【山梨県立美術館】特別展「山梨県立美術館コレクションREMIX」を見に行く
はじめに
本年、山梨県立美術館は1978年(昭和53年)の開館から45周年を迎えます。節目となる特別展として「山梨県立美術館コレクションREMIX」(2023.4.22~6.11)が開催されています。
山梨県立美術館はミレーの美術館として有名になりましたが、山梨県ゆかりの作家の作品の収蔵にも取り組んできました。今回の特別展はこうした収蔵品(コレクション)の新たな鑑賞方法、活用方法の可能性を探る展示となっています。
屋外の気になるもの
芸術の森公園内にある屋外アート作品の紹介も残りわずかです。今回も彫刻作品2点を紹介します。
まず、バラ園を見下ろす丘の上に少年の像があります。佐藤忠良《カモシカと少年》です。山梨県からの依頼により制作されたものです。カモシカは山梨県の県獣です。
作者の佐藤忠良(1912~1911、明治45年~平成23年)は彫刻家となる前は画家を志していました。その頃手がけたのが『おおきなかぶ』の挿絵でした。
次に、近代彫刻三巨匠の一人オーギュスト・ロダン(1840~1917)の作品です。フランス風景画の巨匠クロード・ロランをモデルにしたもの。
ちょうど富士山が木々の間に見えました。新緑の休日は芸術の森公園は訪れる人でいっぱいです。
山梨県立美術館コレクションREMIX
山梨県立美術館は、開館時より山梨県ゆかりの作家の作品を中心に収蔵品の充実を図ってきました。これらは、主に常設展(コレクション展)として季節ごとの入れ替えを行い展示されてきました。
今回の特別展は、常設展で柱となった収蔵作品を紹介するとともに、新たな鑑賞方法、活用方法から新たな可能性を探るという、試みの要素の強い展示となります。タイトルも「リミックス」と音楽分野における再編集から新しい楽曲を作ることを意味しています。
第1章 常設展スタメン
展示は南館の企画展示室で行われます。常設展は開館当初からの建物である本館で行われますので、のちに増築された南館で展示されること自体が普段とは異なります。
展示は3章にテーマを分けて60点の作品で構成されます。
第1章 常設展スタメンは、開館の年に常設展で展示されたり、定番の収蔵作品を常設展の「スターティングメンバー」と銘打って紹介しています。
開館最初の常設展で展示された作品が当時の写真とともに紹介されています。
まず、桑原福保《画室の朝》1949、進藤章《蓮池》1940~45があります。
桑原福保(1907~1963、明治40年~昭和36年)は笛吹市の生まれ、《画室の朝》は日常の穏やかさの現れた油彩画です。
新藤章(1900~1976、明治33年~昭和51年)は北杜市の生まれ、《蓮池》は盛期を終えた蓮池に光が照らしている日本画です。
続いて、土屋義郎(1900~1991、明治33年~平成3年)油彩画があります。 市川三郷町の生まれ、岸田劉生に師事しています。
土屋義郎《皿にもったざくろ》1975、
土屋義郎《あざみ》1975は、厚塗りの色彩が特徴的です。
開館当初の常設展の様子を写したものですが、上記の絵が展示されています。
収蔵作品は作家本人や、遺族からの寄贈が多く、故郷の美術館への期待が大きかったことが紹介されています。特に開館時期の前後に寄贈されたものはこれらの作品には寄贈式の様子を紹介したり、過去の展示の様子を添えて展示しています。
さらに日本画の作品が続きます。
望月春江《寒月梅花》1976は、晩年の大作で中央に満月、白梅の枝が包み込んでいます。
穴山勝堂《白壁に描く》1941は、白壁に映る植物の影を描いた作品。
川崎小虎《牡丹灯籠》1960は、物語を題材にしたものです。川崎小虎は東山魁夷の義父。
近藤浩一路《覚円山雨》1928は、水墨画に転じてから昇仙峡を描いた作品。
山田申吾《シェルパの歌》1969は、ネパールの少数民族であるシェルパの生活に取材したもの。
さらに開館時の常設展を彩った作品として、ポールホリウチ《静寂》1978、増田誠《脱出》1976があります。
