見出し画像

「EC の新規顧客獲得コストを回収するには、4回の購入・12ヵ月の顧客維持が必要」というデータとその後

マーケティングに関わる仕事をしている方なら「顧客維持率が 5% 向上すると、利益が 25 ~ 95% 増加する」というデータは聞いたことがあるのではないでしょうか。

アプリ開発の会社としては「自社アプリなんて作ってもたいして DL されないと思うし、アプリなんて必要なの?」という意見に対する一つの有力なデータだったりするのですが、この出典ってご存じですか?

結論、元データは Bain & Company のこちらのレポートだと思われます。

Bain & Company といえば、

・平均的なアパレル EC は、そのサイトで 4 回買い物をするまで黒字にならなかった → 4 回購入のためには、12 か月間顧客を維持する必要がある
・リピーター顧客は最初の購入から 2 年半が経過した後の 6 か月間で、最初の 6 か月よりも平均 67% 多く支出する
・リピーターの 5 回目の購入金額は最初の購入より 40% 高く、10 回目の購入は最初の購入より 80% 弱も高くなる

出典:The Value of Online Customer Loyalty and How You Can Capture It

というレポートもあり、新規獲得競争よりも LTV 戦略に切り替えたいマーケターが社内を説得するための資料に盛り込めそうなデータがあったりします。

しかし、一つ目のレポートは 2001 年、二つ目のレポートは 2000 年という出版年が印字されており、なかなかショッキングだったりします。そして未だにこのへんを堂々と引用して結論に持っていくメディアも…。

ということで、マーケターにとっては興味深いデータがあるけど有名なものは古いのが難点な Bain & Company の最新レポートを見て行こうというコーナーになります。

Z世代・ミレニアル世代は EC 中心というわけではなく、実店舗でもよく買い物をしている (2023)

出典:Four Ways Younger Shoppers Will (and Won’t) Change Retail
対象:約5,800人の米国消費者

・Z 世代とミレニアル世代は、過去 6 か月間の小売支出の 38% を実店舗が占めた(X 世代の 43% とほぼ同じ)
・Z 世代とミレニアル世代の買い物客の 36% は、今後 2 年間で実店舗での支出が増加すると予想している
・とはいえ、店頭での対面接客の影響はシニア世代よりも明らかに小さく、「Web 上の動画コンテンツ(レビュー動画など)」「SNS コンテンツ」によって購買につながると回答
・コンテンツには「公平性」を求めるので、絶賛する切り口は非推奨

これは日本でも同様の傾向になりそうですね。昔から言われていますが、フィット感や感触が重要な商材は「店舗にいって触ってみる」体験も意思決定においては重要という話です。
インフルエンサーの案件動画の「正直なレビュー」がどの程度正直なのか、という問題はありますが…。

ロイヤルティが高い消費者は 2 倍消費するし、3 倍の肯定的なレビューを生む (2021)

出典:Happier Shoppers, Higher Spending: The Value of Loyalty in Grocery
調査対象:米国の食料品企業 50 社+消費者 711 人?

特定の食料品店での月平均支出額
・NPSが高い消費者:$132
・平均的な消費者:$102
・NPSが低い消費者:$71

食料品店に対する肯定的なレビュー(紹介)の平均獲得数
・平均NPSが高い企業の顧客:8.8
・一般的な企業の顧客:5.1
・平均NPSが低い企業の顧客:3.2

「NPS(ネット・プロモーター・スコア)の高い消費者は、低い消費者の 2 倍を消費する」
「高 NPS 顧客を抱えている企業は、ロイヤルティ戦略が遅れている顧客に比べて約 3 倍の肯定的なレビューを獲得できる」

という、Bain & Company の未だに引用されるデータに近いものですね。
UGC の重要性が高まっている近年では、支出額だけでなく肯定的な UGC の獲得数も調べてくれるようになりました。

※昔ほどインパクトのあるデータはなかったです

さすがに 2000-2001 のインターネット黎明期ほどセンセーショナルな調査レポートは近年発表されていません。そもそもトラッキングも難しくなっていますし、LTV を計測するような調査はできるのかという疑問も。

とはいえ、他の企業からも UGC まわりを絡めて小売業界の消費者動向を調査するレポートが増えていますし、もうフォローする意味がないというほどではありません。

ということで今回はこのへんで。今後もこういったデータは紹介していきますので、よろしければたまにのぞきにきてください。