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1個のハンバーグ

 私の実家は漁師である。父は中学を卒業してすぐ、漁師として働き始めた。
 決して裕福ではなかったが、人並みの暮らしはしていた。
 漁は天候に左右される。私の実家淡路島は、台風がよく通過する。多いときには3個も4個も続けて台風がくることもある。
 そんなふうに台風が連続して来ると、父は漁に出れなくなる。私が小学生の時、台風が3個連続して直撃したことがあった。父が漁に出れない日が続いた。きっと1ヶ月近く漁に出れなかったと思う。お金が家に入らないともちろん生活は苦しくなる。そんなある日、母親の買い物に一緒について行ったことがあった。
 母親の買い物を見ていると、ゆでて食べるハンバーグを一袋だけ買っていた。
「あれ?それだけでいいの?」と思ったが、口には出さなかった。小学生なりに最近父が漁に出ていないことが解ったからだ。
 その夜の夕食はそのハンバーグだけだった。父と母、私と弟の4人で一個のハンバーグを分け合って食べた。父が、

「俺はいらないからおまえら食え」
と、自分のハンバーグを私と弟にくれた。
 そのときにはなんとなく親というのは子供のことを考えてるのかな?ぐらいにしか思わなかった。しかし、あれから30年近くたって、いま私は親となり、父がどう子供たちのことを考えていたのか、どう思いやっていたのか、昔よりはわかってきたと思う。親は子供のために自然と自分を犠牲にする。
 たった一個のハンバーグを家族4人で分け合って食べたことは、貧しい体験かもしれないが、心の豊かさは満たされるものだった。

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