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11:おばあちゃんと朝ドラ
おばあちゃんの朝の日課は「朝ドラを観る」だった。
NHKで放送される連続テレビ小説。
おばあちゃんは、それを観るのが大好きだった。特に何かを言うでもなく、出された朝食を食べ、その時偶々流れていたニュース番組をぼんやり眺めていると思ったら、ドラマが始まる十秒前ぐらいに素早くリモコンに手を伸ばしてパッとチャンネルを変えてしまうのだ。
その早業を初めて目にした瞬間、私も母も、息子である父も驚愕した。
無言のまま、問答無用でチャンネル権を物にする行動に驚いた。
そして何よりも、おばあちゃんが朝ドラを好んで観ている事実に驚いた。
我が家には、今も昔も「朝ドラを観る」習慣がない。
朝は決まってニュース番組。チャンネルは大抵テレ朝。時点でTBS。日テレとフジは無し。エンタメ情報が始まるとチャンネルが他局に変わった。芸能ニュースを観て、『めざましテレビ』の占いコーナーで今日の運勢をチェック出来るようになったのは、私が中学二年生の頃。アイドルグループ『嵐』の沼底に沈み、如何しても彼らの情報が欲しい朝からアイドルスマイルを拝みたい! と、チャンネル権を得るため勇気を振り絞って主張するようになってからだった。
なので、朝からドラマを観るなんて状況、想像もしたことがなかった。
朝ドラの存在は知っていた。クラスで『ちゅらさん』ブームが巻き起こったのだ。皆が挙ってゴーヤのキャラクターグッズを持ち始めた。
私は友達に「『ちゅらさん』って何?」と訊ねた。
友達は怪訝な顔で「朝ドラだよ、NHKの。知らないの?」と言った。
全然知らなかった。朝からドラマなんてやってるんだ。しかも、国営放送で……。この時、初めて連続テレビ小説の存在を認識した。確か、小学四年生辺りの出来事だったと記憶している。
おばあちゃんの家で、私は初めて朝ドラを観た。どんな内容だったかは憶えていない。タイトルも憶えてない。オープニングで青空を背景に桜の花が舞っていた様な気もするが、酷く朧気で曖昧な記憶なので自信がない。
ただ、「朝ドラは途中から観るものではない」と強く思い(かなり話が進んだ所での初見だったのでチンプンカンプンだった)、「友達ん家の朝は、こんな感じなのかな」と想像したのを憶えている。
そして、朝ドラを観るおばあちゃんが生き生きとしていたのも、よく憶えている。まるで目に見えない花をポンポン飛ばしているかの様な明るい雰囲気で、見終えた瞳はきらきらと輝いていた。その姿が可愛かった。
おばあちゃんの朝の日課を知って以降、私達家族は、おばあちゃんの家に滞在中の時だけ朝ドラを観るようになった。
いつも内容はチンプンカンプンで、全く分からなかった。でも、おばあちゃんの可愛い姿を見るのは堪らなく好きだった。胸がほっこりした。
(続く)
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