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弁理士業の魅力 明細書作成業務

こんにちは、40代弁理士の石川です。今日は、学生の方や技術者の方向けに、明細書作成業務をテーマにお話ししたいと思います。弁理士業にちょっとでも興味を持ってもらえたら幸いです。

唐突ですが、果たして、明細書作成は、弁理士にとって魅力的な業務なのか?

我々弁理士にとって、重たいテーマですが、改めて考えてみたいと思います。なお、明細書とは、特許出願や実用新案登録出願において、特許請求の範囲、図面、要約書とともに願書に添付して特許庁に提出する書類のことです。

 1.弁理士にとって明細書はコメみたいなもの

半導体は、産業のコメといわれています。あらゆる産業の基礎になるからです。理系の弁理士にとって、明細書作成業務は、食って行くために無くてはならないものであり、まさに毎日食べるコメのような存在です。

弁理士にとって、コメのような存在の明細書作成業務が、魅力的な業務なのか。非常に重要な問題です。コメは旨いまずいに関わらず、食っていかなければなりませんから。私は、20年近く、特許事務所で明細書を書いてきていますが、いままであまり深く考えたことがありませんでした。

明細書作成はとても楽しいという事務所の先輩の弁理士がおられます。その方は、いつまでも明細書を書いていたいとまで言っておられます。まるで、仕事中毒の人のようです。

私は、正直そこまでの域には達していません。もちろん、新しい案件に挑戦するたびに、毎回、新しい発見があるのは事実です。成長が感じられるので、うれしいことはうれしいです。

ですが、職務なので大変という意識もあるし、しっかりといいものを仕上げなければならないという責任感もあります。なかなか楽しむところまでいかないというのが、私の正直な感想です。期限までに間に合わせなければならないというプレッシャーもありますし。だから、毎日食べるコメについて、旨いまずいなどいってられない、というのが私の正直な感想になります。

2.発明の深淵に触れたときのある種の達成感

でも、明細書作成業務において、ある種のよころびを見出すことはできると思います。

明細書作成は、海面の高さから海の深淵にまで潜って、深海にある発明の本質に触れるような作業に例えることができます。海上での機材の準備は、依頼者(出願人)又は発明者が手伝ってくれます。機材の準備もばっちりで、目的地(発明の深淵)までの行き方の説明も発明者が十分にしてくれました。「じゃあ、いってきます」となった段階で、弁理士としての明細書作成がスタートします。

海面の高さから、どんどん発明の中心に向けて潜っていきます。文字通り、案件の中にブクブクと浸っていきます。ところが、ときどき困ったことが起こります。発明の本質に近い深海付近では、発明者も見たことのない景色が広がっていることがあるのです。

弁理士は、論理的に明細書を組み立てていきますから、明細書を書きながら、こうでなくてはおかしい、このように設定すべきだとして、適宜に調整を行いながら、明細書を作成していきます。そうすると、ときに、発明者よりも深く、緻密に発明を理解できてしまうことがあります。その場合には、発明者も気づいていないけれど、条件が足りていないとか、この点で発明がまだ未完成であるとか、問題点を発見してしまうことになります。

こういう経験を、多くの弁理士が日常的にしています。もしかしたら、機械系の案件に多いかもしれません。化学系案件では、通常、実施例(実験結果)のデータがあるので、発明者と見ている景色が違うということはあまりありません。ただ、実施例が不足しているということは多々あります。

そのような場合には、発明の深淵近くで、未知なる海溝をいくつも見つけてしまった状態ですから、明細書中に注釈などをつけたり、或いは、必要に応じて場合分けなどを行ったりして、情報を整理することになります。必要に応じて、海上で待機している発明者と連絡をとって、水中の深淵において、方向を見失って、溺れてしまわないようにする必要があります。はっきり言って、手間のかかる作業です。

しかしながら、海の深淵の奥深くで、発明の本質に触れることができたときは、発明を本当の意味で理解できたとして、ある種の達成感を得ることができます。これは、理系出身者によくある、数学の難問が解けた瞬間のような、ある種の快感が得られた状態です。もしかしたら、これが私の同僚がいうように、楽しいということなのかもしれません。

3.発明は発明者のものだけど、明細書は自分の作品でもある

良い明細書が作成できたとき、発明者に喜んでもらえるかも知れないと思うことは、我々弁理士にとって大変なモチベーションになります。もしかしたら、特許公報とかを発明者が親御さんに送ってくれるかもしれません。「私が発明したんだよ」みたいな感じで。そうすると、特許公報は、単なる法律文書ではなく、勲章のような意味合いをもつことになります。発明者の名前入りで、全世界に向けて公開されるのですから、それはそうです。大変に名誉なことです。だから、我々弁理士としても、変なものは作れません。発明者の名誉に関わりますから。

一方、発明は確かに発明者のものですが、発明者と伴走して出願作業までを手伝う弁理士にとっても、その発明を記載した明細書は、思い入れのある作品になります。苦労して作ったものですし。中途半端なものにはしたくないという職人のような気持ちで作成するものですから。なので、発明そのものは発明者のものだけど、明細書は、弁理士にとってもかけがえのない作品のような存在になります。

業務として作品を作り続けられるというのは、クリエーターと同じですから、大変に前向きな気持ちになります。特に、特許は、出願から20年、意匠に至っては出願から25年存続するものですし、最先端技術を記載したものでもありますから、大変に未来志向な気持ちにさせてくれます。権利を作るという意味でも建設的です。何より夢があります。出願して自分の手を離れた後には、時に、日本だけでなく、外国にもそれらの出願が羽ばたいていくのですから。

このため、仕事を通じて、何らかの作品なり、自分が生きた証なりを残していきたいという気持ちがある方には、弁理士は、大変に魅力的な職業じゃないかと思いました。冒頭に、明細書作成はコメだから旨いまずいなどと言ってられないといいましたが、視点を変えれば、魅力的な点も沢山あるのですね。この稿を書くことによって、自分でも新しい弁理士業の魅力を発見することができました。

以上、今回は、弁理士業の魅力として、明細書作成業務について説明させていただきました。我々弁理士にとって重たいテーマですから、うまく書けたかわかりませんが、弁理士業の理解の一助になればとおもいます。


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