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【山梨県立美術館】特別展「ミレーと4人の現代作家たち」を見に行く
はじめに
山梨県立美術館では、開館45周年を記念して、収蔵するミレーの作品とともに4人の現代アート作家の作品を展示する特別展「ミレーと4人の現代作家たち―種にはじまる世界のかたち―」(2023.7.1~2023.8.31)が始まりました。
農民の生活を切り取って作品にしたミレー、それらをテーマごとに現代作家との共演により、いまの視点でとらえようとする試みです。
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前回の特別展「山梨県立美術館コレクションREMIX」では収蔵作品の、新たな鑑賞方法、活用方法を探ったりするなど、本年は挑戦的な展示が多い山梨県立美術館です。
屋内の気になるもの
美術館のある芸術の森公園の屋外彫刻もほぼ紹介しましたので、今回は館内の作品を紹介します。
本館1階の県民ギャラリーへ続くロビーを飾る壁画があります。福沢一郎(1888~1992、明治21年~平成4年)の《失楽園》です。縦2.9メートル、横9メートルの作品です。しかも、福沢が80歳を過ぎてからの製作です。福沢は、その後も大型の作品を精力的に描き各地に残しています。
前橋市民文化会館《上毛野の国》11メートル超、
伊勢崎市文化会館《騎馬民族征服王朝説》7メートル、
東京青山こどもの城《大洪水》10メートル、などです。
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ミレーと4人の現代作家たち
ミレーと現代作家との共演である「ミレーと4人の現代作家たち―種にはじまる世界のかたち―」(2023.7.1~8.23)は山梨県立美術館の開館45周年を記念した展覧会です。
4人の現代作家は、山縣良和氏、淺井裕介氏、丸山純子氏、志村信裕氏です。
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展示室は南館の特別展示室です。ミレーの作品は、普段ならば本館2階のコレクション展A(ミレー館)にて展示されていますが、特別展示室へ移動しています。
本展は、ミレー作品も含め写真撮影が可能です。ただし、借用している作品は撮影不可となっています。
プロローグ : 落穂拾い
導入展示の《落ち穂拾い》は和田英作(1874~1959、明治7年~昭和34年)がフランスへ留学時の1903年にルーヴル美術館で模写したといわれるものです。師事していたラファエルコランの作風により、ミレーより淡く明るめに描かれています。これも作家による視点の違いの好例でしょう。
この作品は、撮影不可のため出典を明記し画像を借用しました。
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第1章 移動・創造 山縣良和
まず、初めのテーマは「移動、創造」です。ミレーが様々な土地で描いた作品を展示します。ミレーはノルマンディー地方の農家に生まれ、シュブールで絵を学び、その後パリへ出て美術学校へ通います。その後、バルビゾンへ移り農民画を描くなど状況に応じ住まいを変えています。また肖像画、神話、宗教画など作品テーマも状況に応じたものになっています。
山縣良和氏(1980年~、昭和60年~)は、ファッションデザイナーであり作家、そして「coconogacco(ここのがっこう)」主宰、東京藝術大学の講師といった教育者でもあります。
ミレーとの共演は、インスタレーションによる《Field Patch Work つくりはかたり、かたりはつくり》です。
本展では、「Field Patch Work つくりはかたり、かたりはつくり」と題し、山縣が近年活動の場として広げている長崎県の小値賀島と山梨県の富士吉田市、それぞれの土地に刻まれた記憶や、人々の生活の中に生きづいてきたものからインスピレーションを得て制作された作品などを、ミレーの各期の作品とともに配置し、インスタレーションとして展示します。
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インスタレーション作品群は、ファッションデザイナーということで衣類やミシン、織機が登場します。また、人物の顔はホウキだったり雑巾だったりします。配布された作者による解説が参考になりました。
「家内制手工業」と題された作品。富士吉田は織り物の町です。それは「半農半機」であるといいます。仕事場と生活の場はつながっているそうした空間表現でしょうか。
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「Ojika Tailor(小値賀テーラー)」と題されたミシンを扱う姿作品。小値賀島で出会った「Ojika」と刺繍されたテーラードスーツとの出会いから生まれた作品といいます。足踏みミシンがどこか懐かしさを表しています。
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作者自身のルーツという長崎、コロナ渦の制限の中でリモートで繋がりながら長崎と小値賀島のリサーチから得た着想によって描き出した作品郡(3点)です。
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野外に置かれた衣類が朽ちていく経過を眺める人たち。
