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ねむねむの森 第五章

(五)

リーシャ村へしゅっぱつするじかんまで 
まだたっぷりあります
みんなはなにをしてすごしているのでしょう

鳥さんたちは
カラスくんがリーダーになって
うみちゃんのベッドをあんぜんにはこぶための
大きなカゴをつくっています

コンドルのおかみさんは
うみちゃんを森でいちばん大きな池につれてきました
ねむねむさんと
あなほりふくろうさんもいっしょです

池のおくには小さな山があって
その山の真ん中あたりから水がながれています
その水は小さな川になってこの池につづいています
池のまわりには赤い花 白い花 黄色い花 紫の花
あまいかおりのする木のみ すっぱいかおりのする木のみ
そして
そのみをたべにきたり 池の水をのみにきた
どうぶつさんたちがたくさんいました

うみちゃんの大きな目が
もっと大きくなって
きらきらとおどろきのかがやきでいっぱいになりました
「うわぁ〜
こんなに大きな水たまり
こんなにたくさんのどうぶつさんたち
はじめてみたぁ〜」

うみちゃんの大きな声に
どうぶつさんたちがいっせいにかおをあげ
うみちゃんをみて
草をたべていたうさぎさんが
「こんにちはかわいいにんげんさん」といい
ものしりのきつねさんが
「きみがうみちゃんだね」といい
赤ちゃんくまに木のみをあげていた大きなくまさんが
「ようこそ ねむねむの森へ」といい
池の水をのんでいたツノの大きなしかさんが
「この水はおいしいよ」といいました

ほかにもそこにいるどうぶつさんたちがみんな
うみちゃんにあいさつをしたので
その声がつたわって 池の水がふるふると大きくゆれました

「わぁどうぶつさんたち
こんにちわ!
こんなに大きな水たまり
うみははじめてみたよー!」
「うみちゃん
ここは『きらきら池』っていうんだよ
ほらむこうに山から水がながれているのがみえるだろう
やまにふった雨があそこからあふれて川になって
このきらきら池にたまるんだよ
だからこの水はおいしいだけじゃなくて
からだにもとってもいいんだよ
うみちゃんものんでごらん」

コンドルのおかみさんに言われて
うみちゃんは小さなてで池の水をすくってみました
きらきらとってもきれいです
ごくり
とのむと お口から のどをとおって
おなかぜんたいに じわ〜と水がひろがるのがわかりました
「うわ〜おいしい〜」
うみちゃんの声に そこにいたどうぶつさんたちもニッコリしました
「3じのおやつのじかんになったら
ここでみんなでおやつにしよう しゅっぱつはそのあとさ
それまでゆっくりあそんでおいで」
というと
コンドルのおかみさんはバサバサっと
とんでいきました

うみちゃんはコンドルのおかみさんをみおくると
ねむねむさんとあなほりふくろうさんにいいました
「あの山に行ってみたい!」

ねむねむさんは
うみちゃんがそういうだろうとわかっていました
うみちゃんはぼうけんが好きで
いちど言ったことはぜったいにやる女の子だってことに
きがついていました
だからすぐそばでお水をのんでいたしかさんに
「しかさん
ぼくたちを山につれていってくれませんか?」
とおねがいしました

「もちろん いいですよ
こんなにかわいい小さなにんげんさんを
山につれていってあげられるなんて
とってもうれしいことです
そういえば亀のじいさんが昔ばなしで
にんげんの女の子の話をしていたっけ」
としかさんは言って
うみちゃんがせなかにのりやすいように
足をおりまげてすわってくれました

しかさんのせなかにすわったうみちゃんの前には
ねむねむさんがすわっています
あなほりふくろうさんは
ちいさな虫さんたちとのおいかけっこにむちゅうです
ねむねむさんは大きな声で
「あなほりふくろうさーん
ちょっと山までいってくるからねー」
と声をかけました
「ホホホーイ
いってらっしゃーい」
と こっちをむかずにはしりながら
あなほりふくろうさんはこたえました

「ではいきますよ!
しっかりつかまっていてくださいね」
というとしかさんはかろやかにはしりはじめました

「うわうわうわー
村のおにいちゃんの肩ぐるまよりはやいはやいはやーい」
しかさんのつのをぎゅっとにぎって
うみちゃんはさけびました
その声をきいていろんなどうぶつさんたちの笑い声が
聞こえてきました
みんなうみちゃんがこの森にきたことがうれしいのでしょう
小さいにんげんさんのことが好きなのは
太陽さんだけではないんです
このとき
「こんにっちわっはっは〜」
とあさよりもさらにあっつい太陽さんの声がしました
「うみちゃんうみちゃん
ききましたよ〜 
今日はずーっとわたしがでていますから
村にかえるまでこの森でめいいっぱいたのしんでくださいね〜」

