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カエルノウタ

かーえーるーのーうーたーがー

きーこーえーてーくーるーよー

くわっ!くわっ!くわっ!くわっ!

ゲロゲロゲロゲロくわっ!くわっ!くわっ!



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5月も下旬になり、あと2週間も経てば、日本列島に梅雨到来というこの時期、何か物足りないなぁと思って静かな夜を過ごしていたら、その理由がわかった。


僕の住んでいた島根県出雲市上島町は信号機のない田舎町であるが、田舎は田舎で夜はうるさい。


虫たちが、カエルが、一斉に泣き出すからである。

それを聞いて育ったものだから、多分都会の人たちが田舎に来たらその"声を"うるさいと思うんだろうけど、僕からしたら、アルファー波の曲を聴いてるような妙な落ち着きがあるのだ。


だから、今東京の夜は静かだ。

昼はあんなに人がいるのに、夜はその人っこ1人もいなくなり、部屋の中の空調に似た『ぶぉーーーーん』でも『ふぁーーーー』でもなく、何とも言えない耳鳴りの様な音が僕の脳内をぐるぐるさせる。


5月。


田んぼの横の用水路を見るとそこにはタニシや、運が良い時はナマズが泳いでいる。

そのまま田んぼを見ると、大量のおたまじゃくしがいた。

まだ小学校低学年のバチョフ少年はそのおたまじゃくしを手ですくうと嬉しそうに道路のアスファルトに置いてみる。

すると次の瞬間、太陽光を吸収した黒い道路の上でおたまじゃくしが"じゅー"といって熱そうに悶えている。

"あっ"と思い、手ですくった時には脳みその様な内部が見えて、おたまじゃくしは動かなくなった。

一瞬状況が飲み込めずに、僕は悲しいというよりビックリした。その後ボーッとおたまじゃくしを見つめながら、そっと、田んぼに戻した。


梅雨。


雨が降る中、小学校への集団登校の中カエルたちが踊っている。


ゲロゲロゲロゲロくわっ!くわっ!くわっ!というよりも、


もっと、ハンドベルの様な軽快な、そう"メロディ"を奏でている。

道路一面を埋め尽くすと言っても過言ではないカエルたちが踊り、それに釣られて僕たちも軽くスキップをするようにカエルたちと"共演"する。

楽しい時間が続く、傘なんて、もう雨が関係ないくらい振り回している。


だが、そんな時間も長くは続かなかった。

『プップー!』

振り向くと車がいた、僕たちはそれをよけると共に演奏会は終わり現実世界に戻った。


息を整え再び歩き出すと、道路にカエルたちが二列に整列し横たわっていた。


僕はそっとそれをすくい、学校まで持っていった。


夏。


近所のまさしくん、ヤッチャン、カモユ、ユカちゃんと一緒に帰っていると田舎によくある"公会堂"に1匹の大きなカエルが横たわっていた。

男子4人はそれを見て何故か、『生き返らそう』

と言い出し、もう動いていないカエルの腹を切り、手術の"マネごと"をしだした。

ユカちゃんは少し離れたところでしきりに「もう、やめようよー、何やってんの?」と半ば呆れ気味に言っている。


それでも僕たちは何とか"生き返らそう"として、最後にお腹を縫い直し、両手を拳にして祈った。


すると、カエルは動き出して、逃げていった。

僕たちはみんな目を"テン"にしながら顔を見合わせて、何とも言えない不思議な感情のまま、バイバイした。

嘘みたいなホントの話。

たぶん、記憶がだだしければ。



東京の夜、家の横には大きな川、それでもカエルノウタは聞こえてこない。


小学校低学年のあの夏、僕たちは"確かに"大人の階段を一段登った。


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