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神と黒蟹県 / 絲山秋子 読了

Youtubeでおすすめされているのを見て、これは絶対好きだ~~~!!!と思って思わず購入してしまった一冊。


「黒蟹とはまた、微妙ですね」
微妙、などと言われてしまう地味な県は全国にたくさんあって、黒蟹県もそのひとつだ。
県のシンボルのようにそびえたつのは黒蟹山、その肩に目立つ北斎が描いた波のようにギザギザの岩は、地元では「黒蟹の鋏」と呼ばれ親しまれている。県庁や裁判所を有し、新幹線も停まる県のビジネス拠点としての役割を担う紫苑市と、かつての中心地で歴史的町並みや重要文化財である黒蟹城を擁する灯籠寺市とは、案の定、昔からの遺恨で仲が悪い。空港と見まごうほどの巨大な敷地を持つショッピングモールの先には延々と荒れ地や牧草地が続き、廃業して解体されてしまって今はもう跡地すらどこだかわからない百貨店に由来する「デパート通り」はいつまで経っても改称されず、同じ姓を持つ住民ばかりの暮らす村がある。
 つまり、わたしたち皆に馴染みのある、日本のどこにでもある「微妙」な県なのだ。
この土地に生まれ暮らす者、他県から赴任してきた者、地元テレビ出演のために訪れた者、いちどは故郷を捨てるもひっそり戻ってきた者、しばしば降臨する神(ただし、全知全能ならぬ半知半能の)。そういった様々な者たちのささやかでなんてことないが、ときに少しの神秘を帯びる営みを、土地を描くことに定評のある著者が巧みに浮かび上がらせる。

 架空の県を舞台にしたこの小説だが、目次のすぐ後に黒蟹県の地図が付いている。これがめちゃくちゃにワクワクする。昔読んだ小説にも同じように地図が描かれていた作品があったような気がするが全く思い出せないな、などいろいろなことを思い出した。実際にその県の地図を垣間見ながら読めることから、何度も振り返って地図を見てしまう。
 一話ごとに後ろについている黒蟹事典もその魅力の一つであり、実際にあるものと架空のものが織り交じった黒蟹県の魅力にどっぷりとハマってしまう。

 絲山秋子さんの作品は今回初めて読んだのですが、黒蟹辞書に他の作品にも登場する架空の地名がある、とあったので次に絲山さんの作品を読むのも楽しみになった。
 神が登場人物として描かれている作品をあまり読む機会がなかったが、神の人間以上の人間らしさに愛しさを感じながらも完走。小説なのにエッセイのようなリズムでサラサラと読めたので楽しかった。

 次は何を読もうかな。

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