掌編「放課後の自転車置場」1,111文字
『…このにおい、思い出す』
「お、桜子さんのお話。なんだ、どうした」
「あ、ちょっと待って、寒いからジャージ履くわ」
「コンクリに直に座るのやめな?内臓まで冷えるよ。冷えは大敵。そんなだから生理痛が重いんだよ。せめてサドルにしときな」
『…半分に折って、下唇と鼻の穴に引っ掛けると変顔できるじゃん、』
「あ、もう話し始まってんの?あたしにも1本ちょうだい」
「これ半分でも、けっこうな長さよ?」
『…教室でさ、昼休みに両鼻に引っ掛けて“鬼瓦”とか超ウケてさ』
「けっこう痛くない?フゴッ…わたしムリだわ」
『…楽しくやってたのに。あいつに見られちゃって』…スン
「え?泣いてんの?」
『…フラれた』ズズッ
「やだー、ハッピーエンドだと思ったのに」
「変顔で笑いとるような女は彼女にできないってか?あいつそんなタマだったのかよ」
『…ちがくて…さ…』ズビッ
「まあ落ち着きな?男って砂の数ほどいるんだよ?」
「でも、そんな理由?って思っちゃうわ。あんな心広そうなのになんで」
『…食べ物で遊ぶなって、めちゃ怒られた』
「古風!何だそれ、おじいちゃんかよ」
「心狭くない?」
「あいつだって、ココナ○ツサブレとかオ○オとか牛乳につけて食ってんじゃん」
「いや、おじいちゃんかよ!」
「へぇ。すごい、ちゃんとした人じゃんね。あんた、すぐ反省したんでしょ?なんでそのまま別れちゃったの」
『…なんか、これだけで?って思っちゃって、こういうすれ違いって後から大きくなったり…ズビッ…すんじゃん』
「思慮が深いな」
『…ポ○キー使って変顔しても、一緒に笑えるような人と幸せになりたいんだよわたしはッ』
「え、ちょっと待って。噂をすればナンチャラじゃん。あれ彼氏…、あ、もう元カレ…?」
「なんかこっち来るんだけど」
『…ヤバイ。逃げなきゃ』ズビビッ
「あ、ちょっと桜子!」
「あ、あの…、あれ?…ごめん、いま桜子いなかった?」
「さあ?何か用事?」
「あ、いや…。これ、渡しといてもらえるかな」
「じ○がりこじゃん、なんでよ。自分で渡しなよ」
「う…」
ガシャンガシャンッ
『痛っい!』
「待って、桜子やらかしたわ」
「ドミノドミノ!チャリドミノ!」
「規模がヤバイよ、みんなで手伝わんと」
「こりゃポ○キー1箱では割に合わんぞ」
「あんたも、じ○がりこ持ってないで手伝って!」
「…あ、うん」
ガシャン、ガシャン、ガシャン
『…あ、ごめんね、なんか。こんなことに付き合わせて』ズビッ
「いや…、俺こそごめん。言い過ぎたなって思って…」
ガシャン
「俺と、また付き合ってくれないかな…」
『…ぇ…』
「あっ、あれさ!じ○がりこのほうがやりやすいと思って買ってきたんだよね、短いし…」
『…ぅん』
「…桜子?」
『…うん。ごめん、ムリかな』
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?