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【山梨県立考古博物館】特別展「星降る中部高地の縄文世界」を見に行く
はじめに
山梨県立考古博物館はこの秋で開館40年を迎えます。7月に入り40年を記念する特別展「星降る中部高地の縄文世界─黒曜石ネットワークによる物流と人流─」(2023.7.8~9.3)が始まりました。
縄文時代の遺跡の多い山梨は、2018年(平成30年)に長野県と共同により日本遺産「星降る中部高地の縄文世界」に登録されました。今回の展示では、長野県も含め中部高地の縄文に関わる逸品が多く貸し出されています。とくに山梨ではあまりお目にかかれない、岡谷や諏訪からも貸し出されていて、中部高地の縄文を一カ所で体感できる展示となっています。
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星降る中部高地の縄文世界─黒曜石ネットワークによる物流と人流─
サブタイトルの「黒曜石ネットワークによる物流と人流」というテーマからも黒曜石により中部高地の縄文人が物流と交流を行いどのように周辺地域と関係し影響を与えたか、という内容です。とにかく出品数が多く黒曜石などの石器、土器、土偶などを一堂に見られるお得感満載の展示です。
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「星降る」に合わせて全体的に夜空の紺色に星をキラキラさせたデザインです。ゲートもデザインを合わせています。
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展示の見取り図がありました。全4章で構成されています。もともと常設展示室であるため、常設展示は内容を縮小して普段は企画展示に使用する奥の展示室へ移動させています。
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序章
見過ごしてしまいそうですが、序章としてエントランスホールにて黒曜石の原石を展示しています。ここは誰でも見ることができますので黒曜石を実際に見て感じてもらおうというサービス展示です。
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手前は星が塔(下諏訪町)の原石、その隣が星糞峠(長和町)の原石です。
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第1章 黒曜石の原産地と物流
チケットカウンターから展示に入ります。まずは、黒曜石とともに日本遺産「星降る中部高地の縄文世界」のストーリーを紹介しています。
中央に置かれライトアップされているケースには下諏訪、岡谷、安中の黒曜石が展示されています。
ご存じの方も多いと思いますが、日本遺産は世界遺産や文化財指定はとは性質が異なり、ストーリー性を持たせて関連付けることで地域活性化を目的とするものです。日本遺産のポータルサイトにもその旨は謳われています。
文化財や地域の歴史などをパッケージ化して魅力を発信する観光商品といったところです。そういう趣旨の日本遺産についての是非は置いておいて、今回の展示のすばらしさを堪能することにします。
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安中市(中野谷松原遺跡)、岡谷市(清水田遺跡)、下諏訪町(一の窯遺跡)の黒曜石です。
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奥に進みますと、茅野市(高風呂遺跡)の黒曜石があります。
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また、こちらのケースでは、甲州市塩山(大木戸遺跡)から発見された原産地が複数ある黒曜石を紹介しています。
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国内各地の黒曜石の産地を紹介しています。
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さらにパネルのトピックとともに関連する品々を紹介しています。
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「黒曜石ネットワークの中核のムラ」と解説があります。北杜市の天神遺跡の石匙は「天神型石匙」と呼ばれ二等辺三角形の特徴があるそうです。北陸地方の技術が導入され作られた石匙は関東地方へ運ばれていたといいます。
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「大事にしまった黒曜石」と解説のある中丸遺跡(富士吉田市)の黒曜石です。富士山噴火を背景に、注口土器と8点の磨製石斧と黒曜石の原石が埋納されていたとのことです。
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かつて「曽根論争」となった諏訪湖底の曽根遺跡から矢じりの展示です。
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水晶の石器についても紹介しています。黒曜石のように石器の材料として利用されたものの水晶は硬いため加工が難しいです。それでも石鏃に水晶も利用されたようです。
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水晶の石器については春の企画展で紹介いたしました。
第2章 地域との交流の広がり (1)顔面装飾
次は土器などから地域交流の広がりを概観します。
まず、顔面装飾のある土器や香炉型土器(吊手型土器)など顔の装飾のついた土器が並びます。
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岡谷市からは、顔面把手付深鉢(榎垣外遺跡)と顔面把手付深鉢(目切遺跡)です。
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原村(大石遺跡)の顔面装飾付深鉢です。平たいですが、ハート型の顔がチャーミングです。
