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推しと鍋つかみでハイタッチしてきた話

5秒ドリームのために片道5時間かけて
北海道から東京に行ってきた。

目的は推しグループとのハイタッチ会。

そういった類のイベントといえば基本、
高倍率の抽選に当たってこそ
参加が許されるものだ。

それなのになぜ、
一番くじで5個中3個がぬいぐるみでも
当てられないような女が参加できたのか。

それは、今回だけ先着販売だったからだ。


抽選ではなく先着。
そんなことってあるのだろうか。

ライブ後のお見送り会に当たりたくて
冬の雨の中2時間並び、震える手で
同じCD(トレカなし)を10枚買って
玉砕したことを思い出す。


なけなしの2万と9700円を捧げても
1秒も会えなかったことを考えると
奇跡のようだ。

この千載一遇のチャンスを逃すまいと
購入までの入念なシミュレーションをし、
母にもその流れを伝授。

18時00分ちょうどに母と2人で挑戦して
死に物狂いで獲得した。


あぁ、一生訪れないと思っていた機会よ。

イベントの注意事項に
「アクリル越しでのハイタッチとなります」
という文言があり、

「いやそれは面会」「我ら囚人かよ」という
ファンのツイートが多くの参加者の気持ちを
代弁していたが、至近距離で拝めるだけ
ありがたいと思うことした。


開催数日前になって、今度は
「アクリル板をなくし、安全のためメンバーは
ミトン着用での実施となりました」

と発表すると、それはそれでTwitterの
タイムラインが大荒れし、
私も突然の鍋つかみの登場に動揺したが
アクリル板がなくなっただけ嬉しい。



緊張をほぐすため、
とりあえずミトンをつけた
父とハイタッチしてみたり、


私と母がハイタッチを終えて
誰推しになって帰ってくるか
父に予想してもらったり、


普段はしないくせにトイレ掃除をして
神様にすがってみたりして

出発の日を迎えた。


イベント当日。

ライブやイベントに参加することを
”参戦する”と表現することがあるが、
なるほど、確かにそれは戦いだった。

必要以上に厳しい制限を課してくる運営との
戦い。そしてMAXに緊張する己との戦い。

イベントの大まかな流れは
事前に得た情報の通りだった。

まず会場に入ると聞こえるのは
こういったアナウンス。

「会場内でのスマホの操作は禁止です。カバンの中にしまってください。ランダムでスマホを確認させていただきます。盗撮などが確認された場合は即刻退場となります。」

怖すぎる。
ニッポンキビシイネ。

ちなみにアクセサリー類を
手につけるのも禁止。


そして列が進んでいくと、無実を証明すべく
両手を挙げたまま歩かされる。

やはり我々は囚人らしい。


メンバーはというと、
巨大なパネルに囲まれていて
直前まで全く見ることができない。


自分の番の2秒前になって、
急にメンバー5人が現れ、


そしてその5秒後には会場の外にいる我。
という流れ。


思ったより夢の世界は厳しい。


さらに詳しく言うならば、

パネルの奥は音楽もかかっていないのに
まともに声も聞こえないほどの喧騒。



背後には、立ち止まらないように
強烈に背中を押してくる
通称”剥がし”と呼ばれるスタッフ3、4人。


そして突如、我が視界に降臨する推し。


そこに向かって瞬時に想いを
伝えなければならないという状況。



無理だ、何も言えるはずがない。

ダイソーで「安全ピンってどこですか」と
聞くまでに2分かかるような私が
何か声を発せられる訳がない。


そう自信をなくしていたはずなのに、
気がつけば目の前に現れた推しに向かって
バカデカボイスで「会いたかった!!!!!」
と叫んでいる私。

体内に存在しないはずの図太さを発揮。

あぁ人間、その環境に
実際に置かれてみないことには
何をしでかすか分からないものだ。

だが興奮しすぎて
推しの顔の記憶がほぼない。


次に立っていたメンバーは
「名札をつけていると名前を呼んでくださる」
というお噂を耳にしていたので

私も図々しく名札をつけていたら
喧騒の中で微かに私の名前が聞こえた。

その瞬間は「本当に呼んでもらえた」と
思う程度だったが、

冷静に考えると、彼の眩しい人生の中で
私の名を呼ぶという1秒が存在していたことが
到底信じられない。

脳内で永久にリピートし、
すでに私の中で1000万回再生を突破。

だが顔の記憶はほぼない。


そして、日本人メンバーに
世界一やさしい眼差しで
「ありがとう」と言われ

我、死す。

元々優しいお人柄だとは存じていたが、
たった1秒にもその優しさが滲み出るとは。

感動。1日に何千もの人間に
ファンサービスをして心底お疲れだろうに。

グッズ爆買いしそう。


あとの2人の記憶が全くない。

他のファンの感想で「1人目の衝撃が
強すぎて間の3人の記憶がない」という
ツイートを見て、まさかと思っていたが
見事に何も覚えていない。

というか、よくよく思い出すと
自ら走って去った気がする。

あぁ、あの時の自分よ、
急ぐなと事前にあれほど言ったのに…。

一瞬たりとも気を緩めてはいけない世界。
意識を取り戻したときには
すでに会場外に放り出されていた。


一方の母はというと、

最推しのメンバー(韓国人)に
咄嗟に思いついたことを言ってみるものの、
「Aくん!オって言って!オって言って!」
という謎要求を繰り出す。

しかも日本語。瞬時に伝わるはずがない。


そして当のA氏、
何と言われているのか分からなかったから
“とりあえず投げキッスをする”という
ミラクル神対応を発動。

母、無事昇天。

帰還した母が興奮冷めやらぬままに
その様子を再現してくれたのだが、

娘の視点としては、ただはしゃぐ母親に
至近距離で投げキッスされるという図。


ちなみにA氏の次に立っていたのが
母が2番目に好きなメンバー
B氏だったのだが、

A氏に時間を全振りしてしまったがために
気がつけば後頭部しか見れなかったらしい。

浮かれる母に「Bくんは?」と聞くと 
急に真顔になって

「未知。確認できていない。」との
ことだった。おおよそUFOと同じ存在。

私が記憶を無くした2人にいたっては
「見れてない。どういう人だった?」
と聞かれる始末。

悔しい。もう一周したい。

そんな具合で5秒の夢が終了した。


グッズ売り場にはメンバーが着用したのと
同じデザインのミトンが売られていて、
行く前は母と「絶対に買うものか」と
言っていたのに買った。2人して買った。

片手2,200円。汚すのが怖くて鍋つかめない。

とりあえず帰ってから
そのミトンを使って父に再現して見せた。



推しとミトンでハイタッチした手の感触は
ほぼ無だったけれど、
時々家のミトンを見ながら
微かに残る推しの残像を胸に
しばらく生き延びようと思う。

沼は深まるばかり。

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