自伝風の映画を企てようとする監督と、それへの密着取材をもくろむ 批評家。ある事件を機に様相は一変するが、そこには重層的な問題が はらんでいた。映画の作り方、在り方を語りながら同時にそれ自体が ドラマとなるとき、周囲の人との関係はねじれ、異様な境地へ導かれ ていく。虚構にまみれた映画そのものの換骨奪胎をなぞる顛末は…。 (本作はフイルム撮影による映画を前提とする) 登場人物 映画監督 円城寺 満
蟻塚徹くんへ いつもお手紙ありがとう。事務所へ送られてきたものは、なまものや危険物、一部の写真をのぞき、すべて麻生綾乃本人にわたしてあります。 十一歳の誕生日にはみなさんから多くのプレゼント、メッセージをいただきました。あなたからもはげましのお便りとちょんまげ、刀、干物、薬草などを送ってもらいましたが、これにはその真意、どう扱っていいかわからず本人ともどもたいへん困っております。以前、新幹線で親しくお話ししたかもしれませんが、あくまでもファンのかたとの交流でしたので
B面 「パパのパパ」○ 蟻塚家・トイレ(1ヵ月後、夜) 便器に座り、パジャマ姿でコミックを読む恵。 薄く開いたドアの隙間から親の声が聞こえてくる。 育雄の声 「じゃあ、切るね。……おやすみ」 と、受話器を下ろす音。 ○ 同・リビングルーム テーブルで肩を並べるパパとママ。 蟻塚伸子 「……よかったんじゃないの」 蟻塚育雄 「親だけ、夏休みに海外へ行っていい思いするなんて皮肉言わ れちゃったよ、こっちはNP
A面 「パパのまま」 登場人物 団地住まいの一家 蟻塚 恵 (12) 小六 徹 (10) 小四 育雄 (38) 伸子 (35) 洋菓子店「アローイ」 相原あゆみ (44
『とぐろを巻いて』 冒頭での悶々 高台の公園に佇み、天地百郎は考えを巡らせた。 ふとしたことで思わぬ行動に出るのはついているのだろうか、つ かれているのだろうか。積み上げてきたものが妙な意味を帯び、つ まらないことが重大な契機となりうるのだ。 つきはつねに定まらず、場合によっては変人扱いされかねない。 名演技と取りすましてみても、いずれそうでもないらしいことに気 づく。どう振る舞おうとずれやぶれを避けて通れないとわか
○ 宇宙空間 めぐる地球。美しい星。 その周囲をまわる衛星の数々。 飛び交うデブリや流星体。 ○ 衛星 その一つに付着する塵。 ぴくりと動く未確認物質。 飛び交う電波や信号。 ○ 特典映像 各挿話のbehind-the-scenes(BTS/舞台裏映像)。 様々なデブリに乗って現れる。 Ⅰ 「故Q」:それは衛星の破片か? Ⅱ 「テニヲハ」:それは星のカケラか? Ⅲ
Ⅴ 「ヤルノナゼ」○ 顔の大写し ぬっと現れる、ブストネルスキー書記の顔。 ちょっとお疲れの様子。 合の手 「きゃ、ブストネルスキー書記!」 という若い女の声。 バルコニーから群衆に演説する写真、数カット。 ○ 執務室 書き割りっぽい空間をスポットライトが照らすだけ。 椅子に座り、テーブル上の料理を眺めるブストネルスキー書記。 そこには山盛りのオムレツ。 姿勢を正し、正餐気取りでおもむろに
Ⅳ 「ザンダカ主義」○ 公園 辺りに桜が咲き誇る花見の季節。 多くのグループがそれぞれの流儀で楽しむ。 外国人の姿も珍しくない。 ○ 同・芝生の外れ 中東系の髭男4人組がゴザに座って談笑中。 (年配のヤバイ、のっぽのシヌ、ちびのヘンナ、でぶのクルシー) 酌み交わすのはミルク色の飲み物、母国産の蒸留酒アラック。 ひよこ豆の缶詰、ケバブもどきの焼き鳥などがつまみ。 酔って目が据わりはじめ、ときおり
