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憧れの山へ

冬の白馬。

初めて視界いっぱいに広がる白銀の北アルプスの山々をゲレンデから見たとき、その美しさに思わず数秒間息をするのも忘れていた。

そして、山には1つ1つ名前があって
その中に「白馬岳」という山があるのを知った。

更に聞くと、白馬岳は天空の楽園とも呼ばれていて、そこでしか咲かない花もあるという。
そして、白馬岳には夏でも溶けない「大雪渓」があり白馬岳に登る人はアイゼンを付けてそこに登っていくらしい。

なんだそりゃあ。

完全に今まで私が関東で生きてきた人生での想定を超えている。そんなおとぎ話みたいな山があるなんて。

白馬にある、白馬岳(しろうまだけ)。

登ってもないのにその山はやけに心に残り続け、後に登山を始めた中で、いつかそこに登ろうと心に決めていた。それは登ってみたいというより、どこか登らなくていけないという使命感に近いものだったようにも思う。

そして、
2022/7/31-8/1 
1泊2日テント泊にて念願の白馬岳縦走(猿倉-白馬岳-小蓮華山-白馬乗鞍岳-栂池)をしてきた。

念願の白馬岳。
時が経って記憶が薄れてしまったときのために、このNoteに残しておこうと思う。

***

◻️出発前
今回一緒に登るメンバーは3人。元モンベル社員という心強い経歴を持つ会社の先輩と、同期の女の子。
今年は梅雨明け宣言が異常に早いと思っていたら7月になってから連日雨が続き、更に低気圧が居座ったこともあって天気予報がずっと悪かったので今回も(去年も白馬岳計画を立てていたのだけど天気が悪くて断念した)正直ほぼ諦めていた。
ところが前日になって天気が脅威の回復を見せ、これは登れるのでは?なんなら雨に当たらず下山できるのでは?ということで決行することに。
油断していたこともあって準備を全くしておらず、バタバタとザックに詰め込んでアラームをセットし、早めに就寝した。

◻️当日
午前3時、アラームで起こされる。半分寝ぼけたまま準備を済ませて栂池ゲレンデに向けて出発。当たり前だけど外はまだ暗い。2時間の道中に寝ないようにかなり久しぶりに銀魂のアルバムを流しながら車を走らせた。中学生のときハマってたなぁ。懐かしい。

◻️栂池ゲレンデ到着
道中で夜が明けて山が見えた。もう既に神々しい。さすが北アルプス、そこら辺の山とは違う。写真では伝わらないけど余りにも壮大すぎて、これから自分の脚であの頂上まで登るという実感がまるで湧かなかった。

そして午前5時 栂池ゲレンデ到着。
今回はスタートとゴールが違う場所のためゴール地点の栂池に車を1台置いて、もう1台の車に乗り換えてスタート地点の猿倉へ向かう。
そしてここで携帯を機内モードにする。どうせ電波届かないのでバッテリーが最大限保つように。強制デジタルデトックスのはじまり。

◻️猿倉から出発〜白馬大雪渓
初っ端ここがキツかった…。何がキツいって、とにかく暑さ。標高がまだ低いから気温が下がらず無風で上からはガンガンの直射日光。こんだけ暑けりゃタオルもすぐ乾くと思って途中の小川で濡らして首に巻くことでなんとか命を取り留める。
雪渓まで行けばクーラー、の言葉だけを頼りに進む。
暑さはすごかったけど、白馬岳は水が豊富で近くに流れる川の音が常に聴こえて音(だけ)が涼しかった。

1時間半程歩いただろうか。

突然現れる「ようこそ 大雪渓へ」の文字。

大雪渓の入り口

おお、ここが大雪渓かー!!!

写真の大岩に隠れたところに雪渓があった。サウナかってくらい暑い場所に雪があるのが不自然だったけど、確かにそこに雪(というか氷)はあった。
遠くから見ると真っ白な山の模様は、近くだと結構茶色かった。
これが川の源流で、この氷が溶けて雪解け水となって川を作っていると思うと感慨深い。

ここで少し休憩してアイゼンを付ける。
それにしても長野に来る前は自分が北アルプスを毎年登ることも、ましてやアイゼンを付けて氷を登るなんて思ってもみなかった。3年間で随分と逞しくなったものだ…。

登る。

登り始めると、風が上から吹いてきて涼しい。こりゃあ確かに天然クーラーだ。
結構な急斜面で、これを2時間半登る。サクッとした感触が冬のゲレンデを思い出させる。あ〜、早くボードがしたいなあ。
雪は見た通り固くて、前の人達が通った足跡があるからそれに合わせて進んでいく。
最初は新鮮さもあって軽快な足取りだったけど、1時間後にはキツさが完全に勝つ。急斜面ということもあって前の2人との距離数十メートルがどうしても追いつかない。登山前、白馬岳に向けたトレーニングを各自やろうという話になり、2人はちゃんと走った記録をほぼ毎日グループラインに投稿していたのに私は1回も走らなかった。これが走るものと走らざるものの差か…ごめんなさい。走るの嫌いなんです…(元バスケ部)。

