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掌編「ペンネーム考察」862文字

「考えるの、けっこう楽しいですよね」

「そうだね。好み、というか性癖とも云うべき部分が垣間見えるところだ」

「けれど、あまり作り込むのは照れくさくて。夕食でも覗かれているような気分になります」

「奥ゆかしいんだね」

「ふっふっ」

漢字(ビジュアル)

「まず字面から発想するのは基本だね。好みの漢字やアルファベットなどを並べて、音はあとから考えると」

「本名を捩る、なんてのもアリですね。山田太郎さんなら石とか火とか馬とかをつけて岩畑駄廊とか」

「それも面白いね。本名によっては厳しい人もいそうだが」

「逆もできそう。氏家さんは糸と女をつけて紙嫁さんとか」

「それは逆になってないぞ」

「あら、ほんとだわ」

「太郎を太朗に変えるだけでも、だいぶん心踊るなァ。あとは、旧字や難しい漢字を使いたくなったり。画数の多い字は魅力的に見えたりするもんな」

「雲3つ、龍3つのアレとか」

「あそこまでいくと、電子媒体で変換が出来ないからな」

「そうですね。いまの時代、入力できないのは大問題です」

「適当なところでなんとか…」

「…薔薇?」

漢字(ミーニング)

「人名にはあまり使われない漢字に憧れたり」

「夜、霧、雨なんてのはけっこう人気かな」

「雨夜の霧。雰囲気すごく好きです」

「ギリギリ本名か分からないところで作るのもなかなか」

「音だけ残して意味で遊ぶ、なんてのも」

「夜未だ多労」

「ブラック企業に勤めていらっしゃる」

アルファベット

「英字は、個性を漂わせるのが難しいイメージです」

「そんなこともない。大文字か小文字かでも、印象が変わってくるぞ」

「すべて大文字だと、新聞見出しみたいになりますね」

「すべて大文字、私はけっこう好きなんだがな。ロゴマークぽくて」

「小文字だって可愛らしいじゃありませんか。小さくて丸っこくて」

「ごもっとも」

「…決めました」

「おっ、どんなのにするんだ」

「FRIDAY」

「フライデイ、金曜日…」

「週末への待ち遠しさを声高に叫ぶ私の気持ちを全面に推しています」

「土日休みで安心したよ」

「さっ、仕事しましょう、部長」

「そうだな。では新入社員研修を再開しよう」

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