木彫りの猫製作プロジェクト③-2(研究・オマモリ)

>>(↑当該シリーズ初回記事はこちら)

>>(↑一つ前の記事はこちら)

1. 木彫りの猫は何になれるか(part.2)

〜前回までのあらすじ〜

このプロジェクトの研究部門では、木彫りの猫を隠秘学に基づく何らかのマジックアイテムとして解釈したいわけですが、まず前回③-1(研究・イケニエ)に書いたように、これを生贄人形にする案はボツにしました。
(そりゃそうだ。)

ですので、今回はマジックアイテム案part.2、「お守り」についての考察です。

隠秘学上のお守りの考察に入る前に、少し脇道にそれますが、いったん一般的なお守り概念について整理しておきます。

2.お守りとは

現代日本でお守りと言うと、よく神社とかで授かる布袋がイメージできますね。

あのお守りは、神の依り代という意義があります。

布袋の中には、神の宿る依り代となる「内符(ないふ)」というものが入っているので(*1)、お守りを持っていれば無病息災・家内安全・天下泰平・交通安全などを神に願うことができる……という理論です。

携帯型の神の依り代ですね。

ちなみに、布袋型の携帯タイプのお守りはけっこう画期的な発明です。
普及したのはめっちゃ最近!  戦後になってからです。

現在において広く流通している、携帯できる布袋型のお守りを開発したのは、京都の織物メーカーの株式会社秋江(創業安政二年当初は秋江商店)です。
同社の二代目秋江義三郎による考案、とのこと。(*2)

あと補足。

上述したのは今の日本に通じる「布袋型のお守り」の起源ですが、日本の「お守り」そのものの起源はもう少し古いです。

『神道辞典』によると、お守りは下記のように説明されています。

おまもり(御守  守札)…神社で授与する神号を記した小札。陰陽道や寺院で作って信者に配っていた符呪・護符に起源を発するという。後、神道の方でもこれにならってことに応じて作製し、授与する風が生じた。

(西田長男『神道辞典』神社新報社,昭和43年)

お守りのルーツは、日本へ渡来した古代中国大陸の思想である陰陽道や仏教に見られるということですね。

まあこれに限らず、古代日本は圧倒的に後進国なので、現在、日本文化と呼ばれるものでも元を辿れば外来のものが多いのでしょうな。

ともかく、日本列島に渡来人とともに伝わった古代中国の思想とともに、お守りの概念も生じたのだと思います。

今からおよそ1200年前の資料、「禁断京中街路祭祀事」(780年)、『続日本紀』(770年)にそのあたりの記録が残っています。  仏教由来のお守りの起源については、もともと仏教の教えを記した文書である経巻(きょうかん)が、次第に神聖視されてお守りとなった説がわかりやすいですね。(*3)

一般的なお守りについて調べたことは以上です。
次に、隠秘学上のお守り概念についての考察に移ります。

3.隠秘学ーー万能章

隠秘学のお守り(護符)に、万能章(パンタクル)というものがあります。
どんなものかと言うと下のような図です(これはエイカドの万能章(*4))。

隠秘学の特徴として、文字や数字、その配置や形などに様々な象徴の意味を込めるのですが、ここにその特徴がめちゃくちゃ色濃く出ているのだと思います。

複雑に見えますね……。なんて書いてあるんだろう。正直、今の私には中央に六芒星があることの意味くらいしかわかりません。

一つの数字や一文字のアルファベットにも対応する意味があり、図形の画数、図形そのもの、配置いずれにも意味があるので、的確に読み解くのは骨が折れそうです。

それもそのはず。

万能章の図は、規定の形があるようなものではなく、各人が考える宇宙構造を象徴するものなのです。

なので、読み解くにはおそらくこの時代の天体構造についての考えや、錬金術上で出てくる元素についての知識、聖書に出てくる生命の樹の解釈についての理解……などは最低限必要なのだと思います。