Ⅲ 「ドク・タンゴ」○ 控え室 勢いよく振りまわされる拳。 軽快な腰つき。 サンドバッグを叩く重厚な蹴り。 にやりと笑う、ドク・タンゴ選手。 カメラに顔を寄せる、レポーターの荘ジャン。 興奮した面持ちだが、声は抑え目。 荘 「イエーッ!(と顔面ポーズを決め)、ついにこのときがやっ てきました。レポーターの荘ジャンです。格闘技王の決まる 決戦を控え、私はいま緊張感みなぎる特権的な
Ⅱ 「テニヲハ」○ 麻布の外国人バー VIP席で少々酔い気味に席を立つ日本人男性。 なかば強引に金髪女性の腕を引っ張る。 隣に座る漆黒の女性が制するも、逆に押し倒される。 飛んでくる黒服。 その場をとりなし、男は揚々と金髪を連れ出す。 険しい眼差しでそれを見つめる漆黒の女性。 ○ 品川のシェアハウス 膝を抱えてソファに座る漆黒の女性。 すでに寝間着姿。 足もとのスマホに目をやり、諦
Ⅰ 「故Q」○ 天井 ところどころに染み。 蜘蛛の糸が垂れ、わずかに揺れている。 家具もない粗末な部屋。 深いため息のあと、太郎のモノローグが始まる。 太郎の声 「……よく事実は一つって言うだろ。そんなの当たり前だって 思うだろ。俺だってそうさ。だけど、……違うんだよ。切羽 詰まった状況に身を置いたらわかる。所詮、記憶でしかない んだ。……どこから話せばいいんだろうか。ありのまま言っ
○ プレート理論 稚拙なアニメ プレートテクトニクス運動の解説。 マントルの対流 密かに蠢く未確認生命体“Nuke/Nuke” ○ コンテンツ 各挿話のタイトルが画面を動く。 隆起したり陥没したりしながら。 Ⅰ 「故Q」:ドキュメンタリー的な Ⅱ 「テニヲハ」:フィルムノワール式で Ⅲ 「ド ク・タンゴ」:スラップスティック調に Ⅳ 「ザンダカ主義」:クライムアクション流が
ⅲ「あそこ」○ タイトル? 黒バック中央に進入禁止の標識 中のマークがもぞもぞ動きはじめ、 「あそこ」という標題に変わる ・ ○ 寝室 ベッドですやすやと寝ている女。 ○ 薄明に浮かぶ標識 おぼろげに映る標識らしき影。 見上げていくとそれは進入禁止のマーク。 唐突に揺れる画面。 ○ 寝室 かっと目を見開き、何かを反芻するように中空を見つめ、 思い
ⅱ「まさか」○ 雑貨屋・表 さびれた商店街の真ん中にある“九十九ストア”。 店先で新装セールの呼び物にマジックショー。 手品師・牧シゲオが懸命にネタを披露。 が、客はまばらで技のレベルも低い。 店主の掛け声が空しく響くだけ。 ○ 同・居間 奥の居間で、店の隠居と牧シゲオの息子がテレビを見ている。 画面には壮大なイリュージョンショー。 隠居 「(茶をすすって)これ、ほんまにおまえの母ちゃんか」
ⅰ「ふいに」○ 女子高・廊下 小脇にバインダーを挟み、ゆっくり歩いてくる男性教師。 廊下を歩く者はだれもいない。 目をちらっとつり上げ、2年B組のドアを開ける。 ○ 同・教室 室内のざわめきが止む。 おもむろに教壇へつく教師。 ふと黒板を見ると“ABCね”とのチョーク書き。 黙ってそれを消す教師。 生徒に対し口を開こうとし、にやついた視線を受ける。 振り返ると、黒板にチョークで“A
⑫ 「落ちこぼれ」○ バーガーショップ・店内 窓から見渡されるバスターミナル。 そこへ向かって歩く金森の姿。 案内板を確かめ、人込みのなかへ消えていく。 窓越しに見かけた彼を目で追いかける河野純一。 口をすぼめ、所在なさげに紙コップの氷をかきまぜる。 ○ 予備校・表 日曜教室を脱け出し、繁華街へ向かう河野。 ○ ゲームセンター 点数の上がらないマシンを蹴飛ばす河野。 ○ バーガーショップ・店