掌編「TRIGGER」1,097文字
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12月って好きじゃない。ハロウィンの後からクリスマスに切り替わった街の雰囲気は愈愈フワフワしてくるし、なんとなく息が苦しいし、寒いし。
あちこちで見たり聞いたりするCMのせいだと思う。シャンシャンという音楽、キラキラのイルミネーション、ふわりと舞う雪、暖かい飲み物、マフラーや手袋でもこもこしている男女、何となくときめきを予感させる演出、…。
クリスマスまでのカウントダウンを盛り上げようとする色んな演出は、なんだか逃げ出したくなる。
12月の私が、どうしてこんなに過敏になるのか、私自身もよく分からなかった。理由は分からないけれど、明確に12月が苦手だった。
何故か?何故か…。
*
12月24日。
仕事が終わり、いつものスーパーで適当に買い物をする。クリスマスイブのスーパーはもちろん賑わっており、惣菜やケーキのコーナーはまさに“灯滅せんとして光を増す”。息苦しさと若干の視界の狭まりを感じながら家に辿り着いた。
夕飯を作っていると、ちょうどカレーが出来上がる頃に彼が帰宅した。
付き合って一年ほどのリョウとはすぐに同棲をはじめた。ふたり暮らしは効率がよく、家賃も食費もそれなりに助かっている。
「おかえり~。ご飯できたよ」
「ただいま~。あっカレー?やったー」
「お米これくらいでいい?」
「あ、うん。さんきゅー」
何気ない、変わらない日常が心底好きだ。フワフワしない、いつもの日々が心地好い。
「あ、そういえば」
夕飯後、リビングのソファに座りテレビを見ていると、リョウがおもむろに玄関へ向かった。
何事かと様子を伺っていると、ガサガサと袋が擦れるような音と共にリビングへ戻ってきた。
「クリスマスなので、ケーキです!好きなの選んで」
仕事帰りに買ってきたらしかった。私は耳鳴りがしていたが構わず笑って「紅茶淹れるね」と言いながらキッチンへ立った。
ケーキは美味しかった。
けれどその夜、私は涙が止まらなかった。
*
12月25日。
カーテンを開けると窓の外が白い。雪が降っているようだった。
身震いをして広いベッドから出る。広いリビングは寒々としていたのでストーブを点ける。
カレーの入った鍋を横目に、広いキッチンで湯を沸かす。やたら沢山あるカップの中から今日の気分に合うものを選び、紅茶を淹れる。
広くて寒いリビングのソファに座っていると、両手で持ったカップの暖かさが何故か悲しかった。
「おなかすいたな」という独り言は広い部屋に吸われるように消えた。
カレーを温めながら今日は何をしようかと考える。外は雪だから、ひとりゆっくり家で過ごそうか。
それにしても寒いな。早く温まらないかな。
ていうかこのカレー、何日目だっけ。
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