ポールホリウチ(1906~1999、明治39年~平成11年)は富士河口湖町の生まれ、《静寂》はコラージュ作品で、矩形に切った紙に地面のような茶色い景色を組み合わせされた作品です。
増田誠(1920~1989、大正9年~平成元年)は都留市の生まれ、聖書や神話を題材にしました。《脱出》は聖書の出エジプト記を描いた作品です。
さらに昨年、特別展を行われた甲府市出身のシュルレアリスム画家米倉壽仁(1905年~1994年、明治38年~平成6年)の《モニュメント》1937も開館時からの作品です。空や地平線などダリの作風が見られる時代の作品です。
また、現代版画の巨匠と呼ばれた深沢幸雄(1924年~2017年、大正13年~平成29年、富士川町出身)と萩原英雄(1913~2007、大正2年~平成19年、甲府市出身)の作品があります。開館してから作品展がそれぞれ開催されています。
深沢幸雄は、《掌の中の影》1976、《星の門》1972、が展示されています。メキシコの伝統的造形や風土に触発されて制作していた頃の作品だといいます。
深沢幸雄については、富士川町の「富士川近代人物館」でもを紹介しています。
深沢幸雄は、《石の花(赤)》1960、萩原英雄《仮面No.7》1964、が展示されています。
萩原英雄は、2000年(平成12年)に自身の作品と蒐集品が寄贈され、南館に萩原英雄記念室が設けられ寄贈品を入れ替え通年展示されています。
土地と庭について
美術館が建設されたこの場所は、県の農事試験場(後に農業試験場)でした。美術館開館時には施設の一部が残りましたが、1982年に竜王町(現甲斐市)に完全に移転したことにより、敷地内に文学館が建設され芸術の森公園として現在の規模に整備されました。
美術館の正面に設置されたヘンリー・ムーア《四つに分かれた横たわる人体》は、1978年(昭和53年)開館時からのものです。
展示ではクレーンで釣り上げた設置作業の様子の写真や、収蔵するヘンリー・ムーアのリトグラフ6点を紹介しています。
アントワーヌ・ブールデル《ケンタウロス》は開館から5年後の1983年(昭和58年)に収蔵したものです。半年前に開催された「ブールデル展」(1982.9.11~10.24)が収蔵きっかけになりました。
展示では、ブールデルのケンタウロスの画が2点展示されています。
現在は水が抜かれていますが池の隣には、岡本太郎《樹人》1971 があります。太陽の塔の内部の生命の樹に通じるモチーフです。収蔵は1982年の収蔵です。半年前に「岡本太郎展」(1982.9.11~10.24)が開催されことがきっかけになりました。
展示では、岡本太郎のスクリーンプリント4点が展示されています。
さらに解説によれば、池の周りは開館当初は日本風の庭園として整備されました。彫刻家で作庭家の流政之が関わりました。前川國男が設計した東京文化会館小ホールの室内構成も流政之が担当しています。山梨の風土を意識して信玄堤、道祖神などを取り入れています。
第2章 コレクション親睦会
収蔵品でも、作品の年代や手法、サイズ的な違いから、普段ならば決して並べて公開されることがない作品にも意外な共通点があります。
「親睦会」と称して、4コマの会話調のキャプションを設けて、作品が互いを自己紹介し、共通点を語り合ってもらうという遊び心をもたせた展示です。
画像は今回の展示室の様子ですが、サイズが大きく異なる作品が並んでいます。望月春江《惜春》1978と萩原英雄《山又山》1981~86ですが、両者は日本画と木版画という違いもあり、本来であれば決して一緒に展示されることはありません。
しかし、この2つの作品はホールの緞帳に採用されているという共通点があります。
望月春江《惜春》は山梨県民には、作品そのものより県民文化ホールの緞帳の八重桜としてのほうがなじみが深い作品です。望月春江(1893~1979、明治26年~昭和54年)は甲府市出身の日本画家です。《惜春》をはじめ20点もの作品を寄贈しています。
