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随想起抜 漂泊の画家 不染鉄 展 ~理想郷を求めて~奈良県立美術館 Vol 2

続・わたしだけの夢殿・夢殿『秋涙』完全版 差し込み原稿一部紹介

あのなぁ~お空から突き出された葛切りはんのような雨がありますやろ。あれはな全部仏はんなんですわ。きっと。
黒豆はんをふやかしたお水みたいて云いましたけどな……ちゃいますねん。
凡てが銀絹ですねん。画面いっぱいに塗り上げられた鼠色はな、数多の銀糸、銀ですねん。暁鼠(あかつきねず)、牡丹鼠(ぼたんねず)、藤鼠(ふじねず)、桔梗鼠(ききょうねず)、白鼠、銀鼠、絹鼠…… これな、全部「銀」ですねん。鉄さんなぁ、ほそぉい筆でなぁ描かはったんやろうねぇ。九十九に及ぶ銀を画面いっぱいに細ぉに細かぁに置かはったんやろねェ。
 ほしてな、雨にはな、金色を挿してますねん。針より細く御髪(おぐし)よりも細い金色を雨に挿してますねん。
その仏さんたちがな、みんなして夢殿はんの観音さんのところに詣でてますねん…… 。 ※第一稿なので修正加筆が入ります。

不染鉄 夢殿

正直に云おう。この目で鑑なければ分らなかった。
正面から観ただけでは分らぬのだ。横から、斜め下から、斜め上からみなければ「鼠色」だけで始末を見たはずである。

幾重にも塗り重ねられた様々な"銀"と淡く細い"金"
この画を紐解くためにはこの銀と金を抜きに語ることはできない。
そんな不染鉄の魂は、京都の民藝作陶家、河井寛次郎の世界と絶妙なシンクロを魅せるのである。わたしの勘だが二人はどこかで袖すり合っているはずである。これは調べる価値がある。


今から5年前だったろうか。はじめてわたしがこの画に触れた際に書いた言葉がある~
「よしんば、この画が「信仰」の対象となったとしても、それは当然のことであり、驚くに値することではない。不染鉄、そういう画を描く芸術家である」

不染鉄ファンには是非じっくり眺めてもらいたい作品の一つである。

3月10日まで奈良県立美術館
漂泊の画家 不染鉄 展 ~理想郷を求めて~
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