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初産婦、出産した時の話

前回の「初産婦、陣痛に耐える話」の続きです。

陣痛開始から実に18時間。

分娩室に移動するところからのお話。

歩きたくないのだが!!!

午前10時、ついに陣痛待機室から出る時が…!

待ちわびた分娩室へのGOサイン

「分娩室に行く前にトイレに行っておきましょう!」

え…別に尿意とか何もないし
なんなら分娩室直行させてほしい…

「出したくなくても行きます!
はい!立ちますよー!」

お、お、鬼ぃぃぃいいいい!!!

おそらくトイレまで5mほど。
この時の私には2駅隣くらいに遠く感じた。
秒速10数センチ、数歩歩いては陣痛に襲われ、
ようやく辿り着いたトイレ。

便座に座るもタイミングよく陣痛が来ていきみを我慢する苦行。
トイレでいきみを我慢するって…

陣痛の合間にパパっと手洗いを済ませ、
どうや…トイレ行ったで…と目で訴えるも

「はい!じゃあ一度ベッドに戻りましょうね!」

残酷すぎる。もう分娩室に行かせておくれ…

また長い時間をかけて独房に戻り、
少し経ってようやくお迎えが!ついに分娩室へ!

「分娩室まで歩いていきましょう!」

うん。知ってた、知ってたよ…
車椅子とかストレッチャーなんて甘えだよね…
歩く…歩くよ…泣

助産師さんに付き添われながらなんとか分娩室へ。
分娩台に腰掛けてひと段落。

独房から優しい世界へ

分娩室は明るくて、JPOPオルゴールのかかる空間。
あの独房と同じ棟とは思えないほど別世界…

ふと、この出産が終わったら
今まで我慢していたお寿司が食べれると思ったら
ポロッと一筋の涙が。
感動的な瞬間の裏側では、
意外とどうでもよいことを考えているものだ。

分娩台に上がり横たわっていると夫到着。

「よっ。気分はどうだい?」

おう、定期的に巨人が内臓を下へ下へと引っ張ってくるぜ…

君のミッションは私の腰をさすること、
そして、「ケツ」という合図があったら
全力で私のおしりの穴を押すことだ。

しばらくは腰をさすってもらいながら
この一晩あったことをお喋り。
まだまだ痛みはきついが、安心感からか喋る余裕は出た。

そしてその時がやってくる…

妻からのはじめての叱責

例の内臓を下に引っ張る巨人再来。

ケツだ!!!!ケツ!!!!ケツぅぅぅ!!!!

語彙力ゼロの司令。動揺する夫。

「こ、ここ?」

違う!!!もっと下!!!もっと強く押せ!!

「こ、こっち?半泣」

ちっがぁああああああああう!!!!!!

怒りのボルテージ急上昇と同時に助産師さん入室

「そうだね!違うね!」

なだめながらブチ切れ妊婦のおしりに手を当てる。

一気に楽になる私。立ち尽くす夫。

まさか生まれて初めての妻からの叱責が、
上手くおしりを押さえられなかったこととは
彼も思いもよらなかっただろうに。

そこからは夫は腰をさする担当、
助産師さんがおしり担当、
至れり尽くせり私は横たわってストローで水を飲む、
なんともいえない光景が繰り広げられていた。

絶望の1時間

そして時刻は午前11時過ぎ。
未だに破水していなかったため、
人工破水をしてお産を進める方針になる。

「人工破水は先生の指示が必要なんだけど、
今隣のお産が盛り上がってるから
それが終わったら来てもらいますね!」

え…意気揚々と言いますが、
お隣終わるまで分娩台でステイですか…?

「あと1時間くらいで決着着くと思うから
それまで破水しなかったら人工破水しましょう!」

あと…1時間…だと…?

絶望。

それからというもの、助産師さんは頻繁に出入り、
私は陣痛に耐えながら頻繁に時計を確認。

「あんまり時計見ない方がいいんじゃない…?」

腰をさすりながら余計なことを言う夫。

時計を見ていても時間経過が加速しないことも
頭ではわかってる。でも見てしまうんだ。

「ここからはもういきんでしまいましょう!
いきむ時の脚はM字開脚、
診察の時は膝を外側にぺたっとつけたカエル足です。
陣痛の合間は深呼吸で
赤ちゃんに酸素を送ってあげてくださいね!」

妊娠前はガチガチに硬かった体も、
骨盤全開でカエル足も余裕でできる自分に驚きつつ
陣痛のタイミングに合わせてM字開脚。

ひたすらM字開脚いきみと深呼吸でドクターの到着を待つ。

時間が進むにつれ、痛み逃がしすらしんどくなり
徐々に夫の問いかけに応答する力が弱まる私。
呼吸が浅くなり頭がぼーっとしてきた。

私、このまま死んだりしないよね…?

