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#ショートショート
掌編「十年パンイチ」@毎週ショートショートnote
今日で10周年だ。
重度のコミュ障なので、界隈の交流は一切してこなかった。何なら部屋から一切出なかったので誰に会うこともなかった。
しかし、今日という特別な日、避けてきた門をくぐる勇気が沸々とわいてくるのを感じた。
*
お越しいただきまして、誠にありがとうございます。どうぞこちらに。
本日担当させていただきます、クマズと申します。
始めにお伝えさせていただきますが、パンイチ界隈では、1
掌編「イケメン月餅」@毎週ショートショートnote
〉 けいちん
今日
ちょ、まじやばたすけて
おつ~
どした?
あそこの店員やばすぎてむり
帰り寄ったタピ屋?
ちゃう、五藤まんじゅう屋の。
あのヤバそうな人?
わたし史上一番刺さった。推し確定だわ
チャラかったよね~
フード被ってたしちょっとビビったわ
病んでそうな目とか最高じゃん?ピアスめっちゃ開いてた
よく見てんねw
黒マスクに気を取られて
気づかんかったわ
ダルそう
掌編「クリスマスカラス」@毎週ショートショートnote
彼女は、緑のクレヨンで何か描いている。
ひと通り塗り終えると、今度は赤で周辺を塗り始めた。
私は隣で缶ビールを飲みながら、その様子を眺めていた。
彼女のイメージがそこに出来上がったらしいが、私にはそれが何だか分からなかった。聞くとカラスだそうだ。
これ、鳥…か。
こういう事は思うだけで言わないようにしている。たぶん言っても彼女は怒ったり哀しんだりはしないが、気にすると思うから。
私が彼
掌編「穴の中の君に贈る」@毎週ショートショートnote
あたりは水浸しだ。
最後に残ったのはこの部屋で、他はみんな崩れてしまったようだ。
たぶんもう、この部屋のオレたちしか残っていないのだろう。
なおも水位は上がり続け、いずれこの部屋も沈んで崩れる。
なぜ上に逃げないのかって?そりゃ、逃げる場所があれば逃げるさ。ないから逃げない、逃げられないんだ。
自分の身体の何十倍もの水の塊がひっきり無しに落ちてくる状況を、キミは想像したことがるか?
こ
掌編「男子宝石」@毎週ショートショートnote
「進化した脳ミソのせいで滅びるって、あり得ると思うんだ」
その言葉に、僕は顔をあげた。
放課後の川原。いつもの土手。夕日を背に並んで座る僕らの間を、風が抜けていった。
彼の顔は、猫を見つけて「あ」と呟く時と同じくらい何気ない表情だった。本心から来た言葉なんだろう。
「人間って、なんなんだろうな」
「僕らは別れるべきって言いたいのか?」
彼が最近、何かを考えているような様子なのは気づいて
掌編「配信したがる餃子」@毎週ショートショートnote
「“餃子系男子”ってどうですか。パッと見では分からないけど中身は肉食系です、みたいな」
「それ、既に“ロールキャベツ系”としてあるね。外装がキャベツではなく小麦粉生地であるという意味付けがほしいところ」
「ماشاء الله!ロールキャベツなら外側は草、内側は肉。草と見せかけて秘めたるは肉。なるほどなァ」
「“ماشاء الله!”じゃねぇんだよ。考えろよ」
「小麦粉生地…。小麦は植物
掌編「バイリンガルギョウザ」@毎週ショートショートnote
「あ、新入生くん?ようこそ~」
「よ、よろしくお願いします!これ、地元のお菓子で…」
「お~謝謝!」
「감사합니다~」
「Merci!」
「ماشاء الله!ধন্যবাদ」
「…?」
「これは…?」
「お品書き。この中から1つ選んで」
「ひとつ…」
「そう。好きなやつ」
「…えと、じゃあ、…ピエロギ?で」
「おっけー、ポーランドね。ゴールデンウィーク明けに日常会話程度を目標
掌編「全力で推したいダジャレ」@毎週ショートショートnote
ダジャレでいつも連想するのは、ラップ。お皿に被せる透明なやつ、のことじゃなくYo!チェケ!のほう。
ダジャレって、呑み屋でおじさんが連発してるのを想像するとちょいダサな感じもするけど、其の実、同音異義語とか母音の一致とかに対してすごく敏感でないと生み出せないでしょ?言葉に対する強い執着が引き起こす奇蹟ともいえる…、いえない?そうか。
まあ、わたしの考えでは「ダジャレ連発おじさん」と「プロのラッ
掌編「立方体の思い出」@毎週ショートショートnote
「早く起きな~!園バス来ちゃうよ」
バタバタという足音が居間に近づいてくる。
「おっ、えらい。ひとりで起きてきたね。そのまま着替えもしちゃおっか!」
着替えを済ませテーブルにつく娘に朝ごはんを出すと私は、引き出しを開ける。
「今日はどれがいい?」
いくつかの髪留めを取り出し、娘に選んでもらう。黄色い丸にピンクのハート、青い星、木の四角に…。
娘が選んだのは木の四角だった。ゴムの両端に木
掌編「音声燻製」@毎週ショートショートnote
見たことのあるようでないような路地だった。
突き当たりは遥か彼方、頭上には、くすんだ赤だの青だの黄色だのの出窓がずらりと見えて空まではだいぶん遠かった。
吐いた息が白く広がる視界で、目的の窓を探す。窓枠はすべて緑色らしい。
それらしい窓の下で立ち止まり手にした松ぼっくりを投げると、兎のような生き物が顔を出した。
『こちらの?』「そう、それです」
いったん顔を引っ込めたかと思うと今度は身を
掌編「毒吐く南瓜」@毎週ショートショートnote
どうしてこんなに暑いのか。
仕事帰り、日が沈んだというのに歩くだけで汗が止まらない。
とりあえずスーパーに寄る。
ヒートアイランド現象も相まって、今夏の気温はいよいよ耐え難い。
こんな気温だが、お盆が過ぎるとアウトドアコーナーがハロウィンコーナーに変わった。
一年中、何かしらに備え続けるイベント商戦も大変だなと思う。それが終わったらすぐにクリスマスだろ?
黒とオレンジ色が暑苦しいが、そ
掌編「告白雨雲」@毎週ショートショートnote
小学生の頃、自分の名前について親にインタビューする宿題がでたことがあった。
「おまえが生まれた日は、すごい雨だったんだ。母さんの陣痛がきて、病院に移動する間に見た真っ黒い雨雲が忘れられないよ。ずっと降ってたなぁ」
「陣痛が進むにつれて、雨も強くなったのよね」
僕の名前には「雨」という字が入っている。
珍しいね、と尋ねられることが多く、その度にあの宿題を思い出しながら由来を話した。
大学の研