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新国立劇場さすがだなと思った演劇作品

どうも舞台演出家バックステージです。

普段は稽古場か劇場に居て演劇やミュージカルを作ってます。みなさんに舞台業界のリアルを伝えて行こう思って発信してます。舞台の知識や裏方情報をお届けして多くの方に劇場に足を運んで頂きたいと思っております。

今日のテーマは「量と質」ですね、恒例のハッシュタグ企画です。

・今日のお話


どうしてそのテーマかというと、

最近とても素晴らしい作品を観劇して、それがちょうどこのテーマと合致したのでご紹介しようと思います。このテーマを皮切りにして、現場のリアルをお伝えし、演劇というコンテンツはややこしくて面白いということをお話していきたいと思います。

では本日も元気にいきましょーう!

よろしくお願い致します。


・演劇やミュージカルの制作には絶対的に一定の期間と稽古量が必要」

量か質かという命題に対して、結論としては「演劇やミュージカルの制作には絶対的に一定の期間と稽古量が必要」ということです。つまり量か質かと問われれば、量になります。

ビジネス的観点やら効率的観点ですと、確実に質とお答えしたいところなのですが、どうしても量には敵わないということに気づかされた経験があったのでそれを説明したいと思います。

去年、新国立劇場でコツコツプロジェクトという企画の作品を拝見しました。作品はアングラ巨匠の別役実さんの『あーぶくたったにーたった』です。演劇アングラのことや別役さんのことはまた後日触れるとして、今日はコツコツプロジェクトについてお話します。リンクは貼っておきますね。


新国立劇場のコツコツプロジェクトとは、コツコツ1年間作品をじっくり育てましょうという企画です。

新国さんのホームページをそのまま引用しますと、

一年間、3〜4か月ごとに試演を重ね、その都度、演出家と芸術監督、制作スタッフが協議を重ね、上演作品がどの方向に育っていくのか、またその方向性が妥当なのか、そしてその先の展望にどのような可能性が待っているのかを見極めていくプロジェクトです。

時間に追われない稽古のなかで、作り手の全員が問題意識を共有し、作品への理解を深め、舞台芸術の奥深い豊かさを一人でも多くの観客の方々に伝えられる公演となることを目標とします。

つまり、現場はいつも時間がないと言うならば時間をあげるから最高のものつくれよという企画です。稽古がスタートしてから1年後に本番を迎えるみたいです。量に重きをおいた企画です。

この企画の作品を観劇してまず思ったのが

「台詞が俳優に馴染んでいる!」という点でした。

どういうことかというと、俳優の主な仕事は、他のキャラクターになる事です。つまりそれは他の人の人生を請け負うことになります。

自分に置き換えてみると分かりやすいのですが、誰かが1ヶ月で自分になろうとしてると聞いたら、おれ私の人生舐めんじゃないよって思いません?

違う人の声や姿勢、癖、考え方、心の状態を請け負うには一朝一夕でするのは至難の技です。まぁそれを即座にできるのがベテランとか天才とか言われたりするんでしょうけど。

余談ですけど、あんまそんな人まだ見たことないのですね。というか正直現場で観たことないですね。メディアのみなさんがたまに誇張して書くからそういう人がフェイク的にいますが、俗に言う天才俳優さんたちはみんなすべからく超努力家です。天才に見せてるようにめちゃくちゃ努力してますね。

おそらくこの「良い芝居作りには時間がかかる」なんて意見は舞台業界では白名の真実で誰もがそうしたいと感じているはずですね。

・演劇作品はみんなコツコツ時間をかけて作ればいいじゃん?

でも、できないんですねー、じゃあ何故できないのか?