まとめると、万能章は「隠秘学語で書かれた宇宙構造理論」みたいなイメージです。

そもそも隠秘学は世界の構造を解明しようとする自然科学であるため、宇宙の構造、世界の真理が研究対象なのです。

その研究の結果、作成されるのが万能章で、それが各人の考える宇宙理論を象徴しているというわけです。

言い換えれば、万能章は世界の謎を解く鍵であり、その謎を解明することでこの魔法陣が意味する奇跡的効能と偉力を甦らせることができる……という理論です。

さきほど、日本のお守りの起源の説の1つで、仏教の経巻が神聖視されてお守りになった話をしましたが、それと似たようなものでしょうな。

あちらは、仏教の教理を記す文書そのものが何かしらの効能が得られるものとしてお守りになりましたが、こちらは、隠秘学の教理を示す万能章という象形から効能を得られるものという意味でお守り(護符)なのです。

(なお、隠秘学側は万能章について、「護符」と訳される方が多いように思いますが、これはお守りと同じ意味と捉えて差し支えないと思います。)

日本のお守りは、お守りを通じて神に願うことで意図した効能を得ようとするマジックアイテムですが、万能章は、その象形の原理を解き明かすことで、本来それが意図するところの効能を発揮させるマジックアイテム……というようなイメージです。

4.隠秘学ーー五芒星

隠秘学では、五芒星(ペンタグラム)も護符の1つです。

万能章と同じような理由で作られるものですが、何が違うのかというと、万能章が「宇宙構造」を表すものであることに対し、五芒星は「人間など、個別の個体の構造」を表すものである、という点です。

簡潔に言うと、万能章が大宇宙(マクロコスモス)、五芒星が小宇宙(ミクロコスモス)の象徴であるということです。

五芒星について、エリファス・レヴィは次のように説明しています。

「五芒星」は四大要素に対する精神の支配を表明するものであり、空気の悪霊、火の精霊、水の魔物、地の亡霊は、この徴しによって縛りつけられる。(中略)
グノーシス教徒のあいだで〈煌めく星〉と呼ばれる「五芒星」は、英智の独裁的偉力の表徴である。要するに魔術道士たちの星であり、〈言〉の具体化した表徴である。(中略)
悟入への手引きにもなれば、神聖を穢す道具にもなれり。ルシフェールであるかと思えば、ヘスペルスであり、夜明けの星にもなれば夕暮れの星にもなる。「聖櫃」にもなれば、「魔女」にもなれり。勝利か、さもなくば死であり、光か、さもなくば闇である。

(エリファス・レヴィ著,生田耕作訳『高等魔術の教理と祭儀  教理編・祭儀編』人文書院,1992年11月)

この五芒星、万能章の完全な会得・実践が、隠秘学の真骨頂というイメージです。

5.次回へ続く

さて。
お守りについて、基本的な所を調べることができたので、いったんここで区切ります。

これを木彫りの猫ちゃんに応用できるかな?!

このプロジェクトの研究を通して、隠秘学でいう万能章や五芒星と同様の意味を、それに基づく効能を、木彫りの猫ちゃんに持たせてあげようと思います。

それには、「猫」、「木」についての考察が必要ですね。

隠秘学の作法に則ると、木彫りの猫ちゃんを魔法陣とするなら、それを各要素に分解して解釈した上で、ひとつの象徴に再構築する作業が原則として必要になるためです。

ちなみに、分解と再構築は、隠秘学のうち、錬金術でよく言われる考え方です。

「Solve et Coagula」という有名なキーワードがあって、これはラテン語で「融解して凝固せよ」の意味です。 

今風に言うと分析して統合せよ、でしょうか。
(抽象的な原則なので、現代にも通じる使い勝手の良い理論ですね。)

よし、今回はここまで!

みんなも楽しそうだったらまねしてみてね!🐈🪵📚

注釈

(*1)博学こだわり倶楽部『お寺と神社 素朴な疑問が解ける本』河出書房新社,2013年11月
(*2)株式会社秋江ホームページ https://akie-net.com/history/ 2021年4月24日閲覧
(*3)千々和到『日本の護符文化』株式会社弘文堂,平成23年5月
(*4)アレイスター・クロウリー著,江口之隆訳『777の書』国書刊行会,2013年12月


>>次回
  木彫りの猫製作プロジェクト③-3
(研究・ネコとトウゾク)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?