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#雲胡物語

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東雲胡太朗という男を中心に描いた創作「雲胡物語」シリーズです。どこから読んでも大丈夫だと思います。https://note.com/tsumege153/n/n0494e6764…
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記事一覧

掌編「自己紹介うんこ」@爪毛の挑戦状

掌編「自己紹介うんこ」@爪毛の挑戦状

東雲胡太朗と申します。

家は代々、山で農業を営んでいます。

農業といっても、街から少し離れた雑木林を拓いて自分らで食べる分の野菜や玉子、牛乳なんかを採る程度ですが、おかげでほとんど食費は掛かりません。

学校へ通っていた頃は、毎日歩いて山を下りたり登ったりしていましたので、体力には自信があります。そんな生活だったためか、「うんこ仙人」と呼ばれていた時期もありました。……

僕のこと、もっと知り

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掌編「うんこ生きる」@爪毛の挑戦状

掌編「うんこ生きる」@爪毛の挑戦状

生きるために、命をいただく。

晴れた日曜。庭で
処理をしていると、息子が僕の背中越しに手元を覗いていた。

やってみるか、と声をかけると激しく首を横に振った。気にはなるらしいが、近寄る勇気はないようだった。

たしかに、鶏の首を落として皮を剥ぐ様子を見るのは、衝撃的な経験だ。しかも息子自身が世話を手伝ってくれたこともある鶏たちである。

生きている様子を知っているから、余計に複雑な気持ちなのだろ

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掌編「うんこ顔」@爪毛の挑戦状

掌編「うんこ顔」@爪毛の挑戦状

夜の山道は不気味だったが、酒に酔い高ぶった俺の頭はそれどころではなかった。

今夜、あいつの大事なものを奪う。

抑えられない衝動に、驚くほど身体が動く。山道なのに一気に駆け上がった。あいつの顔が思い浮かんで、どうにもじっとしていられない。

家が見えてきたが、暗い。なんだ、誰もいないのか。

ぐるりを家の回りを回る。古いが立派な家だ。時々現れる小屋から生き物の気配がする。この臭い、牛か?

