介されるのは主に画面設計を指すことが多いのもまた事実です。レイアウトのテクニックやプロトタイピングなどの技法は今も部分的には引き継がれているものの、UIデザインという概念が本来目指していたものとは乖離が生まれてきています。

おそらく、今回紹介した1987〜1999年以降、さらなるテクノロジー発展に伴ってできることが爆発的に増え、それがビジネスに結びつき商業的な成功を強く求められるようになった際に、昔からの人間工学的アプローチや、科学的な評価手法などは抜け落ちてしまったのかもしれません。

また時間があれば2000〜2024年を振り返る後編記事を書きたいと思います。

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