一方、こちらは萩原英雄の木版画、三十六富士シリーズの《山又山》です。こちらは、隣にある県立文学館の講堂の緞帳に採用されています。
5月3日に限り、県立文学館の講堂の解放し、緞帳を自由に見学できました。原画と緞帳で比べると分かるのですが、ステージは横長になっており、萩原氏本人により手が加えられ横長に延長されたとのこと。
望月春江《惜春》も横長に延長された原画が展示されています。
他にも、いくつかの「親睦会」を紹介します。
作者にとって大切なモチーフが描かれた作品です。
マルク・シャガール《花束》1911は、シャガールが繰り返しモチーフにした花束です。
河内成幸《思考の扉を開けよ(1)》1997は、飛べない鶏が何羽も描かれています。
次に、自然をテーマにしたという共通点の作品です。
古屋正壽《暮秋》1929は、山梨の近代日本画の草分けである古屋正壽による大きな山水画です。
一方、遠藤享《SPACE & SPACE /N-1512》2015と遠藤享《SPACE & SPACE /N-1506》2015は、リトグラフ作品です。(画像はありません)
次に、日本画と陶芸でどちらも岩絵の具を使っているという作品です。
のむら清六《ハハコ像》1966は、日本画でありながら、油彩画のような重厚さがあります。
一方の武田成功《花蛍(韮崎は蛍の里)》2005は、陶芸作品で粉砕したガラスを型に詰めて、窯に入れ焼成してガラスを溶かすパート・ド・ヴェールという手法で作られています。
次に、女性と団扇が描かれつつも、年代が100年異なる作品が並びます。
野口小蘋《美人招涼図》1887は、この日本画の着物の女性が団扇や薄手の着物からら夏の涼しさが伝わります。野口小蘋は甲府の酒蔵の妻で明治期から大正期に活躍した南画家、日本画家です。
一方、櫻井孝美《テーブルのある風景-暑い夏》1984は、赤い壁の室内でいかにも暑そうに団扇を仰ぐ薄着の女性です。
次に、やわらかい日の光の当たり方が特徴の作品です。
小磯良平《朝のひととき》1976は、ヨーロッパ絵画の伝統に基づいた人物表現を追求した洋画です。三人の人物にやわらかい日差しが差し込んでいます。
秋山泉《静物V》2008は、甲府市出身の秋山泉による鉛筆画です。白い器を濃淡で背景まで描き込んでいます。
第3章 21世紀生まれの作品たち
収蔵作品は毎年増えています。45年前の開館初年度の常設展の作品に対して、2001年以降に制作された比較的「若い」作品を紹介しています。
ミレーが描いた「種をまく人」の次の瞬間を描いた作品が、福田美蘭《ミレー「種をまく人」》2002、です。
ミュージアムショップでは複製画として《種をまく人》とともに並んでいましたので撮影してきました。
甲州市出身の阪本トクロウの風景画《ドリフター》2008は、画面の大部分が曇り空で占められています。
オランダの造形作家テオ・ヤンセンの《アリマリス・オルディス》2018、という「ストランドビースト」があって、こちらは動かすことが出来ます。
ストランドビーストは、プラスチックのチューブや結束バンドなどから作られた人工的な生命体です。本来は砂浜で風を受けて移動しますが、会場で直接押して移動させることができます。
実際に筆者も押してみましたが、意外に軽く、それほど力を使わなくても前後に移動させることができます。ギシギシとパイプの擦れ合う音がするので、壊してしまわないか心配になります。
おわりに
以上、45周年を迎える美術館の回顧展的な展示でした。開館当時を知る人には懐かしいと思う反面、近年のファンや県外からの観覧者にはどうでしょうか。
この美術館のもうひとつの柱であるミレーに関する特別展があってもよいものをと思っていたところ、特別展「ミレーと4人の現代作家たち」(2023.7.1~8.27)が予定されています。現代作家とミレーの展示になるようです。
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