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掌編「当然、夢であってほしい」651文字

二学期から転校した学校で初めて受ける期末試験、科目は社会科。

回答用紙は一学期末試験のものを継続して使うらしく、各自で持っているはずだと先生は言う。

一学期期末試験を受けていない転校生の私は、試験開始からずっと解答用紙を探して机を掻き回している。あるわけない。

この社会科、毎回の資料等の配布物をクリアファイル入りで準備してくれる授業スタイルで、なんと試験の問題用紙もご丁寧にクリアファイルに入れて配布された。

溜まりに溜まったクリアファイルの海から、私は何故かお目当ての解答用紙を見つけたが、蛇口に接続しないと使えないらしい。でも試験時間も残り少ないのでそのまま進めることにした。

最終問題の「得意な歌を無伴奏で録音する」を回りの生徒が着々と終え解答用紙を提出している。みんな途轍もなく歌が上手で個性があった。

2つ後ろの席は松○聖子で、別格だった。私は感涙にむせびながら白い解答用紙を埋めようとしているが、蛇口に接続していないので中々進まない。

社会科担当の先生が見回りに来て「今更ですけど解答用紙はこれで合っていますか」などと私が確認すると先生は「あ、そうです。間に合わなそうですね」と言った。つらい。

隣の席の大友康○が最終問題に取り掛かったので私は目を閉じ、座禅をした。

「先生、支給された上靴が左右で違うのですが」私と一緒に最後に残った学級委員長が手を挙げると、私の解答用紙は火を噴いて完成した。

私が解答用紙を提出すると、先生は驚いた顔をした。「これ、三学期の期末試験の内容ですね。さすが」

…はァ?先に言え。

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