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ともうしまう
2022年10月24日 07:28
東雲胡太朗と申します。家は代々、山で農業を営んでいます。農業といっても、街から少し離れた雑木林を拓いて自分らで食べる分の野菜や玉子、牛乳なんかを採る程度ですが、おかげでほとんど食費は掛かりません。学校へ通っていた頃は、毎日歩いて山を下りたり登ったりしていましたので、体力には自信があります。そんな生活だったためか、「うんこ仙人」と呼ばれていた時期もありました。……僕のこと、もっと知り
2022年10月24日 07:03
生きるために、命をいただく。晴れた日曜。庭で処理をしていると、息子が僕の背中越しに手元を覗いていた。やってみるか、と声をかけると激しく首を横に振った。気にはなるらしいが、近寄る勇気はないようだった。たしかに、鶏の首を落として皮を剥ぐ様子を見るのは、衝撃的な経験だ。しかも息子自身が世話を手伝ってくれたこともある鶏たちである。生きている様子を知っているから、余計に複雑な気持ちなのだろ
2022年10月24日 00:12
夜の山道は不気味だったが、酒に酔い高ぶった俺の頭はそれどころではなかった。今夜、あいつの大事なものを奪う。抑えられない衝動に、驚くほど身体が動く。山道なのに一気に駆け上がった。あいつの顔が思い浮かんで、どうにもじっとしていられない。家が見えてきたが、暗い。なんだ、誰もいないのか。ぐるりを家の回りを回る。古いが立派な家だ。時々現れる小屋から生き物の気配がする。この臭い、牛か?縁側
2022年10月20日 14:14
「あわ~っ」アキアカネが飛ぶ雑木林に声がこだました時、僕は昔を思い出した。●○●先に跳んだ父さんは、右半身が見事に糞まみれだ。まあ、父さんの運動神経からすると左半身が無事なのが不思議なくらいだが。東雲家の伝統「肥溜め飛び」。食うに困らない程度の収穫を願い、毎年収穫前のこの時期に肥溜めを飛び越える。地面を少し掘って木枠で仕切りをつける程度の簡素なものだが、今年の肥溜めはちょっと
2022年10月20日 14:11
肥溜めに入るのは慣れていたが、人を入れるのは初めてだった。がっちり抱えて逆さまに刺した。悲鳴のようなものを上げていたがどうにもならないと悟ったのか大人しくなった。肥溜めに頭を刺しているこいつは、鳴き声がうるさかったとの理由でうちの鶏をすべて殺した。悲しいかな、さっきまで一緒に飲んでいた幼馴染みだった。抱えていた手を離す。肥溜めから少し距離をとって腰を下ろし、突き出た脚を眺める。
2022年10月19日 14:45
ほろ酔い気分で山道をのぼり、家についた。街で飲んだのはいつぶりだろう。街でこんなに金を使ったのも久しぶりだ。今週は売る分の牛乳と、玉子も増やすか。家族は、ばあちゃんの本家に泊まるとかで、今夜は家に僕ひとりだ。縁側で飲み直すか。玄関を開けようとして違和感。鶏小屋のほうだ。なんだ、どうした。家の横を通り鶏小屋へ向かったが、縁側の前で、ギラと光るものが目に入り立ち止まる。縁側の戸が
2022年10月18日 12:43
「もうね、強すぎた。ほんと。あれはね、とにかくクサイ。そんでバイ菌だらけ。俺、自分のうんこですら無理かもしれない。もううんこ、したくない…」談:うんこの洗礼をうけてしまった会社員「良いところしかないですね。デメリットを感じたことはありません。まあ、恥ずかしいなっておもった時期もありましたけど、思春期でしたから(笑)祖父もよく言ってました。“うんこに捨てるところなし”って。うん
2022年10月15日 17:18
僕は昔、金魚を死なせてしまった。夏祭りでとった黒い金魚だった。お祭り金魚にしては大きく、親指ほどもあった。貧弱なモナカですくえたのは奇跡に近かったので、とても嬉しかった。興奮冷めやらぬまま持ち帰り、物置から金魚鉢を引っ張り出してきて水を溜め、金魚を入れて餌もやった。餌を食べる姿が面白くて、たくさんあげてずっと眺めた。4日目の朝、金魚は死んでいた。口から茶色いモヤモヤが出ていた。後から考
2022年10月12日 13:30
久々に集まった3人は、街の小さな居酒屋で飲み続けていた。思い出話は尽きない。かれこれ3時間である。「こないだ仕事帰りにさ、ガシャポン回しちゃったのよ。ウンコのやつ。懐かしくて」「あ、それ。あそこのスーパーのガチャガチャコーナーだろ?ピンクとか緑とかのやつ。俺もちょっと気になってた」「そうそう。そんで緑色ゲットですよ」ひとりが、ポケットから鍵につけた緑色のウンコを取り出した。「あれス
2022年10月12日 13:28
「いやー、成人式ぶり?」「お前は変わらんな」「みんなこっちにいたなんてな」街の小さな居酒屋で和やかに、3人の男はビールを呷りながら昔話に花を咲かせている。「お前ガキの頃、強運でさ~。覚えてる?レアな金のウンコ、一発だよ!あれはカッコよかったね」「あれな~。みんなは毎日挑戦してたのにな」「鮮やかよ!チョチョっときて、ガシャポンとやって。んで、そのまま帰んだもんな~」「なんか、あん時
2022年10月10日 23:09
蝉が少しおとなくしなった。夕方の縁側は、過ごしやすくていい。床の間のほうに寝返りをうつと、埃が積もった逆さまの金魚鉢が目に入った。逆さまの金魚鉢は埃よけで、中身は純金の塊だ。わが家では、金魚鉢を被せた金塊を床の間に置いているのだ。かなり無防備だが、わが家に侵入するなら人より狐や鹿や猪のほうが可能性が高いので金塊が置いてあったところで無問題だ。裏山の畑から出たこの金塊は、鑑定に出した
2022年10月9日 22:53
あだ名「うんこ」の僕が考える。東雲 胡太朗だから、小学生の頃は気づけば「うんこ仙人」と呼ばれていた。「仙人」は色々あってついたものだが、「うんこ」と呼ばれて虐められたとかは別になかった。更にあの頃は、駄菓子屋でウンコ系のものが流行った。金色ピカピカのウンコなど、レアでみんな欲しがっていた。中学にあがると、あだ名は「仙人」になった。「うんこ」が取れたのだ。以降、僕が「うんこ」と呼ばれ
2022年10月9日 21:45
休み時間に腕相撲をするのが流行っていたが、どうしても東雲胡太朗には勝てなかった。力が強すぎる。まるでチートだ。ほら、今日も、今日も負ける…。力と体力は敵無し。同年代で敵うやつはいなかった。ランドセルを背負った拍子に、右腕が痛んだ。左手で右腕をさすりながら、今日の勝負を思い返す。先ず、最初の反応は互角だった。なんなら、俺のほうが早かった。でも、その後すぐに逆転された。ガッチ
2022年10月8日 00:07
家のいちばん奥の座敷は、墨汁と新聞紙の匂いがした。丁寧に緩衝材に包まれ段ボールに入ったそれを見る父さんの顔は、じつに感慨深げなものだった。「よし、行っておいで」声に出してそう言い、慈しむように抱え玄関へと向かう。かなり大きいので、少しよろけた。手伝おうか、と僕は言ったが大丈夫だと言われた。父さんのこんな様子は見たことがなかった。僕は目を離すことができずに、黙ってついていった