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さらに、
蓑輪町(丸山遺跡)の顔面把手付深鉢
伊那市(御殿場遺跡)の顔面付吊手土器
茅野市(辻屋遺跡)の顔面装飾付土器
八王子市(中原遺跡)の顔面把手付深鉢です。
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たいへん大型ものは、甲州市塩山(柳田遺跡)の顔面把手付深鉢です。普段は国立歴史民俗資料館にあります。顔面把手ですが、他の土器と同じくらいの大きさのせいかバランス的に小さく見えます。
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さらに、
伊那市(月見松遺跡)の顔面把手付深鉢
志木市(西原大塚遺跡)の顔面装飾付土器
北杜市(原町農業高校前遺跡)の顔面把手付深鉢
長泉町(上山地遺跡)の顔面把手付深鉢の破片
山梨県立考古博物館(海道前C遺跡)の顔面把手付深鉢
裾野市個人蔵(桃園尾畑遺跡)の土偶装飾付土器
と続きます。
北杜市の顔面把手付深鉢は顔は球状しています。
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本展では顔面装飾について「装飾性文様」「物語性文様」があると解説しています。前者は美的な装飾であり、後者は神話や物語に共通する登場人物だといいます。
そして土器の文様にすることで使用する局面に応じて、伝えられるのだといいます。広範囲に精神的な共通する認識があったことが分かるそうです。
土偶装飾のついた土器もやってきています。
相模原市(大日野原遺跡)の土偶装飾付深鉢です。
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ふと昭和時代の仮面ヒーローでこんなボスキャラがいたようです。
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第2章 (2)イノシシ装飾
次に、イノシシ装飾を大きく扱っています。山梨県埋蔵文化財センターの研究者で2020年に急死した故今福理恵氏のイノシシの被り物姿を思い出す筆者です。
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こちらのケースは手前にヒスイがありますが、そのほかはほとんどイノシシです。
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正面の イノシシ獣面把手は安中市(中野谷松原遺跡)のものです。
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把手だけでなく土器全体もあります。こちらのイノシシ装飾土器も中野谷松原遺跡のものです。
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第2章 (3)ヘビ装飾
イノシシに続いて次はヘビの装飾です。
ヘビやカエルとなると富士見町の井戸尻考古館や茅野市の尖石縄文考古館が本場ですので、
富士見町(曽利遺跡)の蛇文半人半蛙交会文深鉢
富士見町(下原遺跡)の蛇文深鉢
八王子市(日南田遺跡)の小型深鉢型土器
茅野市(中ッ原遺跡)の蛇文装飾付土器
といったヘビ装飾代表選手が並びます。
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原村や富士見町の井戸尻考古館が所蔵するヘビ装飾の土器が横一列に並びます。圧巻です。
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第2章 (4)ヒスイなど装身具
交流といえば、新潟県のヒスイなども黒曜石とともに流通されてきました。石の装身具があります。
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第2章 (5)人体文様
常設展示の姿のまま鎮座する館所蔵の殿林遺跡の大型深鉢です。履歴書付きで紹介。
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厚木市(林王子遺跡)の土偶装飾付有孔鍔付土器
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山梨発上陸「多摩のヴィーナス」こと多摩ニュータウンNo247遺跡の採色土偶です。
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笛吹市(一の沢遺跡)の人体文土器です。踊る4人の姿が描かれていて、解釈は諸説あります。
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上画像の人体文土器の展開写真が下の画像の背景です。
ところで、展開写真の下に展示されている土器はあまり山梨ではお目にかからない静岡県からの土器です。左側が静岡市清水区(阿僧遺跡)の土器、右側が長泉町(中峰遺跡、大峰遺跡)の土器です。
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阿僧遺跡ですが、有孔鍔付土器や藤内式の深鉢など、中部高地と特徴の似た土器です。
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長泉町から中峰遺跡、大峰遺跡の土器です。
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人体装飾としては南箕輪村(久保上の平遺跡)のドクロのような顔をした人体装飾の有孔鍔付土器があります。
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第2章 (6)土偶と耳飾り
土偶や耳飾り重要なアイテムです。愛称のあるような土偶はこのあとでレプリカにより展示されていたりします。
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笛吹市(一の沢遺跡)の土偶「いっちゃん」です。いわゆる「ゆるキャラブーム」の到来前から、県立考古物館のキャラクターにもなっている土偶です。