急に不安が襲いかかる。

1時間半ほど経過した頃だろうか。
隣の叫び声が鳴り止み、ストレッチャーを広げるような大きな金属音。
そして静まり返る隣の分娩室。

産声が聞こえないってことは…

緊急帝王切開になったのかな…

もはや他人事のようには感じない。
私もお産の進みが悪ければ帝王切開待ったなしだ。

そしてついにドクターたちが私の元へ。

お産急発進

「うん!まだまだ遠そうだね!破水しちゃおうか!」

すごいサラッと言うけど
その言葉のためにこちとら1時間半待ったんだが!?

噛み付く力は残っていない。
いいから早くしてくれ…(これに尽きる。笑)

「破水しまーす」

……?

当たり前だが痛くも痒くもない。
じわーっと温かい水が流れ出てる、そんな感じ。

破水したものの思ったよりお産は進まず。

「うーん、(陣痛が)もう少し強くなってほしいな
促進剤入れた方がいいかな」

ドクターの口から聞き捨てならぬワード

促進剤!?もう十分陣痛きてるよ!!?

ドクターいわく、陣痛がもう少し強く
そして間隔が短くならないとお産は進まないそう。
お産が長引くと母体の体力が消耗され、
結果的に赤ちゃんが危険な状態になってしまう。

そんなこと言われちゃったら
同意書にサインするしかないよね。

痛みに耐えながら同意書にサイン。夫もサイン。

そして促進剤の点滴が繋がれ、
みるみる陣痛の感覚が狭まる。
強さについては常に記録更新していたので
もはや違いがわからないまであった。笑

エコーで赤ちゃんの様子を確認しながら
助産師さんの掛け声に合わせて一気にいきむ。

目を開けて、声は出さず、おへそを見て、
硬い💩をひねり出す勢いで。

かなりやばい顔をしていたと思う。笑

体感、目を閉じて叫んだ方が力が入りそうだが、
実際は力が分散してしまっているんだそう。

分娩台の握り棒を掴んで踏ん張っても
なかなか出てこない我が子の頭。

あまりに進まないこの状況に、
いっそ腹を切って出してくれとも思ったりした。

ゲッター分娩台

頭の方は少し上がっているが、ほぼフラットな分娩台。
両サイドの握り棒を掴んでいきむも、お産は進まない。

「分娩台をお産モードにしますね!」

お産モード!?今までのはなんだったんだ!!?

まだツッコム余裕はある。脳内だけど。

分娩台の足元が上がり、両サイドに開く。
強制M字開脚。これがお産モードか…

気を取り直してヤバ顔でいきむ。

すると、エコーに映る我が子が突然
頭をグリグリする姿がモニターに映し出される。

ぎいやあぁぁぁぁああああ!!!

まだ見ぬ我が子、突然のドリル頭突き。
母体への効果は抜群だ。医師と助産師は笑っている。

そりゃおもろいけど…
私もそっちの立場だったら笑ってたけど…

なにしてくれてんねん、息子。笑

息子の珍プレーが好プレーだったかは謎だが再びいきみ祭。

「頭下がってきてるよー!」

運動部さながらの声掛け。
助産師さんがマネージャーに見えてきた…

その言葉を信じてひたすらいきむ。

それでもまだ頭が出てくるほどではない。

だんだん赤ちゃんの頭が下がってきたのだが
進行は突然ストップ。

「うーん、赤ちゃん苦しいところにいるから、
お母さん頑張って深呼吸で酸素送ってあげてー!」

痛みでテンパる中、なんとか落ち着いて深呼吸。

やばい…全然吸えない…
息するのってこんなにしんどかったっけ…

完全にエネルギー切れ。
ウイダーinゼリーを補給するも飲み込む力がない。

「ちょっとエネルギー切れだから点滴入れますね」

促進剤からエネルギーの点滴に。
純粋にもう疲れた。

物理的にエネルギーチャージ。
再びお産モードゲッター分娩台でいきむ。
だんだんいきみも惰性になってきた気がする。

すると急にNSTモニターから不穏な音が…

「赤ちゃんの心拍下がってます!
お母さん頑張って息吸ってー!!」

いや、もう無理だって。もうやめたい。
もう私にはできる気がしない…

思ったより進まないお産と痛みに完全メンタル負け。

「ちょっと酸素入れようか!酸素マスクつけるよー」

人生初の酸素マスク。
昨年看取った父も死に際につけていた酸素マスク。
ああ、本当にまずい状況なんだ。

酸素吸入からほどなくして赤ちゃんの心拍も回復。

なんだか急に自分が情けなくなってきた。
赤ちゃんこんなに頑張ってるのに、
私が上手にいきめないからこんなに苦しくなっちゃって…

もう絶対決めてやる!!!

