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ファジアーノ岡山をJ1へ導く。名将木山隆之監督の引き算の流儀

今月23日にJ2最終節を終え、残すはJ1参入プレーオフを残すのみとなった。J2の3~6位のチームが勝ち抜きトーナメントで対戦し、勝ち残ったJ2チームはJ1の16位と対戦して昇降格、残留を決する。

30日から始まるこの決戦に臨む今季J2の3位ファジアーノ岡山の戦いぶりは見事なものだった。多彩な陣形を使い分け、前線の個の力を引き出すような絶妙な配置、そして惜しみないハードワークで上位進出へ決めた。

このチームを上位へ押し上げたのは、木山隆之監督だ。これまでJ2で岡山を入れて5チームを指揮し、4チームを昇格参入POに導いた。だが悲願のJ1昇格をまだ掴めていないため、監督自身にとってもキャリアの正念場だ。

注目を集めるJ1参入POで木山監督率いる岡山は、クラブ初となるJ1切符を勝ち取ることができるのか。新聞記者の時に取材を通じて見続けた木山監督の手腕を振り返りながら、名将の戦略に迫っていく。

引き算の流儀

木山監督の選手選考は読みにくい。当時新聞記者だった時、私はモンテディオ山形を担当していた。当時の山形はJ2に在籍しており、J1を目指して奮闘していた。木山監督は相手に合わせて特徴のある選手を使い分けていた。

チームの印象としては、攻守のバランスを崩さない構成が印象的だった。FIFAやウイニングイレブンなどサッカーゲームでは、能力値の高い選手を組むことが多い。なぜなら数値の高い選手を組み合わせることで、個の能力差で局面に勝って得点の可能性を高めることができるからだ。だが木山監督はそういった選択はしない。

相手は守備的な戦術なのだから「もっと攻撃的なSBを配置すれば、もっと攻撃的な選手を前線に配置すれば」といった具合の安易な采配はしない。一見個の能力が低い選手を組み合わせても、試合では攻撃が繋がり、守備も綻びがないチーム構造を形成する。

強力な選手を組み合わせる足し算の采配ではなく、チームのバランスを保つためなら強力な選手をあえて外す采配。この引き算の流儀が木山サッカーの最大の強みだと推察している。そのためシーズン途中で大崩れせず、抜群の安定感を誇るのだろう。

コンディション管理と引き算

木山監督の引き算サッカーは、各選手のコンディションが大きく関わっている。木山監督には明確なコンディションの線引きがあり、調子の悪い選手は極力起用しない傾向がある。

例えチームトップスコアラーやメインGKであっても、無理を押して起用しない。この当たり前ができる指揮官は、多いようで少ない。プロサッカー選手は痛みを堪えて、多少無理してでも出場ことが多々ある。パフォーマンスを崩した選手から綻びを見せて敗れる展開も珍しくない。

だが木山監督が設定するパフォーマンスの線引きは明確であり、主力選手が不調であれば起用しない。この引き算の決断により、シーズンを通じてチームは安定してハードワークが遂行できる。

この線引きはポジション争いのモチベーションにもなるため、チーム内に健全な競争を生むことができる。木山監督のコンディション管理はシーズンを通して戦うための重要な戦略となっている。

選手の力を最大限引き出す多彩な陣形

多種多様な選手をコンディション管理しながら指揮を執る木山監督の戦術の神髄は、多彩なフォーメーションを使い分ける点にあるだろう。今季岡山では6つのフォーメーションを使い分けて戦った。

基本陣形の4-2-3-1は、今季17試合で採用した。ただ相手によっては4-1-2-3や相手が3バック時には3-1-4-2、3-4-2-1で迎え撃つ場面もあった。コンディションや戦術的思考で選手を入れ替える場合、基本陣形が機能しないことも考慮しながら陣形を設定する。

そのため、木山監督が陣形を考慮する際は細心の注意を払っている。過去に私が新聞記者だった時に、予想フォーメーションを作る業務に当たっていた時だった。この記者たちがせっせと作る予想フォーメーションをかなり嫌がっていたことを記憶している(ちなみに私はよく外していた苦笑)。

シーズンによってFWではない攻撃的MF小林成豪選手(現大分所属)がトップスコアラーになるなど、今いる戦力で最大限力を発揮するための配置を木山監督は常に熟考している。その多彩なフォーメーションは相手スカウティングからしても予想が難しいため、対策は立てづらい。

外国人嫌い?と言われた木山監督

「木山監督は外国人選手が嫌いなのでは?」と、ベガルタ仙台就任前までよくそんな話を耳にした。だが今は「木山監督は外国人選手に依存している」といった話も耳にする。

この短期間でここまで周囲の見方が変わる指揮官もそういないだろう。過去に私はモンテディオ山形在籍時の木山監督に外国人選手の起用について聞いたことがある。

木山監督は「別に、意図的に外国人選手を起用しないわけではないんだよ」と話した。求めるパフォーマンスを安定して発揮してくれる外国人選手がいれば積極的に起用したいと語っていた。

現在の岡山や仙台では監督の求める基準に達した外国人選手が多かったため、外国人選手の起用機会が増加したのだろう。実際に今季の岡山は5人の外国人選手が躍動し、岡山を3位へ押し上げる原動力となった。

これは余談になるが、私はこの質問の後に木山監督が一緒に働いて一番実力があった外国籍選手と一番才能を感じた選手を聞いた。

「外国人選手は水戸で一緒にやったパクチュホだね。本当に彼は良かったよ。才能を感じたのは特別指定選手で水戸にいた小林悠だね。2人とも今(2018年当時)は凄いよね」と木山監督。

パクチュホはドイツ1部ドルトムントで活躍した元韓国代表、川崎の小林悠は日本を代表する名ストライカーの特徴を優しい笑みを浮かべながら振り返っていた。

結—J1の挫折を経て—

2020年、キャリア初となるJ1の挑戦は17位と苦しい結果となった木山監督。新型コロナウイルス感染拡大により、世界中は混乱の渦中にあった。Jリーグも約4か月超の中断が実施され、その後はタイトなスケジュールでの戦いを強いられた。

たらればになるが、万全な準備をして大きなイレギュラーもなければ木山監督はどのようなサッカーを見せていたのか。今回あの挫折を経て、再びJ1の舞台へ舞い戻ろうとしている。

キャリア初のJ1初昇格をこの手に掴むことができるのか。過去に率いた山形と30日午後2時、岡山の本拠地シティライトスタジアムで激突する。J1参入POの激戦をこの目に焼き付けようと思う。

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