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歩いて行けるところがいいんだけど(別居嫁介護日誌 #60)

スポーツクラブ通いを再開したい。できれば、社交ダンスにもまた通いたい。

義父がひそかにそんな願いを抱いていたことを、もの忘れ外来の定期受診で初めて知った。頭ごなしに無理だとは言いたくない。でも、現実問題としてそんなことが可能なのか。そもそも、応援していい野望なのか、やんわり方向転換を促すべきことなのか。どうリアクションすればいいのか、皆目見当がつかない……というのが正直な気持ちだった。

「社交ダンスがお好きなんですね。まずはダンスを安心して踊れるまで体力をつけることにしましょう。いきなり無理をして、ケガをしてもつまらないですから」

医師は義父に向かって、そう説明した後、私のほうに向き直り、「ケアマネさんに相談して、運動を重視したデイサービスを探してもらってください」と言った。

もっと運動したいという本人の希望は尊重しつつも、行き先は運動重視型のデイサービスというのは既定路線。義父も「先生がそうおっしゃるなら……」と、不承不承ながら受け入れた様子だった。

もの忘れ外来の受診後、ケアマネさんに連絡をとり、要望を伝えると早々に、いくつかのデイサービスをピックアップしてくれた。いずれも、半日だけ通うタイプで、理学療法士など専門家の指導のもと、運動療法を受けられるというもの。まずは見学に行き、気に入ったところを選ぼうという話になった。

これまでのデイ通いを続けながら、さらに運動重視型のデイサービスを週1回あるいは週2回増やすという想定で、当初は義父だけが通うという腹づもりだった。

ところが、いざ見学に行く段階になって、唐突に「私ももう少し運動したいわ」と義母が言い出す。さんざんデイには行きたくないと言っていた義母だが、置いて行かれるとなるとそれはそれで面白くないらしい。

こちらとしては、義母も一緒に行ってくれるなら大歓迎。ひとりで家にいると、ふとした瞬間に不安になり、「夫がいなくなった!!!」と探しに行き、迷子になることもありうる。ふたり同時に、同じ場所に出かけてくれるほうが安心だったりもするのである。

早々に「では、一緒に見学に行きましょう!」とセッティングし、実際に見学にも行った。

半日デイは、これまで通っていたデイケアとはまた趣が異なり、こじんまりとしたスポーツクラブのようなイメージで、参加者がそれぞれ屈伸運動をしたり、器具を使ってマシントレーニングをしたりと、さまざまな運動を試みている。

もともとスポーツクラブを再開したかったぐらいなので、義父はマシントレーニングに興味津々。今すぐにでも参加したいぐらいの意気込みで、見学していた。

問題は、義母である。

「悪いところじゃないとは思うんだけれど、ちょっと家から遠いわよね」
「歩いて行けるぐらいのところがいいんだけど」
「ほかにもっといいところがあるんじゃないかしら」

やんわりと遠回しながら、「やっぱり行かない」という選択肢に誘導しようとする。ご本人が行きたくないだけならまだしも、「自分が行かないなら夫にも行って欲しくない」という思惑が透けて見えるのである。これはウワサに聞く、“嫁ブロック”というやつではないか! 

そもそも、歩いていける場所に、こうした施設は存在しないし、送迎が基本なので、歩いて行ける距離だとしても、徒歩参加になるとは考えにくい。ただ、そんなことを説明しても、聞き流されるか、ムッとされるのがオチというのがまた悩ましい。

そうこうしているうちに義父が風邪を引き、結論は先送りせざるを得なくなってしまった。ガッデム!

さらに追い打ちをかけるように義姉から
「半日デイの見学に連れて行ってもらって疲れちゃったかな? という気がしないでもありません」というLINEメッセージが届く。「新しい場所に行くのが、私たちの想像以上に神経を使うのかもしれません」とも書かれていて、解釈に迷う。

だから、行かせたくないという話なのか、他意はないのか……。おそらく、悪気もないし、他意もない。そう、うっすらと当たりはつけつつも、悩ましさは募るばかり、なのである。


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