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ねむねむの森 第四章

(四)

大きなもみの木さんの下のほうの枝にとまって
コンドルのおかみさんは
「長老さん 長老さん」
と声をかけました
すると       
木にあいている大きな穴から ぬーっと顔をだしたのは
大きな大きなしまふくろうのおじいさんです

「フォッフォッフォッフォ
なんじゃい なんじゃい
あさからわしをよぶのは コンドルのおかみさんかい
フォッフォフォッフォ
けさは鳥さんたちが元気に働いておるのう」
しまふくろうの長老は
おもしろそうに笑っています
「長老さん
おねがいがあるんですよ きいてもらえますか?」

「フォッフォッフォ
もちろんじゃとも いってごらん」     

コンドルのおかみさんは
うみちゃんのことと
木のつるでつくったかごのはなしをして
ちからもちのふくろうさんたちに手伝ってもらえないかおねがいしました

すると
長老ふくろうはおどろいたように
「おやおや 
みるくの木の下に『つれてきた』うみちゃんは
もうそんなに有名人になったのじゃな
フォッフォッフォッフォ  
さては これは
きっとそうじゃ
太陽さんのしわざじゃな
フォッフォッフォッフォ」
と言って また楽しそうにわらいました

「長老さん 長老さん
うみちゃんを『つれてきた』って どういうことです?」
とコンドルのおかみさんは おどろいてききました

「フォッフォッフォ
そうじゃな 
リーシャ村とわしのことを 
みんなにはなしておこうかの
コンドルのおかみさん
すまんがもうひとっとびして 
みんなをこのもみの木さんのところにあつめてもらえんか
すまんのう わしはここからでることはできんのじゃよ」

ねむねむの森のなかで一番大きなもみの木さんのまわりは
ひろばのようになっていました
もみの木さんの一番下の枝は大きくひろがって
ひろばの屋根のようです
太陽さんの光が何本もすじになって差し込んでいて
葉っぱのあさつゆがキラキラとてもきれいです

コンドルのおかみさんにつれられて
鳥さんたち あなほりふくろうさん ねむねむさん 
そして うみちゃんも
やってきました
なんと ねむねむさんは うみちゃんの肩にちょこんとすわっています
そう ねむねむさんはとってもかるいんです   

「長老さん おはよう」
というねむねむさんの声につづいて

「おはよう」
「おはよう」
と鳥さんたちのおはようの歌がはじまりました

長老ふくろうは ばさり と羽をひろげました
なんて大きいんでしょう
なんてきれいなんでしょう
なんてあったかいんでしょう

うみちゃんはなつかしいおじいちゃんのひざのうえにすわって
おひげをさわっているような気もちになりました
「おはよう 長老ふくろうのおじいさん
わたしは うみです」

「フォッフォッフォッフォ 
うみちゃん おはよう
ようこそ ねむねむの森へ
フォッフォ
ずいぶん大きくなったのぉ
かわいくてしっかりもののかおをしておる
おばあのちっちゃいころにそっくりだわぃ
なつかしいのぉ」

それをきいたうみちゃんは
(この長老ふくろうさんまでおばあのことをしっている
わたしのこともしっているみたい
それにさっきあるいてきた小道の楽しかったこと
この森はいったいどんな森なんだろう)

まだ夢のつづきにいるような
ふわふわどきどきわくわくのきもちで長老のことばをまちました
大きな羽をとじて
長老ふくろうは はなしをつづけます
「うみちゃんのおばあとわしはむかしからの友だちなんじゃよ
それはそれはずーっとむかしの大むかしじゃ
おばあはかわいくてつよい女の子じゃった
フォッフォ
そうじゃそうじゃ
うみちゃんはほんとうにおばあにそっくりじゃよ

ゆうべ水さんが大きな口をあけたじゃろ
そのすこしまえに
おばあがわしを呼んだんじゃ
わしとおばあは会わなくても心で思うだけで話ができるからのぅ
フォッフォ

おばあは
(こんどの水さんは今まででいちばん大きく口をあけるだろう)
といったんじゃ
それから
(水さんが村まできたら大変じゃ
むらの中で たったひとりの子どもの うみちゃんをまもりたい)
ともいったんじゃ

わしもおばあのように
こんどの水さんはずいぶん大きく口をあけるだろう
もしかしたら このねむねむの森にもやってくるかもしれん
とかんじていたから
おばあに 
(この森もあんぜんかどうかわからんぞ) 
と言ったんじゃ
そしたらおばあは
(森まではいかないわい 
だいじょうぶ 
みるくの木の下にうみちゃんをはこんでおくれ)
と いうもんじゃからの
ちからがつよくとぶのもはやい ふくろうたちにたのんで
ねているうみちゃんを ベッドごとこの森まではこんできたんじゃ

