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【‘‘ある手記のゆくえ’’】

1.心から形象へ


心を形へと変えるということ。
あるいは、心というものは形象化出来るのかということを前から考えていました。
表現によって紡がれたものは、作品でありながら、それは作者の心象によるものではないだろうか。
心象とは、書き手が心を解放させて、つくられたもの。
つくられたものを私たちは読んだり、見たり、聞いたりする。
解放されてつくられたものに、制約というものは存在しない。
制約がないということは、自由であるということが理解出来る。
自由である世界、そうした世界を私たちは物語として捉えて体験する。
物語は、作者の心象の一部が自ずと反映されているものだと私は考えています。
真実が浮き彫りになればなるほど、私たちは物語に夢中になっていく。
言葉と言葉の間に、もう一つの意味を探し求めようとする。
それは、つくられた物語の根源は言葉になる以前のものが存在する。
かたちになる前のものを表現するには、別のものへと生まれ変わらせる必要があると思う。
もしくは、別の術があるのかもしれないが、そうした一つの問いに対する答えを今の私では説明出来ないからなのかもしれない。
老年期を迎えれば、いづれその答えは容易く文章に記さなくても、口頭で答えられるかもしれないし、答えが見つからないまま、そのことすらも忘れて読書しているのかもしれない。
文章を書くことは、今の私にとっては生きがいそのものである。
いつかは、書くことや読むことが出来なくなるかもしれないと、不安に駆られることがあったりする。
不安が募る度に、私は読むことや書くことを離れることがある。
離れてしまってから、このまま一生読むことや書くことが出来なくなってしまう恐怖から私はもう一度、書くことや読むことが今なお続けられるのではないかと感じる。
感情や感覚というものは、かたちのないものではあるが、そうしたものは私の中で文章として綴られ、紡がれた文章は一つの作品として完結されるものだという認識があります。
読むことや書くことにもがき苦しみながらも、作品をつくることを続けていられている。
何が私の中でそうさせているのかは、自分の中ではよく分かっていないまま、何かを残すことを動機にひたすら書いている。
楽しさや満足感というものもあるのかもしれないが、書いている間、読むことにも通じるが、意識は別のところへと転生されているような感覚を覚える。
転生された意識は、私として機能され、心象は創作によって、また新しく生まれ変わる。

2.畢竟無として

無機質な事象から、有機的にかたちへと変えたもの、明彩さを帯びた言霊に宿るものについて考えることがあった。
清澄な月をベランダから眺めながら、私は思索に耽ることにした。
ベッドに横たわり、暗闇の中で目をつむると、脳内で思い出が映写される。
苦しさや悲しさだけが抽出された感情はどうして消えてくれないのか。
私は自らの弱さにもがきながら、明かりを点けて感情を文章に記して吐露することに努める。
嘆きながらも、私は感情に身を任せて、ひたすら止まるまで言葉を記し続けていく。
泉のように涌き出る言葉は、次第に私の身体を包み込むような感覚を覚えた。
そして、言葉は私に投げ掛ける。
「あなたは、言葉をどのように考えていますか?」
言葉が意思を持ち、私に問い掛けた。
もちろん、私はこのように応答する。
「言葉は大切だ、言葉があるからこそ、ぼくは本を今までたくさん読んでこれたし、書くことも出来たんだ」
言葉は、しばらく沈黙した。
何かを考えているのか、それとも私は的外れな言葉を発してしまったのだろうか。
すると、言葉は笑声でこう言った。
「なら、安心した」
すると、言葉は私の意識から消失した。
私は言葉の脈動に身を委ねて、感情を言語化することにより浄化していたことに気付いた。
そして、私の手もそこで止まっていた。
感情や感覚は、言葉とリンクしており、まるで生命体のような存在であると思った。
あの時の言葉は、もう現れることはなかった。
私はもう一度だけでも、会って話してみたいと思うこともあったが今は必要のないことだと感じた。
私が私であり続ける理由は、書くことだと改めて考えた。
言葉は諸刃の剣であり、扱い方には日頃から注意する必要があるものだということを肝に銘じた。
生命の息吹きを感じながらも、言葉は日常に溶け込み、私たちのそばに寄り添う存在だということを感じる。
これまでの経路を巡りながら、行き着いたある一つの問いがある。
‘‘畢竟無’’という聞き慣れない言葉がある。畢竟無とは、過去や未来、現在にも存在し得ないものだという意味を持つ。
この言葉の意味合いを借りれば、私の中の言葉の定義は、あとかたもなく抹消されるものだと思った。
畢竟無は、存在しないもの、すなわち無であるということが理解出来る。
私たちは、一人一人言葉を使っているが、人や言語を介しての言葉もまた無へとなる。
こうした連想は、ミッシングリンクとしての一部であり、そして回帰されるだろうと感じた。



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