縁側

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掌編「心うんこ」@爪毛の挑戦状

掌編「心うんこ」@爪毛の挑戦状

手の甲が痒い。
赤いプツプツは徐々に広がっていた。

最初から、そのつもりだった訳ではない。
いや、そのつもりだったのかもしれない。

幼い頃の憧れは、気づけば嫉妬に変わっていた。何でも持っているあいつが、羨ましかった。

足が速くて、力が強くて、運に恵まれていて、みんなに好かれていて、嫌味がなくて…。

久しぶりに飲んだら、あいつはあの頃から全然変わっていなくて、それが余計に自分を惨めに思わせた

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掌編「うんこアレルギー」@爪毛の挑戦状

掌編「うんこアレルギー」@爪毛の挑戦状

俺、自分のうんこすら無理かもしれない。
もううんこ、したくない…。

あの日以来、俺は重度の便秘に悩まされていた。夜も寝られないほどの腹痛。常に腹はパンパン。冷や汗をかきながら生活していた。

そんな俺だが、いまは病院のベッドにいる。身動きはとりづらいが腹は少し楽だ。

救急車で運び込まれたらしい。

職場で激しい腹痛に襲われ意識を失った。そして口から糞を吐いた。

想像するに、職場は阿鼻叫喚の光

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掌編「うんこゼロ」@爪毛の挑戦状

掌編「うんこゼロ」@爪毛の挑戦状

「あわ~っ」

アキアカネが飛ぶ雑木林に声がこだました時、僕は昔を思い出した。

●○●

先に跳んだ父さんは、右半身が見事に糞まみれだ。まあ、父さんの運動神経からすると左半身が無事なのが不思議なくらいだが。

東雲家の伝統「肥溜め飛び」。
食うに困らない程度の収穫を願い、毎年収穫前のこの時期に肥溜めを飛び越える。

地面を少し掘って木枠で仕切りをつける程度の簡素なものだが、今年の肥溜めはちょっと

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掌編「うんこ鬼」@爪毛の挑戦状

掌編「うんこ鬼」@爪毛の挑戦状

肥溜めに入るのは慣れていたが、人を入れるのは初めてだった。

がっちり抱えて逆さまに刺した。悲鳴のようなものを上げていたがどうにもならないと悟ったのか大人しくなった。

肥溜めに頭を刺しているこいつは、鳴き声がうるさかったとの理由でうちの鶏をすべて殺した。

悲しいかな、さっきまで一緒に飲んでいた幼馴染みだった。

抱えていた手を離す。

肥溜めから少し距離をとって腰を下ろし、突き出た脚を眺める。

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掌編「裸のうんこ」@爪毛の挑戦状

掌編「裸のうんこ」@爪毛の挑戦状

ほろ酔い気分で山道をのぼり、家についた。街で飲んだのはいつぶりだろう。
街でこんなに金を使ったのも久しぶりだ。今週は売る分の牛乳と、玉子も増やすか。

家族は、ばあちゃんの本家に泊まるとかで、今夜は家に僕ひとりだ。縁側で飲み直すか。

玄関を開けようとして違和感。

鶏小屋のほうだ。なんだ、どうした。

家の横を通り鶏小屋へ向かったが、縁側の前で、ギラと光るものが目に入り立ち止まる。

縁側の戸が

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掌編「うんこの悪いところ」@爪毛の挑戦状

掌編「うんこの悪いところ」@爪毛の挑戦状

「もうね、強すぎた。ほんと。
あれはね、とにかくクサイ。
そんでバイ菌だらけ。
俺、自分のうんこですら無理かもしれない。
もううんこ、したくない…」
談:うんこの洗礼をうけてしまった会社員

「良いところしかないですね。
デメリットを感じたことはありません。
まあ、恥ずかしいなっておもった時期もありましたけど、思春期でしたから(笑)
祖父もよく言ってました。“うんこに捨てるところなし”って。
うん

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掌編「うんこ道」@爪毛の挑戦状

掌編「うんこ道」@爪毛の挑戦状

僕は昔、金魚を死なせてしまった。夏祭りでとった黒い金魚だった。お祭り金魚にしては大きく、親指ほどもあった。貧弱なモナカですくえたのは奇跡に近かったので、とても嬉しかった。

興奮冷めやらぬまま持ち帰り、物置から金魚鉢を引っ張り出してきて水を溜め、金魚を入れて餌もやった。餌を食べる姿が面白くて、たくさんあげてずっと眺めた。

4日目の朝、金魚は死んでいた。口から茶色いモヤモヤが出ていた。

後から考

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掌編「うんこマイナス」@爪毛の挑戦状

掌編「うんこマイナス」@爪毛の挑戦状

久々に集まった3人は、街の小さな居酒屋で飲み続けていた。思い出話は尽きない。かれこれ3時間である。

「こないだ仕事帰りにさ、ガシャポン回しちゃったのよ。ウンコのやつ。懐かしくて」
「あ、それ。あそこのスーパーのガチャガチャコーナーだろ?ピンクとか緑とかのやつ。俺もちょっと気になってた」
「そうそう。そんで緑色ゲットですよ」

ひとりが、ポケットから鍵につけた緑色のウンコを取り出した。

「あれス

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掌編「うんこアイドル」@爪毛の挑戦状

掌編「うんこアイドル」@爪毛の挑戦状

「いやー、成人式ぶり?」
「お前は変わらんな」
「みんなこっちにいたなんてな」

街の小さな居酒屋で和やかに、3人の男はビールを呷りながら昔話に花を咲かせている。

「お前ガキの頃、強運でさ~。覚えてる?レアな金のウンコ、一発だよ!あれはカッコよかったね」
「あれな~。みんなは毎日挑戦してたのにな」
「鮮やかよ!チョチョっときて、ガシャポンとやって。んで、そのまま帰んだもんな~」
「なんか、あん時

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掌編「水槽のうんこ」@爪毛の挑戦状

掌編「水槽のうんこ」@爪毛の挑戦状

蝉が少しおとなくしなった。夕方の縁側は、過ごしやすくていい。

床の間のほうに寝返りをうつと、埃が積もった逆さまの金魚鉢が目に入った。

逆さまの金魚鉢は埃よけで、中身は純金の塊だ。わが家では、金魚鉢を被せた金塊を床の間に置いているのだ。

かなり無防備だが、わが家に侵入するなら人より狐や鹿や猪のほうが可能性が高いので金塊が置いてあったところで無問題だ。

裏山の畑から出たこの金塊は、鑑定に出した

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掌編「うんこって何だろう」@爪毛の挑戦状

掌編「うんこって何だろう」@爪毛の挑戦状

あだ名「うんこ」の僕が考える。

東雲 胡太朗だから、小学生の頃は気づけば「うんこ仙人」と呼ばれていた。「仙人」は色々あってついたものだが、「うんこ」と呼ばれて虐められたとかは別になかった。

更にあの頃は、駄菓子屋でウンコ系のものが流行った。金色ピカピカのウンコなど、レアでみんな欲しがっていた。

中学にあがると、あだ名は「仙人」になった。「うんこ」が取れたのだ。

以降、僕が「うんこ」と呼ばれ

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