料理への苦手意識が凄まじかった私が結婚した結果

料理って、みんなどんな風に習得していくんだろう？

私は昔から料理に対する苦手意識が凄まじかった。自分で食べる分ならまぁ何とか作れるけど、人に食べさせる料理なんて絶対に作れない。自分の手料理を食卓に並べるくらいなら、お店でお惣菜を買ってくる方がうんと良い。本気でそう思っていた。何故私がここまで料理に苦手意識を持つようになったのか。その原因は、小さい頃のちょっとした出来事がきっかけだった。

小学生の頃、母を手伝いたくて料理を教えてもらえるよう頼んだことがある。その時に挑戦した料理が、母の思いつきレシピ。当時、私の母は肉じゃがとかカレーみたいに名前がある料理より自分で創作した名もない料理を作ることが多かった。それは大成功を納める日もあればとんでもない品を作り出す時もあったけど、そのほとんどは成功作だったので私がとんでもない品に出逢うことはほぼ皆無だった。

そして挑んだ母直伝の料理教室。言われるがまま野菜をザクザク切り。鍋に切った野菜、肉、調味料をドバドバ投入。何だかいろいろ入れた気がするけど、その時はそんなものなんだと思ってた。そうして迎えた完成の時。味見をしてみて「おや？」と首を傾げる母。その瞬間、嫌な予感が全身を走り回った。

「ちょっと味を整えるね。」

と様々な調味料を入れて格闘する母。それを眺めていると何だか申し訳なくなってしまった。自分が「料理を教えて。」なんて言わなければ、こんな事にはならなかったのに…。結局修正が効かないまま、そのとんでもない品は食卓に並ぶことになった。

「美味しいよ。」

そう両親は言ってくれたけど、子供にだって親が言ってることが本当か嘘かくらいは分かる。そして今回は明らかに後者だった。今から思えば一度失敗したくらい何でもないんだけど、当時の私はそう思えなかった。

「私は料理が下手なんだ。みんなに不味いものを無理して食べさせるくらいなら、もう2度と料理なんて作らない。」

そう、心に決めた。決めてしまった。それからは本当に極力料理を避けて生きてきた。学校の調理実習ではなるべく食材に触れなくていい洗い物に徹し。毎年義務のように配ってたバレンタインの友チョコも「混ぜるだけ」や「デコるだけ」のお手軽な物をチョイス。どう頑張っても失敗しようのないものを厳選した。

でも、そんな生活がずっと続くはずもなく。結婚を機に、それまでずっと目を背けてきた料理にも目を向けなくてはならなくなった。花嫁修行なんて期間は一切なく、ポンと敵陣に送り込まれた気分。料理どころか家事の経験もほぼ０の私にとって、修行僧のような日々が始まった。

洗濯は洗濯機がしてくれるし、掃除だって慣れればそんなに問題はなかった。問題は毎日の料理。何から手をつければ良いのか分からず、片っ端から料理の本を読み漁った。すると出てくるのは見慣れない単語の数々に細かい調味料の配合。火加減から食材の処理方法まで事細かに明記されていた。自分では到底真似できないであろう綺麗な盛り付け方まで写真付きで紹介されていて、それを見た時は思わず空を仰ぎ見てしまった。

「…これは無理かもしれないなぁ。」

途方に暮れることしばし。弱音を吐いても仕方ないので、とにかく数をこなした。下手な鉄砲数打ちゃ当たるじゃないけど、その時はとにかく必死だった。Cook Doや丸美屋にはしょっちゅう助けられたし、お手軽と名のつくレシピには何にでも挑戦した。途中でクックパッドやDELISH KITCHENの存在を知ってからは料理が格段に楽になった。ネットって便利。それでも料理への苦手意識が消えたわけじゃなかった。

そんなある時「この料理作りたいけど、材料がないから無理だなぁ。」という場面があった。料理への苦手意識がどうしても拭えない私は失敗するのが怖くてレシピ通り忠実に調理することを心がけていた。それは調味料の分量から材料まで、そりゃもう細かく徹底していた。カレーだったらレシピ通りのカレーの材料、グラタンだったらレシピ通りのグラタンの材料。それ以外の材料は断じて認めない、そんな具合。

「どうしよう…。」としばらく台所で悩んでいたけど、ふと悩むのがバカバカしくなった。魔が刺したというかなんと言うか。

「別にそこまで拘らなくて良くない？他の物で代用すれば良いじゃん。」

そう思ったら後は早かった。レシピ片手に調理スタート。ない材料は他のもので代用して、調味料も計らず感覚でポイっと投入。盛り付けも自分の感覚でパパッと済ます。そうして完成した料理を食卓に並べて、いざ実食。

「美味しいよ。」

そう言われた時はとても嬉しかった。あの日両親から言われた言葉と同じはずなのに、そこには嘘なんて一つも感じなかった。そのことがただただ嬉しかった。実際に私も食べてみたけど、適当に作った割にちゃんとした味になっていた。これは自分で自分に花丸をあげたいくらいの進歩だ。それからは前ほど気を張らずに料理を作れるようになった。

料理はレシピ通りにしなくたって大丈夫。豚肉がないなら鶏肉で代用すればいいし、ジャガイモがなければカボチャにすれば良い。お店とかなら決まった食材や工程があるんだろうけど、少なくとも家庭料理には正解なんてない。家によって個性があるだろうし、それがその家の味なんだと思う。だから自由に作ればいいし、それで家族が「美味しい。」と笑顔で言ってくれるならこれ以上嬉しいことはない。

まだまだ料理のレパートリーは少ないし、母みたいな創作料理も作れない。試行錯誤の毎日に変わりはない。それでも、今この家の食卓を任されているのは私だ。まだ「これぞ我が家の味！」と言えるようなものは作れないけど、ゆくゆくは自分の手で我が家の味を作り出したい。その日を夢見て、今日も私は台所に向かう。