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【詩】おばかさん -花言葉創作②-

ねえ またノートを忘れたの
確信犯だって知ってるのよ わかってるの?
わたし ちゃんといつも本当に怒っているのよ
そんな風にしょぼくれて
困って見上げてみせたってだめなんだから
許してなんてあげないわ ノートも見せてあげないの

なによ
そんな尻尾の下がった、捨てられた犬みたいな顔しちゃって
だって ちゃんとわたし教えてあげたじゃない
ゆうべ わざわざ連絡だってしてあげたじゃない
「明日は小テストだからね」って
「忘れたりしないでね」って
どうせ浮わついて 目が滑って
既読スルーかましちゃったんでしょ
ねえもう どうしてそんなに世話が焼けるの

悪気なんかないわよね わかってるわよ
だってあなた、おばかさんだもの
わたしなら 泣きつけばどうにかしてくれるって思ってるんでしょう
まったくもう なめてくれちゃったものよね
ねえ 仏の顔も三度までってことわざ、知っている?
わたし ちゃんといつも本当に怒っているのよ
知らないわよね 知るわけがないわよね
だってあなた、本当におばかさんなんだもの

ねえねえちょっと おばかさん わかってるの?
わたしだっていつまでも
知らないふりなんかしてあげたりしないのよ
年甲斐もなく浮かれちゃって
寄り道して帰ったりするから いけないのよ

可愛い子よね うわばきの色は赤 1年生なのね
ばら色の頬 ふっくらとした唇
まつげが長くてふわふわの栗毛をしたあの子
華奢な体を心配になるくらい震わせながら
それでもあの子はちゃんと
あなたの前ではっきりと
愛を言葉にすることを恐れなかった

強い子よね 素敵な子だわ
わたしあの子のことなんにも知らないけど わかるの
昨日の放課後 自転車を押して歩いてくあなたの背中を
小走りで追い掛けていくあの子の背中 見てたもの
強い子よね 素敵な子だわ
わたしにできないこと
あの子はあの小さな体できちんと乗り越えたんだわ

あなたを見上げて歩くあの子の横顔 かわいかったわ
あの子を見下ろして歩くあなたの横顔 まぶしかったわ
わたしにはできないわ
わたしには怖くてどうしてもだめだわ
わたしにできることといったら
あなたがせめて今日の追試をまぬがれて
あなたがひと時だってあの子を待ちぼうけになんてさせず
横ならびでふたり
帰らせてあげることくらいなんだわ

あなたが自転車をゆっくり引きながら
あの子は歩幅を小さく刻んでついていく
わたしは教室のバルコニーに凭れて
両の指でしかくい窓をつくり
ひとりぼっちでシャッターを切るわ
ああ それはなんて希望にあふれた景色なのかしら
それはなんだかあんまりしあわせすぎて
涙だって涸れて尽きるわ

ねえねえちょっと おばかさん
わかっているわよ ノートでしょう
なによ
そんな懐っこく、ぶんぶん尻尾を振った犬みたいな顔しちゃって
わたし ちゃんといつも本当に怒っているのよ
そんな風にはしゃいじゃって
「頼れるのはおまえだけ」なんて嘘ばかり
どうせまた明日もやるくせに
こんなこともうこれきりよ
わたしだっていつまでも
知らないふりなんかしてあげないのよ

でも あなたがあんまりおばかさんで
あなたがあんまり鈍感だから
「いつもありがとう」だなんて
あの子にするみたいにわたしにも笑うから

当たり前に仏になれないわたしは
教室のバルコニーに凭れてひとり
たぶん明日もかわいそうで
騙されていてあげるわ おばかさん
きっと明後日もかわいそうで
騙されていてあげるの おばかさん

今週のお花たち
白のトルコキキョウ
紫のトルコキキョウ
紫のラン
クリームのバラ
千日紅
ソリダスター

こちらの日記でふれていた、花言葉創作シリーズの第2弾でした

白のトルコキキョウ 「思いやり」
紫のトルコキキョウ 「希望」
紫のラン 「幸せを運ぶ」
クリームのバラ 「恵み」
千日紅 「色あせぬ恋」
ソリダスター 「わたしに振り向いて」「なみだ」

告白する勇気のない、どこにでもいる思春期の女の子の、初恋のイメージで書いてみました
しかしながら、今はICT教育が普及してるから、ひょっとしたらノートとか取らないのか……?もしそうだったら大変すみません……

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