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ミレーの愛妻の肖像画や物語を描いた作品と古道具の共演です。
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コロナ渦も落ち着き、写真家田附勝氏、濱田祐史氏らともに小値賀島などへ3年ぶりの来島の時の模様からの写真作品。
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「刻み込む土地」と題された作品。小値賀島はかつて潜伏キリシタンの集落があったそうで、島には刻み込まれた痕跡がある。石垣や崩れた塀はミレー《古い塀》と重なる印象だったそうです。
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「歴史をほぐし織る」と題された作品、富士吉田の織機を実際に運びこみ「ほぐし織り」の生地制作を実際に行っています。
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「coconogaccoと富士吉田」と題された作品たち、作者が2008より主催するファッション表現と学びの場である「coconogacco(ここのがっこう)」。現役受講生とのインスタレーション作品です。
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ミレーの作品も個別に掲載しておきます。
《ポーリーヌ・V・オノの肖像》はミレーの最初の妻の肖像画です。結婚から2年後ポーリーヌは結核により亡くなります。
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《ダフニスとクロエ》は古代ギリシャの詩人ロンゴスによる恋愛物語の一場面を描いたものです。ミレーが生活費を得るために描いた絵のひとつです。
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《古い塀》はミレーが風景を描き始めた頃の作品です。
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1870年、ミレーは普仏戦争で戦火を逃れフランス北西部の港町シェルブールに半年ほど滞在しています。《クレヴィルの断崖》はほど近い港町から描いた風景です。
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《眠れるお針子》は再婚した妻であるカトリーヌを描いた作品と言われています。
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《無原罪の聖母》はローマ教皇のピウス9世のための特別車両の礼拝室に設置するために制作を依頼されたものです。
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リトグラフやデッサン、習作も展示されています。
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《ダニエル・ブーンとギャラウェイの娘たちの救出》1851
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第2章 大地 淺井裕介
続いては、「大地」がテーマです。
淺井裕介氏(1981年~、昭和61年~)です。《種をまく人》など大地が描かれている作品と淺井氏の作品の共演では、山梨県内の神社、農地、そして美術館の敷地内で採取された土を用いています。
ミレーと同様に、淺井裕介の作品においても、大地は重要な役割を果たしています。土と水で描く「泥絵」シリーズは、作家の制作活動を強く印象づけるものです。制作を行う地域で、土や水を採取する過程で出会った人々、また、共同制作者として地域で募るボランティアの人々との交流など、その土地での様々な体験を想像力の源として、生命力溢れる作品を生み出します。
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床面に描かれた5メートル×10メートルの泥絵《命の寝床》の上を歩くことが出来ます。
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《種をまく人》はバルビゾン村に移りはじめて手がけた大作です。《種をまく人》という題材にミレーはたいへん興味をもっていました。
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また、次の2枚は《種をまく人》ですが、印象が対照的に異なります。この2点は赤い壁の外側に配置されていました。つまり中心をミレーの《種をまく人》にして3枚並ぶという形です。
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作品に使用された土の採取地のマップがありました。桃、ぶどう、水田、神社、縄文遺跡など山梨を代表する「大地」の土を採取しています。
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《種をまく人》のほかのミレー作品を見てみましょう。
こちらは、スイス国境近くのヴォージュ山地へ旅行し描いたパステル画の作品です。
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また、普段展示されてない寄託作品もありました。