そしてゲッター分娩台は最終形態へ。
頭横の握り棒とはまた別に、おしり横から新たな握り棒が出現!
車のサイドブレーキのような握り棒が両サイドに!

今まで足で踏ん張ることでいきんでいたのが、
腕で体を引き寄せることでさらに足に力が入る。

ゲッター分娩台、発進!!!

恐れていた会陰切開

酸素マスクをつけ、エネルギー点滴が入り、
"俺たちがついてるぜ!"といわんばかり
ジャンプ漫画の最終回みたいな展開。

ゲッター分娩台最終形態のおかげで力も入り、
みるみる赤ちゃんの頭も下がってきている。

「あと3回いきんだら頭出るよー!」

マネージャーからゴールが近いことを知らされる。

目に力が宿る。
しかしここまでいきみっぱなし。疲労困憊

「1回休んで次の陣痛でいきんでみようか!
頭が出たらいきむのやめて、フーっと長く息を吐きますよ」

休息の許可をくださるマネージャー。
1回休んでパワーチャージ、懐かしの痛み逃がしの呼吸。
予告通り次の陣痛でいきむ。も、3回いきんでも頭が出ない。

あれ?さっき3回って言いましたよね…?
私のいきみが弱かったかな?(その通り)

「赤ちゃん降りてきてるよー!」

約束の3回がすぎたというのに
励まし続けてくれるマネージャー。
心が折れかけてることに気づいてる。

「もうあと3回いきんだら頭出るかなー!」

よし!あと3回だな!?本当に3回だな!!?

いきむ!

出ない。

「すみません次1回休みま…す」

「いいよいいよー!しっかり深呼吸してー」

「…いきます!!!!!!」

いきむ!自己申告した上でいきむ!!

出ないいいぃぃ。泣

ふうううううんんんんんん!!

ついに頭がチラ見え。
そしてドクターから恐れていたあの言葉が。

「うーん、このままだと切れちゃいそうだから、
バースプランに切らないでって書いてあったけど
裂けるより傷も綺麗に治るし、
会陰切開、してもいいですか?」

ああ…もうなんでもいい、
この痛みが終わるならどこでも切ってくれ!!!

あんなに妊娠中恐れていた会陰切開。
二つ返事で承諾。そのくらいにはきつかった。

陣痛の合間に手早く、
まるで工作のようにチョキチョキと切るドクター。
麻酔のおかげで全く痛くない。
というか陣痛が痛すぎて気にもならない。

目指していたのは感動的なお産

「よしじゃあ思いっきりいきんでみようか!」

思い返せば、あと3回あと3回と、なかなか進まなかったお産。
ホルモンバランスがたがたの私、なぜかここで怒りが湧いてくる。

うあああああああああああ!!!!

叫ぶなと言われてもつい叫びながらいきむ。
もうこっちもいい加減産みたいんだ!!

怒り任せのいきみ、まさかのこれで頭が出た。

「頭出たよー!触ってみる?」

いや!そんな余裕はない!このままいきたい!

夫も触ってみるか聞かれるが、
こちらはビビり散らかしてお断りしていた。笑

そして私は聞き逃さなかった、
スタッフの誰かが「おはぎ」と言った。
どうやら我が子は髪がしっかり生えているようだ。
こんなの笑いが堪えられるわけがない。

「もうすぐ産まれます!
次からは奥様のいきむタイミングで
ご主人も奥様の背中を思いっきり押してください!」

すごい!!最終回みたいな展開!!

いでよ!!!!おはぎ!!!!!
もういい加減出てきたっていいじゃないか!!!

「抜けろぉぉおおおお!!!!」

私はもっと感動的なお産を期待していた。
ジャンプ漫画の一コマのようなセリフなんて叫ぶつもりはなかった。
しかし残念ながらこの叫びで頭が出た。

「はい!頭出たからいきまないで!スーッと長い息吐いて!!」

ドゥルンっっっっ!!!

今までの痛み苦しみが嘘のように解放され、
数ヶ月分の硬い💩が一気に放出されたかのような爽快感。

ああ、これが出産の痛みを忘れるってことなんだなぁ…
むしろ快感を覚えてしまった気もする…
でも絶対次は無痛にしてやるんだからな…

フギャー!フギャー!フギャー!

下手くそな産声をあげて、ようやく会えたね。
はじめまして、私の可愛い赤ちゃん。

分娩台に上がってから約4時間半。
初産婦、出産を終えて母になった瞬間でした。

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