ひとばんたって
この森はだいじょうぶだったが
リーシャ村のまわりには池ができてしまったのお
だいじょうぶ
おばあも村のみんなも元気じゃ
でもみんなおおあわてじゃわい
リーシャ村のわかものたちはみんな東のまちへはたらきにでておるから
もどってきて池をわたるためにふねをつくったりはしをつくったりするのに
何日もかかるのお

おばあからは
ねむねむの森にいればあんしんじゃから
しばらくうみちゃんをよろしくといってきたんじゃが

うみちゃん
おばあがもどっておいでというまで
しばらくここでねむねむさんたちといっしょにすごしなされ」

「いやだ! うみはかえる!」

うみちゃんは
長老がはなしおわるかおわらないかのところでさけびました

「うみはかえりたい!
おとうさんやおかあさんのおしごとをてつだうことはできないけど
おばあのそばにいることはできるから
おばあにおうたをうたったり おばあにもうふをかけてあげたり
お花をつんできてあげることもできるから」

「フォッフォッフォッフォ
うみちゃんはおばあがおもっとるよりずーっとずーっと
しっかりしとるわい
それに
おばあのちっちゃかったころにほんとうにそっくりじゃわい
そうじゃのぉ      
おばあもほんとうはさみしいじゃろう
よし
では3じのおやつのじかんまでこの森ですごすといい
そのころにははやおきのふくろうたちがおきてくるから
うみちゃんをベッドといっしょにリーシャ村までおくりとどけよう
そうじゃなぁ
ねむねむさんとあなほりふくろうさんもいっしょにいくかい?」

長老ふくろうはいいました

あなほりふくろうさんは
「オイラはえさがあるところならどこへでもいくさ
はしることもとぶこともできるから
うみちゃんのおてつだいだってできるよ」
とうれしそうにいいました

そのとき「ぼくもいっしょに行ってもいいですか?」
と声をあげた鳥さんがいました           
長老のはなしをしずかに聞いていたカラスくんです
あなほりふくろうさんのことばを聞いて
たまらず声をあげました

「フォッフォッフォ
カラスくんが行ってくれたらさらにあんしんじゃの
コンドルのおかみさん どうじゃろ?」

「う〜ん そうですねぇ
カラスくんがいないと わたしはちょっとこまっちゃうけど
いえいえ わたしもカラスくんばかりにたよっていたらいけませんね
こんかいはいつもおせわになっているリーシャ村のたいへんなときですから
みんなでおてつだいをしましょう
カラスくん 行ってらっしゃい!」

「コンドルのおかみさん ありがとうございます」
カラスくんもうれしそうです

そんなやりとりを聞きながら
ねむねむさんはちょっともじもじして 
ふあんそうです
「ねむねむさんはどうじゃな?」
と長老ふくろうがきくと
ねむねむさんは小さな声でいいました
「長老さん ぼくになにができるのでしょう?
ぼくはちっちゃいし ちからもないし はやくはしることも
そらをとぶこともできません
いまだって うみちゃんの肩にすわってここまできました」

長老ふくろうは また羽を大きくひろげていいました
「フォッフォッフォッフォ
しんぱいせんでいいんじゃよ ねむねむさん
じつはの
ねむねむさんだけがもっているすごいちからがあるんじゃよ」  

「ぼくだけがもっているすごいちから!
長老さんそれはなんですか?」
ねむねむさんははじめてきくことばに
むねがわくわくしました
長老ふくろうははなしをつづけます
「それはの
ねむねむさんのすがたは
大きいにんげんたちの目にはうつらないってことじゃよ
目にはうつらないんじゃが
ねむねむさんは
大きいにんげんたちがねているとき
こころにかたりかけることができるんじゃ
リーシャ村へ行ってごらん
そうしたら きっと
じぶんのちからにきがつくじゃろ
フォッフォッフォッフォ」

長老ふくろうはさいごにまた
楽しそうにわらって大きな羽をひろげました
ひろげた羽は二メートルくらいあって
とってもあったかい いいにおいがします

『大きいにんげんたちにはみえないけど
ねているときにこころにかたりかけることができる』
(ぼくだけにあるちからなんだ)
長老ふくろうのことばは
ねむねむさんのちょっとふあんなこころに
なにかとっても大きな たからばこのようなものを
おいてくれました
「長老さん
ありがとう
ぼく なんだかほっとしました
ぼく なにかできる気がします
ぼく うみちゃんといっしょにいきます」

「フォッフォッフォッフォ
行っておいでねむねむさん」
そういいながら大きな羽をとじた長老ふくろうは
穴の中にもどっていきました

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