木彫りの猫製作プロジェクト③-1(研究・イケニエ)

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1. 木彫りの猫は何になれるか

木彫りの猫は何になれるか……。
要するに、用途・役割ですね。
これについて考えていきます。

隠秘学に括られるような魔術・呪術的には、木彫りの猫の要素である「人形」という面から、ぱっと思いつくのは生贄としての使い方です。
ちょっとちなまぐさい。

今回の木彫りの猫ちゃんについては、さすがに生贄にはしませんが、生贄の歴史は結構面白くて好きなので、ついでにその辺の背景についてさらっと説明しておきます。
(さっそく横道にそれます。)

生贄って、それを捧げなければならないちゃんとした理由が(逼迫した理由が)あるんですよ。
ですから、「科学的」ではないですが、「合理的」です。
(その地域、その時代の社会の道理・倫理にかなっていて、説明が可能なことですから、十分合理的であると言えるでしょう。)

例えば、古代の王様や地域の支配者はしばしば人間神と見なされ、重要な厄災が生じた際には古い神から新しい神への更新が重要でした。
その更新の過程で、古い王様を殺す儀式、つまり生贄にする儀式があったのです。

(わたしの生贄の知識はほぼ『金枝篇』で得ているので、以下、ちょくちょく私の解説を交ぜながらのJ.G.フレイザーの引用が続きます。)

コンゴの人々は、彼らの大祭司チトメが自然死を迎えることになれば、世界は死滅し、もっぱら彼の力と功徳によってのみ維持されていた大地は、即座に消滅する、と信じていた。したがって彼が病に倒れたり死にそうに見えたりすれば、その後継者となる運命にある男は、縄か棍棒を持って大祭司の家に入り、これを絞め殺すか殴り殺すのであった。
(J.G.フレイザー『金枝篇』吉川信訳,筑摩書房,2016年10月)

時代がくだるにつれ、この生贄の役目は王様自身ではなく、その子供、あるいは奴隷、犯罪者に代役が立てられるようになったと考えられます。

ビュブロスのフィロンは、ユダヤ人に関する著作でつぎのように言っている。「古代の風習では、大いなる危機に直面したとき、町や国の支配者は、恨みを晴らそうとする悪霊たちへの贖いとして、万民のために自らの愛する息子を死なせなければならなかった。こうして捧げられた子どもたちは、神秘的な儀式によって殺害された。たとえば、フェニキア人がイスラエルと呼ぶクロノスは、この地の王であり、彼にはジェオウドという名のひとり息子がいた(「ジェオウド」(Jeoud)はフェニキアのことばで「唯一授かった」という意味を持つ)。敵の軍勢により国は大いなる危機に直面していたので、戦時に彼は、息子に王の衣を着せ、祭壇の上でこれを生贄に捧げたのである」。

(J.G.フレイザー『金枝篇』吉川信訳,筑摩書房,2016年10月)

時代がイメージしづらいですが、ちなみに上記で言及したフェニキア人は今から3000年くらい前、紀元前の地中海に商業都市を築き、今のアルファベットの基本形を作ったと言われる民族です。

さらに、生贄は人間でなくて動物であったり、人間の影であったり、人形で代用されたりと、社会の道徳観念の変化と共に簡便化されていきます。

ときには、生きた人間ではなく像によって、偽の生贄が捧げられる。たとえばインドの法律書、『カリカ・プーラン』(Calica Puran)は、ライオン、トラ、人間の生贄が必要なときには、バターか練り粉か大麦の粗挽き粉でライオン、トラ、人間の像を作り、これを代わりに生贄に捧げるよう規定している。インドのゴンド族〔中部インドのデカン地方に住むドラヴィダ系の未開民族〕には、かつて人間を生贄に捧げる者たちがいた。現在では、代わりに藁人形を生贄にしている。

(J.G.フレイザー『金枝篇』吉川信訳,筑摩書房,2016年10月)

カリカ・プーランの成立は諸説ありますが、だいたい1000年前の600年〜1100年頃と言われています。
バターとか大麦の練ったやつで生贄の人形を作るって……クッキーみたいなもんでしょうか?   砂糖入れて焼いたら美味しそうですね。
ここでは、生贄の物質が植物にもなっているというところが『金枝篇』的なポイントでしょうか。

このプロジェクトの本筋には関係ありませんが、結局ついつい長いこと言及してしまいました。
(『金枝篇』が気になった方は是非それも読んでみてね。めっちゃおもしろいよ。
西洋の民俗学といえばこれ!って存在感の金字塔。日本語訳出てるよ。)

要するに、ここのトラ本体の代わりにトラの人形を生贄に使うっていう記載の箇所が印象に残っていて、「木彫りの猫ちゃんといえば生贄……?」と、真っ先にシンプルな連想が来ましたが、あまりかわいくないのでやめにしました。  結論はそういうことです。

気を取り直して、本筋に戻りましょう。
次に行きます。

まさかの軽〜い雑談枠でした……。📕🐈

>>次回
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    (研究・オマモリ)

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