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土偶は韮崎市(女夫石遺跡)などです。基本的にこうしてバラバラの状態で埋められていて発見され完全体に接合されることは稀です。
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耳飾りとレプリカですが耳飾りをつけた代表的な土偶として、都留市(中谷遺跡)の土偶です。耳飾りは調布市(下布田遺跡、レプリカ)と下諏訪町(土田遺跡)です。
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北杜市(金生遺跡)からは、大小さまざまにシンプルな耳飾りの数々です。日常的にはこうしたものを使用していたのでしょう。
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第2章 (7)異系統土器
交流のあった証として、異系統土器も挙げられます。文様や型式でアイデンティティが表されていたりしますが、他の地域から入ってきたものや影響をうけていると考えられる土器を紹介しています。
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下記画像の土器は岡谷市(梨久保遺跡)の土器ですが、左は北陸系であり右は関東系の影響を受けています。
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茅野市(棚畑遺跡)でも北陸系と東海系と異なる影響の土器が出ています。
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東北に多い岩板が下諏訪町(四王前田遺跡)から出ています。
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第3章 一帯に芽生えた縄文芸術
第2章と同じようですが、こちらは芸術という観点から。優品の紹介となります。
まず茅野市(棚畑遺跡)の土器です。国宝土偶「縄文のビーナス」の遺跡としても有名です。
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用途不明で他に見ない諏訪市(大ダッショ遺跡)の有孔鍔付土器です。
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富士見町井戸尻考古館の土器です。先日訪れたら、「貸出中」が多くて展示室が寂しいことになっていたのはここにあるからです。
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こちらは、富士見町のとなり原村です。
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相模原市、町田氏からクルミ形土器とクルミ形土製品です。
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第4章 縄文の旅に出かけよう
日本遺産が観光喚起といった側面があるため、やはり直接訪問してもらいたいということで構成している各地域の遺跡や考古館博物館を紹介しています。
存在感抜群の有名どころの土器たちが終盤を飾ります。またその背後に今回展示品を貸し出している博物館、考古館等のマップがあります。
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当考古博物館所蔵の大型土器、安道寺遺跡の水煙土器です。普段は常設展示で存在感を出しています。
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川上村からウルトラマン土器とも呼ばれる大深山遺跡の仮面様釣手土器(香炉形土器)です。
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ある年代の以上は10円はがきの額面意匠でおなじみの富士見町井戸尻考古館から水煙渦巻文深鉢です。信州の土器でありながら本展のメインビジュアルとしても採用されました。
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県立考古博物館所蔵の水煙土器です。4つの水煙把手が見事です。
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4章の後半は展示室の外のエントランスロビーになります。出品していただいていたり、日本遺産を構成している考古館、博物館を紹介しています。
展示を見て終わりでは困るので足を運んでもらおうということです。
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ケースには山梨の土偶たち(レプリカ)が並びます。
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前列左より「ウーラ」「ラヴィ」
また、レプリカと知りつつも、近くで見たい国宝土偶も来ています。尖石縄文考古館の「縄文のビーナス」と「仮面のビーナス」です。
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おわりに
たいへんなボリュームの縄文展でした。
この日本遺産の企画で「三十三番土偶札所巡り」がありますが、御朱印集めで山梨と信州の現地で対面した土器たちのいくつかが集結しています。先日訪問した井戸尻考古館では14点も貸し出してしまって、水煙渦巻文深鉢はレプリカで対応しているもののほかは「貸出中」のプレートが至る所にありました。
余談ですが筆者が出掛けた日は、見学中に拍手が沸いて170万人目の入館者に記念品の授与と新聞社の取材が来ていました。多いのか少ないのか分かりませんが、およそ山梨県民の2倍の人が40年間で訪れたの計算になります。
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