帰結するとすればお金でしょうね。現実的には、お金をはじめ、スケジュール、場所などのいろんな問題があると思います。その問題をギリクリアできるのが、稽古期間は約1ヶ月から2ヶ月という今の普通な状況です。

別の言い方をすれば、こういう作り方を全く知らない可能性もあります。バブリーな好景気も終わり、ITも進化してどんどん効率化なり、人口減少による観客数の減少に伴う舞台予算が比例的に減少していく中で、いわゆる「質」が当たり前に求められるこの時代に、全く逆行してコツコツと演劇を作るなんてことは誰しもが考えてないんですよね。考えていても現実的に実行できないプロダクションが多いと思います。

僕も損益だけを計算するプロデューサーなら、3日くらいで作って大当たりしたらいいなぁって思いますよ笑

ブロードウェイにはオフブロードウェイがあり、ロンドンには大きな演劇祭があって、結果このコツコツプロジェクトと似たような作品作りが多く見受けられます。

事実、この間トニー賞を総なめにした「インヘリタンス」もロンドンの小さな劇場で始まり、ロンドンの大劇場でロングランし、そしてブロードウェイへ進出するという順番で成功を収めております。

量を重ねることで、何度も何度も台詞を体に通して初めて出る音があると、僕は信じております。それは一人の俳優の独白の中でもそうですし、対話の中でもですね。

だから、演劇ってどれが面白いの?と悩まれている方は是非このコツコツプロジェクトをご観劇頂ければと思います。俳優さんの生身の身体から演じているキャラクターのちゃんとした声が聞こえて素直に作品に入っていけると思います。この企画の作品を観劇したあとに別のお芝居をみるとやっぱりなんとなく薄っぺらいと言いますか、まだ馴染んでないなぁという印象を受けます。

でもそれも別に演出家や俳優さんが悪いわけじゃなくてシンプルに量が足りてないだけです。

・公演回数を重ねると作品は確実に成長する!

公演回数を重ねたり、再演を繰り返すことで自然と自分とキャラクターの波長が揃っていく傾向があるかと思ってます。やっぱり何度も何度も再演を重ねているキャストさんは他のダブルキャストさんに比べてなんか違ったりするんです。

あと、僕はたまに東京公演初日から全国ツアーに回るというプロダクションにつくことあるのですが、しばらく作品を観てなくて久しぶりに作品をみるといつもこれを感じます。

ああ、ようやくあの台詞のあの音が聞こえたなぁ、、、と。何度も言いますけど、技術とかじゃなくてシンプルに量を重ねることで俳優さんが作品溶け込んでいけるんです!だって何も修正してないですからね。俳優さんが自然と作品とキャラクターの波形にあっていくという、自然発生的に生じる現象は何度も経験しております。

だから僕の理論、というか結論としては

「俳優があるキャラクターになりきるためには、絶対数の時間と稽古量が必要」だと信じてます。

もちろん当て書きにしたり、その俳優さんに合わせてキャラクターを変えたりとかその道のりを短縮させる方法はいくらでもあります。

でもそれは質や技術ではなく、なんか僕には裏技的処理だと思ってます。そうやって裏技処理したキャラクターってなかなか発展が見込めないんですよね。これは俳優さんが悪いのではなく、そう判断した演出家、あるいはそういう判断せざるを得ない状況を作ったプロデューサーに責任があると思います。

僕はこのコツコツプロジェクトに対して非常に感銘を受けまして、将来的に新国さんからお話がくるまで、自分でコツコツプロジェクトをやることにしてます。現在は数回のワークショップを重ねて、ある作品を育てております。今年にその公演ができそうなので、早くコロナさん落ち着いてほしいなぁって思います。演出業って失敗の繰り返しなんですよね。でもその経験も質じゃなくて量を経験することでいつか花が咲くのかと思っております。

僕は今後もコツコツプロジェクトのサポーターとして新国さんを応援してます!

・いつか新国で演出が目標!

というか新国さんくらいしかもうそういう王道制作ができないと思うので、これは是非続けてください。そしていつか新国でコツコツプロジェクトに参加したいという目標はここで語っておきます!

今日はそんなところです。

では、バックステージでした。

ではまたー。

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