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日本の気象解説のフシギとリスクコミュニケーションの重要性

豪雨と洪水が多発する西日本、連日35℃~40℃に迫る熱波が猛威を振るう東日本。ほとんど毎日のように起こる異常気象を受けて、テレビやネットの気象予報士さんたちは解説に大忙しだ。

しかし、毎日のように彼ら彼女らの気象解説を聞いていると、ときどき情報が頭の中を素通りしてしまって何も残らないことがある。同じ情報に繰り返し接しているうちに機械的にしか反応しなくなってしまう我々人間心理の盲点かもしれない。

気象解説は確かに重要である。これこれこのようなメカニズムが原因でいま猛暑になっている/線状降水帯が発生している、といった科学的で分かりやすい解説は、十分に納得できるものである。

ところが、こうした気象解説の繰り返しが、先ほど述べたように私たちを無反応にしてしまうのと同時に、「たまたま起こった猛暑、たまたま起こった大雨」という、一過性の出来事であるかのような印象をわれわれに植え付けてしまうことも事実だ。

熱波や洪水を一過性の気象現象として受け止めている限り、視聴者の危機意識は少しも高まらないし対策も進まない。のど元過ぎればなんとやらで、せいぜいその場限りの応急措置でやり過ごすしかないという受け身的な姿勢で終わってしまうのである。

今現在、日本や世界各地を襲っている大洪水、50℃に迫る熱波、山火事、海水温の上昇が「気候変動」によって引き起こされた結果だという認識は、すでに世界中の科学者が合意しているものである。背景に逃れようのない「気候変動」という脅威が存在する以上、その影響は(人類が際限なく経済成長を追求し続け、膨大なエネルギーを消費し続ける限り)、これからも半永久的に続くことになるだろう。

ところが不思議なことに、日本のテレビの気象解説では、異常気象の最大の要因である「気候変動」という用語に関しては、ただの一度も使わないのである。あたかも熱波や豪雨災害が気候変動とは何の関係もないかのように。なぜなんだろう!?

しばしば見聞きする理由は、「気象予報士はローカルな時間と場所の気象を予測するのが仕事であり、気候学者ではない」とか「長期にわたる気候変動は気象予報士個人の見解によって意見が分かれるから、安易に口にするわけにはいかない」という意見である。

しかし、こうした制約を自分に課しているのは、おそらく先進国では日本だけではないのだろうか。筆者は気候変動の情報収集の一環としてアメリカのABC News、CNN、イギリスのBBC newsなどを定期的にチェックしているが、アナウンサーも気象キャスターも日常的に「気候変動(climate change)」や「人間活動によって引き起こされた地球温暖化(global warming caused by human activity)」という言葉を使用している(Youtubeを参照:米ABC Newsの主任気象予報士のGinger Zeeによる気候変動解説)。


目の前の危機を「たまたま起こった一過性のインシデントである」というニュアンスで伝えれば、「嵐が過ぎ去るまでがまんするしかないね」で終わってしまう。その結果、同じ被害を繰り返し被ることになる。

あるいは、このまま国民に気候変動のことは伝えず先延ばしにする。そして近い将来、子供から老人までが、毎年繰り返される熱波・豪雨・水不足・農作物の生産量の減少と高騰の異常性に気づき、不安に怯えるようになってから初めて、国が気候変動の存在を明らかにする。その時国民はどう反応するだろうか。パニックに陥るか絶望するしかないのではないか?

逆に、なるべく早い段階から「気候変動で気象の性質が変わってしまい、今後はこのようなインシデントが繰り返し起こる可能性がある」と警鐘を鳴らせば、「では我々はこれから、新たな気候にどう適応していけばよいのだろうか?」という知恵と工夫が生まれる。

後者の警鐘メッセージは、いわば「リスクコミュニケーション」である。『有事の際に、内外のステークホルダーと適切なコミュニケーションを図ること。これを迅速に進めるため、平時より準備を進めること』を指す。単なるオオカミ少年の空砲や占い師の予言ではないのだ。

最近、ヤフコメ(Yahoo! ニュースに投稿された一般ユーザーによるコメント)を覗いて気づいたことだが、ユーザーの中にも「これは気候変動という後戻りできない、そしてこれからも悪化するであろう異常気象の時代に入った証拠ではないのか?」と感じている人が少なくないようだ。

将来の危機に目覚め始めた国民の漠たる不安を和らげるためにも、超長期にわたる気候変動の時代に入ってしまったことを、リスクコミュニケーションの一環として視聴者に伝えることが、気象予報士さんたちの使命の一つではないかと筆者は考えている(了)。

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