「ありがとう!太陽さーん」
とうみちゃんがおへんじしたときには
しかさんは山のうえにとうちゃくしていました
そこには大きな木のかわりに
大きな岩がごろごろたくさんありました
その岩のごろごろのなかから白いゆげがもくもくふわふわでています
ふしぎそうにみつめるうみちゃんに気がついたしかさんは
「あそこにはあたたかい水がでてくる池があるんだよ」
とおしえてくれました
しかさんはうみちゃんとねむねむさんをのせたまま
そのゆげのでている岩のところまでいきました
もわ〜っとふしぎなにおいがうみちゃんのはなをくすぐります
(なんだろう ゆでたまごみたいなにおいだなぁ)

ゆげのもわもわの中からなにかがこちらにやってきます
「おやおや そこにいるのは
小さなにんげんさんだね
ようこそねむねむの森へそしてこの山までよくきたね」
あらわれたのは大きな亀さんです

「亀のじいさん こんにちは
このこはうみちゃんっていってゆうべリーシャ村からきたんだって
3じのおやつのじかんのあとにふくろうさんたちがリーシャ村までおくってあげるんだって
それまでのあいだ
山に行ってみたいっていうからつれてきたんだ」
としかさんがせつめいすると
亀のじいさんはうんうんと首を大きくふって
「むかーしむかし
長老ふくろうといっしょにあそんだおんなのこにそっくりだね
このなつかしいにおいはそのおんなのこのかぞくにちがいない」
となつかしそうなやさしい目をうみちゃんにむけました

「亀のおじいさん こんにちわ うみです
亀のおじいさんもわたしのおばあのことを知っているんだね
おばあもこの森であそんだことがあったのね
うみもこの森のことが大好きになったよ
ところで このもくもくゆげがでている池はなあに?」

「うみちゃん この池はね
むかーしからここにあって
池のそこからぷくぷくとあたたかい水がわきでてくるんだよ
のむととってもしょっぱいけど
このなかにからだをいれると とってもきもちがいいんだよ
そこの岩にすわって 足をいれてごらん」

亀のじいさんがいうとおりに
うみちゃんは岩にすわってりょうほうの足をぽちゃんと池にいれました
あたたかい水がうみちゃんの足をつつみこみます
りょうほうの足がじわじわとあったかくなって
とってもいいきもちです
おかあさんがねるまえにいつも
足をさすってくれたことをおもいだしました
「うみちゃん
きもちがいいじゃろ
からだをあたためることはとってもいいことなんじゃよ」
ととなりで亀のじいさんがいいました
よーくみると
このあたたかい水のまわりにはなんびきかのどうぶつや
鳥さんたちもいて
水のなかにからだをしずめているどうぶつさんもいます
「この池はね 
からだをげんきにするちからがあるのじゃよ
ねむねむの森のどうぶつたちはみんなげんきなんじゃが
ときどきケガをしたりくたびれたりしたものたちが
ここへきてからだをやすめるんじゃ
しろいけむりでまわりもよくみえないから
ひとりでしずかにすごすにはさいこうのばしょなんじゃよ」

そのときすわっているうみちゃんのあしの上をにょろにょろっと
なにかがとおりました
「きゃっ」
とうみちゃんが小さくさけぶと
そのにょろにょろはささっととおりすぎ
亀のじいさんの足にこつんとぶつかりました
「なんじゃい 白ヘビのばあさん
きょうはずいぶんはやいお目ざめじゃの
さてはばあさんもこのうみちゃんのにおいに気がついたのじゃな」
「そうですよ そうですとも
あのなつかしい小さなおんなのことおんなじにおいがしたんですもの
ねていられますか
でもわたしは目がよくみえないから
どうやらそのこの上をとおってしまったみたいだね
ごめんなさいね」
うみちゃんは
亀のじいさんのよこであたまをもちあげている
ちいさな白いヘビをみつめました
(このへびさんもおばあを知ってる
目がよく見えないんだ)
「白ヘビのおばあさん
ちょっとびっくりしたけど だいじょうぶ
こんにちは わたしはうみです
みんなが知っているおばあはわたしのおかあさんの
おかあさんのおかあさんのおかあさんなの
おばあもこの森であそんだことがあったんだね」
白ヘビのばあさんはくるくるっとからだをまるめて
うれしそうにあたまをふりながらいいました
「おもいだしたおもいだした
はなちゃんというなまえのおんなのこ
いまのうみちゃんとおなじくらいのときによくこの森にきて
わたしたちと遊んでいたよ
あのころはにんげんたちもこのあたたかい池にきていたねえ
はなちゃんはいつも
わたしを肩にのせて かけっこをしたり
木にのぼったり 川をおよいだり おひるねしたりしていたねえ
なつかしいねえ
わたしたちはいっつもいっしょだった」

