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2021年度に観たライブ 前編

新型コロナウイルスの影響で、それが流行し始めた2020年は、ほぼ全てのイベントが中止になるという事態に見舞われた。ライブハウス内でクラスターが発生したこともあり、音楽ライブなどはかなり腫物扱いされていた印象だ(少なくとも当時の職場内ではそうだった)。

しかしアーティストやそのスタッフ、会場の人たちによる尽力のおかげで、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が続く2021年は、様々な制約があったとはいえ、好きなバンドのライブにたくさん足を運ぶことが出来たのだった。僕もライブのおかげで日々のモチベーションを保てているところが大きいので、これは本当にありがたいことだ。

僕が2021年度に参戦したライブは24本。有料の配信ライブを合わせると、25本になる。僕は4月に田舎から上京していろんなライブに行くようになったので、その本数を数える時は、4月からの「年度」単位で括るようにしている。

今回は2021年度に観に行ったライブの中でも、特によかったものを何本かまとめていこうと思う。長くなりそうなので、前編と後編に分けます。

2021.5.30 
the pillows
『RETURN TO THIRD MOVEMENT! Vol.3』
高崎 club FLEEZ

the pillowsのバンド活動における所謂「第3期」を、過去のアルバムを振り返ることで再現するライブツアー。Vol.1は2017年、Vol.2は2018年に開催されたので、今回は久しぶりの開催となった。

同年の3月に初めて告知がされたのだけど、その時のツイッターでの盛り上がりはすごかったな。平日の昼間なのに、タイムラインがメチャクチャ速い。関東圏内の3本を抽選で申し込み、僕は第2希望の高崎公演が当選した。

群馬に来ること自体も初めてだったので、観光も兼ねて10時くらいに高崎駅へ着く。バスに乗り継いで榛名湖に行ったりした。

そして夕方にライブハウス・フリーズへ向かう。今回はアルバム『Smile』と『Thank you, my twilight』にスポットを当てた再現ライブだ。ここでしか聴けない(かもしれない)レア曲がたくさんあって、内容が分かっていても楽しみだった。

フリーズはPAのうしろ側にも立見スペースがあり、ラッキーと思ってそこに立った。ここのところ、ライブでは無理に前列へ行くよりも、うしろ側でステージ全体を眺めたい派になった。バンドそのものやステージの照明、お客さんの盛り上がり具合もまとめて観られておいしいと思う。

ピロウズを最後に見たのは、2020年2月に下北沢での有江さんバースデーイベントの時だ。ちょうどコロナが流行り出した時期で、これ以降しばらくライブに行けない日々が続いたのだった。

1年以上ぶりのピロウズは、とても自然体だった。スタートして湧き上がったのは高揚感よりも、ある種の安心感だったように思う。おおピロウズだ、無事だったんだな、よかったぜ…みたいな。そういう気持ちのまま、1曲目の『Good morning good news』が始まった。そこからさらに『WAITING AT THE BUSSTOP』、『FUN FUN FUN OK!』と、爽快なロックナンバーが続く。

社会への苛立ちを吹き飛ばしてくれる『Smile』は、今回の目玉だった。「クタバレニンゲンドモ!」と、感情が込められまくったさわおさんの叫びが会場に響く。アルバムを出した当時のことをよく知ってる訳ではないけれど、当時の気持ちを書いた曲が今の時代にも痛烈に刺さっているのは面白い。さわおさんは自分の心は昔から変わってないと言っていたけど、もしかすると社会の鬱屈した空気も、それほど昔と変わっていないのかもしれない(コロナの有無に関わらず)。

アルバム『Smile』パートの最後は『この世の果てまで』。横浜アリーナの1曲目として印象深く残っているけど、僕にとってはピロウズを知るきっかけだった曲でもあるので、そういう面でも思い入れが強かった。『Thank you, my twilight』パートで一番良かったのは『Come on, ghost』だ。さわおさんのハンドマイクスタイルもカッコよかったし、ノリノリになれた。「憶えてる限りで一番の光を探す」という歌詞が好きだ。タイトル曲『Thank you, my twilight』を生で聴くのも、何気に初めてだった。

