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ブルックナーの合唱曲の魅力-ブルックナーのAve Maria

 ブルックナーは、今でこそ交響曲作曲家として知られているが、生前は多かれ少なかれ「交響曲の制作に(大変失礼ながら無謀にも)挑戦するオルガニストないし教会音楽家」として認知されていたに過ぎない。
 晩年に至ってようやく一部の交響曲作品が(友人や弟子たちの心尽くしの、あるいは行き過ぎた支援介入改ざんによって)聴衆に受け入れられていったが、ブルックナーの(オリジナルの)交響曲の全体像は、作曲者自身の死を迎えてなお依然として不明瞭なままであった。

 本人の死から三十年ほど経過した1920年代、ブルックナーの(オリジナルの)交響曲への再評価の動きが急加速する。
 1929年には国際ブルックナー協会が設立され、オリジナル作品全集(旧全集)の刊行の方向性が示される。そして1930年代以降、彼の交響曲はますます世に知られるようになっていく。
 録音技術の進歩やラジオ放送の広がりもそれに拍車をかけたし、例の国家社会主義による文化政策(プロパガンダ)も影響した。

 一方で、ブルックナーが生涯にわたって絶え間なく手がけた作品ジャンルは、まぎれもなく「声楽曲」であった。残されている作品の半分以上は声楽曲であり、そのほとんどが合唱曲である。
 今回、ブルックナーファンのみならず、合唱ファンにもおすすめの名曲を三つ紹介する。

1.Ave Maria [WAB6](1861年)

 ブルックナーのアヴェマリア。
 揺るぎない楽曲構成のうちに合唱のハーモニーの魅力が詰まった三分半である。

2.Os Justi

 スーパーアカペラ集団によるブルックナーの《Os Justi》。
 19世紀の宗教音楽ジャンルにおいては、グレゴリオ聖歌パレストリーナの様式への回帰運動(チェチリア運動)が散見される。
 中世ルネサンスの音楽に対するブルックナーの真摯なリスペクトはこの曲に見事に結実した。
 ブルックナーの合唱曲を代表する傑作である。

3.Tantum ergo [WAB42](1888年)

 明朗快活なブルックナー。
 率直に言って「こんなに聞きやすい曲もあったのか!」という感動さえ覚える佳作。

 交響曲だけにとどまらないブルックナーの魅力はひとえに合唱曲に開花する。