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弁理士業の魅力 特許異議の申立て業務

こんにちは、40代、弁理士の石川です。今日は、学生の方や企業にお勤めの技術者の方向けに、特許異議の申立て業務について語りたいと思います。

特許異議の申立ては、弁理士業界でとてもポピュラーな業務です。

弁理士は、主に知的財産権の権利化業務を行いますが、権利化業務以外でも、依頼者からの依頼に基づいて他人の権利を消滅させる仕事も業務として行います。

つまり、弁理士は、ある時は依頼者の求めに応じて権利を作り、またある時は、別の依頼者の求めに応じて相手方の権利を潰しにかかるのです。

我々弁理士は、普段はおとなしく農耕(権利化)をメインに暮らしています。でも、いざ戦となれば、公知文献という武器を手にして勇敢に戦うのです。

1.特許異議の申立制度とは

特許異議の申立てとは、どんな制度なのでしょうか。工業所有権法(産業財産権法)逐条解説(第21版)には、下記のように定義されています。ちなみに、弁理士受験生はこの緑色の表紙の本を「青本」と呼んでいます。

「特許異議の申立制度は、当事者間の具体的紛争の解決を主たる目的とするものではなく、特許庁自ら特許処分の適否を審理し、瑕疵ある場合にはその是正を図ることにより、特許に対する信頼を高めるという公益的な目的を達成することを主眼とした制度」です。


ふむふむ、公益目的で特許を見直すのですね。

※注 特許異議の申立制度は、2003年に一度廃止されましたが、2015年4月1日に新制度として復活しました。廃止前の異議申立では、申立人側が意見を述べる機会はありませんでしたが、復活後の新制度では、申立人にも意見を述べる機会が与えられ、一旦、取消理由通知が出れば、その後は、簡易的な当事者対立構造をとる審理形式になりました。特許異議の申立ては、何人も請求することができます。

でも、公益目的って、冒頭の挿絵のイメージとは真逆ですね(理由は、後ほど、明らかになります)。

まず、年間の申立件数はどれくらいなのでしょうか。

特許行政年次報告書2021年版〈本編〉第1部第1章 第39頁

直近の3年間では、年間1000件ほどの申立件数で推移しているみたいです。

もう一つ、特許を最初から無かったことにできる制度として、特許無効審判があります。特許無効審判は、請求人と被請求人である権利者とが対立する当事者対立構造をとります。特許無効審判は、裁判に類似した準司法的手続きによって厳正に行われます。

特許無効審判の請求件数は、どれくらいでしょうか。

特許行政年次報告書2021年版〈本編〉第1部第1章 第38頁

直近の5年間で、年間当たり、概ね110~160件程度の請求件数で推移していますね。そうすると、特許無効審判の請求件数は、特許異議の申立ての申立件数の1/9~1/6程度となります。

特許無効審判の年間の請求件数は上記の通りですから、自分で担当できる機会はめったにありません。(弁理士は、日本に1万人以上いるのです!!)

一方、件数の多い特許異議の申立ては、若手の弁理士にとって、当事者対立構造事件の登竜門のような業務となります。

特許異議の申立ては、取消理由通知が出た後には、当事者対立構造をとりますから、簡易な特許無効審判に相当します。作成する書面も、特許無効審判とほぼ同様ですから、弁理士は、いつか無効審判を担当する場合に備えて、異議で腕を磨くことになります。

弁理士の人数から考えると、10年に1度のタイミングで案件を担当できることになりますね。私の場合、年に1件程度、担当します。

2.特許異議申立の申立ての魅力

私達弁理士の仕事の多くは、権利化業務です。特許庁に対する手続きであるということは、特許異議の申立てと同じなのですが、決定的に違うのは、当事者対立構造をとるか否かです。

通常の権利化業務では、特許庁に意見書や手続補正書を提出するのですが、読み手となるのは、審査官又は審判官です。このため、通常の権利化業務であれば、結果が出る前に、およその勝ち負けについて審査官(審判官)のリアクションや手ごたえで分かります。

一方、特許異議の申立て等の当事者対立構造案件では、審判官以外に、相手方の代理人弁理士が存在します。

相手方の代理人弁理士が存在すると、結果が全く予想できなくなります。説得力のある異議申立書を作成できたと思っても、相手方の代理人弁理士によって、結論をひっくり返されることがあるからです。

自分がディフェンスの場合も同様です。相手方代理人によって緻密に計算された異議申立書によって、実質的に手の施しようがなくなってしまう案件もあります。(守秘義務の関係で、詳細はお伝えできませんが、そのような件は、元々の明細書に何らかの問題がある場合が多いです・・・。)

でも、そのように予測できないところが、当事者対立構造案件の面白いところです。結果が全く予測できないので、我々代理人としてもハラハラドキドキすることになります。

なお、勝負の勝ち負けは、相手方代理人の力量だけでなく、依頼者から提供される証拠(公知文献)によっても左右されます。うまく相手の特許をつぶせるか否かは、証拠次第ということです。

依頼企業の担当者が、調査に長けている方で、良い証拠を沢山提供してくれれば、異議で勝てる可能性がかなり高くなります。

一方、良い証拠がなければ、代理人がいくら頑張っても相手の特許をつぶすことは難しいです。一度も取消理由通知が出ないまま、門前払い的に終了してしまうこともあります。

3.異議申立人を誰にするのか問題

異議申立人を誰にするのは、非常に重要な問題です。

我々弁理士は、特許等の出願の代理をしています。このため、日頃からどのような企業とつきあいがあるのかは、公開公報を見ればすぐにわかってしまいます。したがって、弁理士が名前を出して特許異議の申立てをすると、どの企業が手を下したのかがすぐにバレてしまいます。

その結果、特許異議の申立てをした企業が、相手企業から恨まれてしまう可能性があります。取引関係がある場合には、取引停止になるリスクもあります。

異議は、何人も申し立てることができますが、匿名ではできません。このため、通常、異議申立人として、異議の依頼を受けた弁理士とは無関係の第三者を立てることが多いです。

業界では、ダミーと呼んでいます。第三者をダミー申立人に立てることで、誰が異議を申し立てたか、分からないようにします。

まさに、仮面を被って、攻撃をしかけるハッカー集団のようなイメージです。先に、公益目的といいましたが、公益を実現するには素性不明のダークヒーロー(バットマンみたいな人)も必要なのでしょう。

このようにダミー申立人を立てるということは、他の業界でやっていることは少ないと思うので、珍しいのかなと思います。なお、ダミーを引き受けてくれる方を探すのは、実はとても大変です。

異議申立人に女性が多い気がするのは、私だけでしょうか。

4.まとめ


特許異議の申立ては、紛争解決目的ではなく、公益目的です。案件数は、特許無効審判よりも多いので、非常にポピュラーな業務で、当事者対立構造案件の登竜門となっています。勝敗が予測できないので、代理人としてもハラハラドキドキして、非常に魅力的な業務です。

ダミー申立人を立てるのが面白い制度です。弁理士は、ダミー申立人の影に隠れて頑張っています。

弁理士が扱う業務は、権利化業務だけではありません。

いざ戦となれば、戦わなければなりませんから、闘志も必要です。

これから弁理士試験に臨まれる方は、試験でも一発ぶちかましてやってください。

最終合格を目指して、ファイトォー いっぱぁーーつ !!

でも、試験場では他の受験生に迷惑になるので、静かに闘志を燃やしてくださいね。

弁理士の石川真一のフェイスブック
facebook.com/benrishiishikawa

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