『Ritalin 202』で本編を締めるのは想定外だったな。トワイライトが終わったところで「あれ、まだもう1曲あったよな…?」と記憶が霞んでしまっていたのだけど、曲が始まって「うおー!これだったー!!」と心の中で盛り上がっていた。確かにトリとしても映えるな、この曲は。

アンコールの『そんな風にすごしたい』も、大好きな曲なのですごく嬉しい。最後の『No Surrender』では、「生き延びてまた会おう!」とさわおさんからの熱いメッセージを受け取った。期待以上の、最高のライブだった。


2021.6.20 
LOST IN TIME
『キネマ倶楽部 単独公演 心の中の溶けない飴玉』
東京キネマ倶楽部

この公演は元々2020年に開催予定だったのだけど、コロナの影響でちょうど1年先に延期となっていた。キネマ倶楽部は昔のキャバレーを改装して作った会場で、内装もすごくオシャレなので好きだった。

LOST IN TIMEのライブも1年半ぶりだ。海北大輔さんの歌は、いつも聴き手にいろんな気持ちを力強く伝えてくれる。そういった面で、海北さんは自分の中で最高の歌うたいだと思っている。

ライブの1曲目は『ライラック』。2017年に音源化された、今ではロストインタイムの代表曲のひとつだ。それから何曲か演奏されたが、『Repentance』によって、僕の中の気持ちは激変する。

何もしたくない このまま消えてなくなりたいな
辛くて仕方ない 逃げられたらどんなにも楽だろう

LOST IN TIME『Repentance』より

2018年に発表されたこの曲は、初めて聴いた当時も衝撃だった。暗い曲が多い印象だった初期の頃ともまた違う、ある意味どん底に沈み切った気だるさと憂鬱さ。ここまでストレートにネガティブを書くのか、と。

この日のライブは楽しみではあったのだけど、それとは別に、僕自身の気分の波がすごく落ち込んでいた。いろんな嫌な記憶がくっついて離れなくなり、なんか消えてしまいたいという気持ちが拭えなかった。そんな状態の時に、Repentanceの歌詞は深く深く刺さるのだった。

そのあとの『グレープフルーツ』でさらに涙腺が緩んでしまい、続く『列車』のイントロが流れた瞬間、張り詰めていた糸がプツンと切れたような感覚があった。

学生の頃から聴き続けているこの曲は、歳を重ねるにつれて、その歌詞の重みがじわじわと増してくる。列車が演奏されている5分間、僕はほとんど顔を上げることが出来なかった。どうしても涙が止まらなくなって、俯きながらずっとハンカチで目を覆うことで精一杯だったのだ。

しかし、俯いていても歌はしっかり聴こえてくる。「あの頃はよかったなんて言いたくはなかったのにな」という、これまで何百回も聴いたであろう言葉が、容赦なく耳に入ってくる。

歌を聴きながら、ここまでつらくなることは今までなかった。ライブで泣いてしまったのも初めてで、正直どうしたらいいか分からなくなってしまった。椅子に座り直すのもなんか違う気がして、ずっと立ちっぱなしで俯いていたのだけど。

こういうご時世で、自分の何倍も何十倍もしんどい思いをしている人がいることは分かっている。だけど僕にもこの1年で色々嫌なことがあった。10代の頃から全く成長していないことを思い知らされて、心が折れたこともあった。なるべく気にしないようにしていたけど、やっぱりずっと疲れていたんだな、ということに改めて気付かされた。

これまで何度も絶望してきたけれど、そういえば泣いてしまうことってほとんどなかったなと気付く。たまにはいいよな。せっかく涙が出たのだから、泣くことでしか吐き出せない感情に、思いっきり甘えよう。そうして感情を吐き出しまくった直後の『希望』は聴いていてスッキリしたし、『ココロノウタ』や『昨日の事』などの力強い演奏にも励まされた。