途中ガスに包まれると一気に寒くなる。雪渓に登る前は真夏の灼熱だったのに冬のような寒さに震える。

そんなこんなでヒイヒイしながらなんとか雪渓の上まで辿り着き、ここでお昼ご飯。おにぎりパック。正直ベタっとした海苔があまり好きじゃなくて普段は全く食べないけど、エネルギー切れの身体には染み渡る。

食べ終わったら山小屋に向けて出発。
ここからは雪渓の傍にある岩場を暫く進む。白馬岳は水が豊富であちらこちらから湧き出している。

水浸し

暫くするとお花畑に着く。白、黄色、紫、ピンク…と色とりどりの小花に囲まれる。鳥が鳴き、蝶も羽ばたいている。山奥にこんな楽園が広がっているなんて。天国ってこんな感じだろうかと思った。

あんまり良い写真なかった…(疲れてた)

一方で、先程の雪渓に体力をすべて置いてきたので身体はかなりしんどい。疲れてくると重い荷物が更に重くなって身体にのめり込むような感じがする。
最後山小屋が見えてからが長くて、歩いても歩いても辿りつかない。あれは幻か?
いや、いつかは着くはず…。頑張るんだ私…。

◻️白馬岳山荘到着 テント泊
なんとか小屋に到着。時刻はおよそ14時前。そのまま倒れ込みたいところだけれど倒れ込む先(テント)がない。受付を済ませてテント場に向かい、最後の力を振り絞ってテントを立て始める。ちなみに私はポールを広げてテントにパチパチと付けるのが好き。
4名用のテントは他になく、テント場で1番でかい城が完成した。
中に寝袋を放り投げて身体を入れ込む。は〜、極楽だわ。
暫し休んだあと、早速やることがないので宴を始めることとする。時刻は15時。
おやつの時間なんて関係なしに、ガスバーナーで味付き肉、野菜を焼き始める。
静かなテント場に焼肉のジュージューという音と匂いが立ち込める(風下の人すみませんでした)。

こう見ると無人島生活


焼肉の後はカレー。
カレーといってもレトルトではなく、ちゃんと野菜、肉を切って煮込むやつ。一緒に行った山のプロによるとこれにはちゃんと理由があるらしく、聞くと
「暇だから。」

…確かにレトルトだと一瞬でできてしまいますもんね。ご回答ありがとうございました。

カレーを煮込む間に白米を炊き、いつの間にか麻婆ナスも用意されて特別ディナーが出来上がる。
きゅうりは雪渓から持ってきた天然氷で冷やした。

すっぺしゃるディナー

3人で食べ、お腹いっぱいになったら今度はお酒が入ったこともあって眠くなる。
まだ18時だけど早起きと疲労で限界が来ていて、倒れるようにそのまま眠った。

そして夜中1時頃。隣の人に起こされる。
「星が見えるよ」

急いで起きて外に出ると、数えきれない程の星に包まれる。星との距離感が分からくなって、まるで自分が宇宙の中に立っているような感覚になった。
天の川も目の前にあるかのようにはっきりと見えて、瞬きの合間に幾つもの流れ星が見えた。

毎日自分が何にも考えずにベットで寝ている間、山ではこんな世界が広がっているなんて知らなかった。

30分弱ほど見ていると寒くなってきたので寝袋に戻って再度眠りについた。

◻️翌日
あっという間に朝がくる。日の出は6時前のため、5時半くらいには起きて太陽を拝める場所に向かう。

だんだんと明るくなる空

暫く待っていると太陽が遠くの雲から顔を出した。
そこからは一気に世界が目覚めていく。
さっきまで真っ黒だったシルエットに光が当たり、北アルプスの他の山々が赤く染まる。

笠雲が見える…🌦

朝日を拝んで戻るともう殆どのテントが撤収し始めていた。山の行動時間は早い。
私たちがテントに戻ってから優雅に朝食(焼いたウィンナーを挟んだパン、コーヒー)を食べ終わる頃には、他のテントの姿はなかった。

若干急いでテントを畳んで、2日目の行動スタート。
実はまだ白馬岳頂上に着いていない。頂上はテント場から20分ほどの別の小屋を抜けた先にあるため、そこを目指して進む。