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出典 : 山梨県立美術館HP
壁にはエッチングやリトグラフが7点飾られています。いずれも働く農家の人の姿を描いた作品です。
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さらに、ミレーの習作が4点並びます。
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第3章 循環、再生 丸山純子
続いては「循環、再生」がテーマです。
丸山純子氏(1976年~、昭和51年~)は甲府市出身です。家屋だった木材やレジ袋など身の回りから循環型社会を表現します。
本展では、かつて家屋であった木材、台所に食材を運ぶのに使われたレジ袋、食事を作るのに使用され、役目を終えた廃油を用い、これらに再び命を吹き込むかのように、新たな風景を現出させます。その光景は、再生、循環を繰り返しながら紡がれていく、人や自然の様相と重なりあうものではないでしょうか。
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よく見るとレジ袋を使った花です。
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《落ち穂拾い、夏》、これも貧しい農民の姿です。背後の収穫された穀物の大きな山と対照的に畑を持たない農民は、地主が残しておいた穂を拾っていました。
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《鶏に餌をやる女》、モデルは後妻のカトリーヌといわれています。
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《雁を見上げる羊飼いの少女》、彼女たちは羊を見張りながらその間に編み物をしていたのでしょうか。ころげ落ちた毛糸玉が描かれています。
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《凍えたキューピッド》は四季連作の「冬」の作品です。古代ギリシャの詩人アナクレオンの詩から着想を得ています。
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エッチング、ガラス版画の作品です。
《母の心遣い》1862
《ミルク粥》1861
《牛乳をかき回す女》1855~56
《桶の水を空ける婦人》1862
こうした題材も生活の姿が描かれています。
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第4章 人、家畜、生活 志村信裕
締めくくりは「人、家畜、生活」がテーマです。会場のスクリーンには羊の毛を刈る映像などが流れています。
志村信裕氏(1982年~、昭和57年~)は映像作家です。
《Nostalgia, Amenesia》と題された氏の作品は、スペインの隣フランス領バスクで営まれる、羊と共にある生活の様子が映し出されます。一方で成田空港の建設による立ち退きに抵抗する千葉県成田市三里塚で農業を営む男性の様子が交互に映し出されます。一見、関連性の薄いテーマについて次のように解説しています。
社会とともに生活が変容し、忘れ去られていく人と労働のイメージが、ノスタルジア(懐古)、アムニジア(健忘症)というタイトルとともに、「記憶」として表現されています。
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スクリーンの周囲にミレーの作品が展示されています。
《夕暮れに羊を連れ帰る羊飼い》《角笛を吹く羊飼い》など羊飼いは農民から距離を置かれた存在でしたが、聖書の中では「聖なる賢者」として描かれていてミレーが好んだ題材でした。
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《羊の毛を刈る女》は撮影でききない作品のためHPから借用しました。
同様の構図でサロンに出品された作品があります。後ろの男性には表情はありません。女性はたいへん大きく描かれています。
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エッチング、ドライポイントの作品です。
羊飼いや糸紬ぎなど、家畜とともにある生活を描いた作品です。
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ミュージアムショップでは、既存のミレーグッズやミレー作品の図録とともに4人の現代作家の作品集を販売しています。
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おわりに
9年ぶりとなるミレーの特別展は、現代作家と共演する全く新しい展示でした。展示室を移動する毎に期待と驚きを感じさせてもらいました。
ちなみに、この展示の期間中コレクション展A(ミレー館)では、西洋版画コレクションが展示されています。普段ほとんど展示されることのない収蔵品なのでこちらの鑑賞もおすすめです。
外は猛暑ですが、涼しい美術館にて山梨の自然を感じるシーンのある一日でした。
富士見の窓からは、夏の富士山が見えました。2023年6月で富士山の世界文化遺産への登録からちょうど10年になります。
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