LOST IN TIMEのライブが終わったあとは、何故だかいつも「明日も頑張ろう」という気持ちになる。この日は特にそう思えた。具体的に頑張る方法なんて分からないけれど、少しだけ自分と向き合うこともできたし、何とかやれることをやっていこう。


2021.9.15 
スピッツ
『SPITZ JAMBOREE TOUR 2021 "NEW MIKKE"』
大阪城ホール

2019年から2020年にかけて行われていたスピッツの『MIKKEツアー』は、コロナの影響で途中で中止になってしまった。今回の『NEW MIKKEツアー』は、それらを基にして、感染症対策なども徹底することで開催できた新しいツアーだ。

僕はツアー中止前に横浜アリーナ公演に行っていたので今回はいいかな、と思っていたのだけど、スピッツもずっと観られていなかったしやっぱり行きたい、という気持ちで大阪公演を申し込んだのだった。一番近い神奈川公演は、うっかり申し込みのタイミングを逃してしまったのだ。

当時は緊急事態宣言中の状況に加え、大阪のコロナ感染者数が増加していることもあり、周りの目もあって遠征することは正直不安だった。しかしやっぱりライブに行きたいという、ある意味わがままな気持ちの方が強かった。健康体で最大限の感染対策をすれば問題ないと思う。そう信じて行動したつもりだ。

移動はなるべく最小限にして、開場の1時間ほど前に大阪城ホールに着く。グッズのキーホルダーを買った他、事前予約していた限定シフォンケーキも受け取った。これが結構でかい。

この公演は入場と同時に自分の座席が決まるシステムになっているのだけど、僕はスタンド先の一番遠いエリアだった。こう書くと不憫なように見えるけど、実際は正面からステージを観られるし、更にPAやアリーナ席を含めた会場全体が見渡せて気持ちがいい。端っこでストレスなくライブを楽しみたい僕にとってはかなり当たりの席だと思う。

ライブのセットリストは、リニューアル前のMIKKEツアーに準拠したものだった。『稲穂』、『水色の街』、『紫の夜を越えて(新曲)』は初めて聴く。特に稲穂は軽やかな雰囲気のCD音源とは少し違って、テンポはゆっくりめで丁寧に演奏されている感じがよかったな。

1曲目の『見っけ』のイントロで、一気に気分が明るくなった。スピッツのライブの最大の特徴は、心の底から湧き上がるワクワク感だと思う。『渚』はドラムのタム回しは動きが神がかかっているので、この曲だけは崎ちゃんだけをモニターで映しっぱなしでも全然いいのに、と思った。

『俺のすべて』でステージのスタッフが出てくるのはいつもほっこりするな。3050ツアーの香川公演のことを思い出す。あの時は前から2番目という奇跡的な座席で、初めてのスピッツワンマンというのもあって何もかもにワクワクした。去年はデビュー30周年だ。

アンコールで『群青』が聴けたのも嬉しい。2019年12月、横アリ公演のアンコールで、「人間に代わりなんていない。今日のライブは、あなたがいたから最高になったんです。」というマサムネさんの言葉とともに演奏されたこの曲は、自分の中ですごく特別に感じた。それからもう一度聴きたいな、と思っていたのだ。

波は押しよせる 終わることもなく
でも逃げたりしないと笑える
僕はここにいる それだけで奇跡
しぶきを感じてる

スピッツ『群青』より

チケットを申し込むときからかなり迷っていたけど、やっぱり来てよかった。スピッツは生で聴きたい曲が山ほどあるし、4~5時間くらいやってくれても全然飽きないと思う。コロナに感染することもなく、本当によい1日を過ごせた。

この日はツアー最終日でもあり、MCではライブのシアター上映やオンライン配信の告知などもあった。一度中止となってしまったツアーだが、今回は無事に完走出来てよかった。


後編はこちらです。


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