そして白馬岳頂上へ。標高2932m。

少し振り返ると山小屋

何だか着いてしまうと呆気ないというか、地上から見るとあんなに高かった白馬岳の1番高い地点に自分が立っているのが信じられない気持ちが大きかった。
そして後から達成感が追ってくる。上手く言葉に出来ないのが悔しいのだけど、この時の達成感は他の山とは少し違った。

頂上で少し休憩をして、次は下山。
下山といっても今回はいつもと訳が違う。
縦走で登りと同じ道を通らないためずっと景色が違うし、なんといっても登山を始めてから憧れていた稜線での天空の散歩コース。

目の前に広がる山の縁取りを降りていく。

地上は30℃を超える暑さでもここは高度3000m近く。
風が気持ち良くて涼しい(一方で直射日光の暑さもやばい)。

遠くから見ると狭ーい道見えても、いざそこに行くと大人3人くらいは余裕で通れる広さのためそこまで怖さはない。

まぁ、一歩乗り出して下を見るとすごい高度だったけど。

そして足元を見るとコマクサの群生。
夏には地上の何倍もの強い日差しと乾燥、冬は深い雪と強風が吹き殆どの植物が生きられない場所で、白い殺風景な砂礫地にピンクを彩る高山植物。なんともエキゾチックな形の花。
このコマクサ、とっても小さいのに根は2m近くあるらしい。

稜線を暫く進んで小蓮華山頂上に着き、それを更に超え白馬乗鞍岳へ。

この辺り、かなり省略して書いてるけど実際めっちゃしんどかった。辛さの故写真も殆どなし。笑
初め2時間くらいまでは楽しく歩いていたけれど、下山と言っても登りもあって、一度降りた標高をまた登るというのは精神的にもきつく、更に白馬大池を過ぎてからは直径1m超えの大岩を延々と登っていったので、体力もだいぶ削られた。

下山でこんな登るとは知らなかったのでぶうぶう文句垂れながら進み、途中お昼を食べて回復し、また下山。いつの間にか森の中に入り、景色も霧に包まれる。確か2日目の午後は天気が少し崩れるって予報だったっけ。
直射日光の暑さはないけど今度は湿気で蒸し蒸し。これはこれで不快さが付き纏う。

私から同行者へのゴールまだですか?の問いに対するもう少し!という回答に少し気分が上向きになったものの、何回かそのやり取りを繰り返すうちに「この人嘘つきだ…」と信じなくなった(その人はやる気出しのために言ってくれてたのは分かる)
看板に書いてあるあと20分という表記にも心踊ったけど、その後いつまで経ってもゴールに付かず、下山の後半には完全に人間不信になっていた。山で信じられるのは己だけです。

そうしてゴールのロープウェイ駅に着いたときは疲労困憊。気づけば休憩含んで6時間を超える下山だった。

※下山の写真なさすぎる

今回学んだのは、ピストンだと帰りに「ここまで来たからゴールはもう少しだ…!」となるけど縦走はどこまで進んだか実感しにくいこと。体力気力が限界に近い中でゴールが見えないというのはこんなに辛いものなのだと知った。

あ、辛かった下山中のハイライトは雷鳥。
雷鳥がよく現れることから名付けられた雷鳥沢というスポットで血眼になって探していたら出てきてくれた。むちむちボディがたまらん。

どこにいるでしょう?

◻️登り終えて
いやー、長かったです。
重いザックを背負って1日目8時間、2日目7時間。自分を褒めてあげたい。頑張ったご褒美に滅多に行かないスタバであっまーーいカフェモカ(クリーム増量)を飲んだ。
2日間の登山でこんなに長くて、お風呂入らないのも限界なのに3泊も4泊もする人もいるんだから、全く山(+人)というのは恐ろしいもんだ。
下山が辛すぎてもう暫く山はいいや…と何度も思ったけど、1ヶ月経った今ではもうあの空気、景色、何なら辛さまでが懐かしくてもう山に行きたくなっている。きっと山に登ると中毒性のある変なものが分泌されるんだと思う。

これまで北アルプスには他の山に3度登ったことがあったけどあまり天気に恵まれなかった。そこに今回、憧れの白馬岳に晴天で登ることができて本当に良かった。

大迫力の大雪渓、満点の星空、神秘的な朝日とモルゲンロード、天空のお散歩、雷鳥、色とりどりの沢山の高山植物…とまさに山のフルコースを堪能できて、お腹いっぱい。

憧れの山に登れて満足かと思いきや、今度はあの季節に、あのメンバーと行きたい、という思いが出てきてなんとも人間の欲深さは怖い。
まぁ、この欲があるからこそ日頃の嫌なことも頑張れるってものよ。

しかしまぁ下山は辛かった。

白馬岳。完。

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