そのとき カラスくんがやってきて
「カァカァ うみちゃーん
うみちゃんはいるかーい
もうすぐ3じのおやつのじかんだよ
コンドルのおかみさんの
おいしいおやつがまってるよ
たべたらしゅっぱつだよー
カァカァ」
と しらせにきてくれました

それをきいた亀のじいさんと白ヘビのばあさんは
「たべたい!」
とどうじにいいました
しばらくすると大きなふくろうのわかものがとんできました
「亀のじいさん
長老からいわれてむかえにきましたよ
長老はいまおひるねしているけど
おやつをたべたらもみの木によってくださいっていっていましたよ」

「ホホホホ
あいかわらず 長老はするどいねえ
亀のじいさんを山からおろすのは
ちからもちのふくろうさんしかできないからね
わたしはうみちゃんの肩にのっていくとしましょうかね
うみちゃん いいかしら?」

「白ヘビのおばあさん
もちろん もちろん どうぞどうぞ」
うみちゃんは
こんなにもたくさんのどうぶつさんたちが
おばあのことを知っていてくれて
うれしくてうれしくて 
はやくおばあにはなしてあげたいと思いました

山にのぼってきたときとおなじように
しかさんのせなかにすわって
ねむねむさんと白ヘビのおばあさんといっしょに
きらきら池までもどりました
そこにはたくさんのどうぶつさんたちがあつまっていました
ねむねむの森では
まいにち3じになるとおやつのじかん
コンドルのおかみさんがつくるおやつを
みんながたのしみにしています

きょうのおやつは
木のみをたーっぷりつかったとくせいのケーキです
赤色の太陽のみ
黄色のおはようのみ
オレンジ色のすっきりのみ
がたっぷりのっています
中のクリームはミルクの木のみをつかったヨーグルトクリーム

白ヘビのばあさんと亀のじいさんは
ひさしぶりのおやつに大よろこびしています
きらきら池のまわりには
森中のどうぶつたちがあつまって
わいわい楽しそうにおしゃべりをしています

コーヒーの木のみをもってきたふくろうさんが
とびながら「コーヒーはいりませんかー?」ときいてまわっています
シュワシュワの木のみをもってきたくまさんは
大きな声で「シュワシュワをのみたきゃここにおいでー!」
とさけんでいます
そのくまさんの声よりもいちだんと大きな声がひびきます
コンドルのおかみさんの声です
「はいはいはーい!
みんなきいておくれー!」
きらきら池のまわりはいっしゅんでしずかになりました
「きょうのおやつのじかんはとくべつだよ
これからここにいる小さなにんげんのうみちゃんを
リーシャ村までおくりとどけるんだ
そしてうみちゃんをてつだうために
ねむねむさんとあなほりふくろうさんとカラスくんが
しばらくこの森をはなれるんだ
どうかぶじにリーシャ村までいかれるように
うみちゃんをたすけてしっかりおしごとができるように
みんなでねがっておくれよ」
コンドルのおかみさんが目になみだをためながら話しおわると
「いってらっしゃ〜い げんきでね」
「しっかりはたらいてこいよ〜」
「だいじょうぶだいじょうぶ」
「はやくもどってきてね〜」
「おみやげおねがいね〜」
と うみちゃんたちにむけて いろんな声がとびかいました

うみちゃんは
(みんなやさしいな〜いい森だな〜)とおもいながら
となりのねむねむさんをみると
ねむねむさんは目から大きななみだをながしていました
「ねむねむさん だいじょうぶ? どこかいたいの?」
と声をかけたうみちゃんを見上げたねむねむさんは
大きななみだをぽろぽろながしながら
「だいじょうぶ だいじょうぶ
どこもいたくないよ これはうれしいなみだだよ
このなみだが勇気にかわることをぼくは知っているから
だいじょうぶ だいじょうぶ」
とにっこり笑いました


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