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ライディング・ホッパー #7

承前


大崩壊。突如襲った未曾有の大災害によって平穏な生活は失われ、多くの文化、技術、そして尊い命が奪われました。しかし人類はこの変わり果てた世界で再び一歩を踏み出しました。我々企業連は、国家という古い枠組みを棄て、新たな秩序の元に人類史の更なる飛躍の為に力を尽くして参ります。ーーーアライアンス(企業連)運営「人類史保存博物館 序文」


「素晴らしいッ!今回のレースは素晴らしい接戦だったッ!」

両手を握りしめ熱っぽく語る初老の男性に胸にはR&Wのバッジ。

「『ダークホース』のギアライダーにオッファーを送りたまえ!現状に甘んじず最期の一瞬まで食らいつくアティチュード!我が社は彼のような人材を必要としている!」

周囲をはばからず矢継ぎ早に指示を送る彼こそは、日本進出直後に大崩壊の憂き目に会い、混迷の状況を生き延びた外資系企業、ロバート&ウィルソン・インターナショナル日本支社社長その人である。

ここは競技コース上空を周回している飛行船内だ。地上を眼下に見下ろす彼らは単なる観客ではなく、大崩壊後の日本を牛耳るメガコーポ連盟、通称アライランス(企業連)の面々だ。

「……ええ、『フェアリーテイル』の機体回収、修理は我々が無償で行うと彼女に伝えてください。その代わり、スポンサー契約を行うなら是非カナズミ社へと……」

通信機を手にしたスーツ男性のネクタイには稲穂の刺繍。すなわちカナズミ・フィナンシャル・グループの上級幹部だ。このレースはただ順位を競い合うものではない。各企業が優秀な人材を雇用、あるいはスポンサードする場であり、ギアライダーにとってはジャンクと瓦礫まみれの人生を逆転できる一生に一度とないチャンスなのだ。

「社長、どう思われますか?」

各々が思惑を走らせる中、秘書が耳打ちした。社長と呼ばれた男性が顎に手を当てる。齢は50代。目じりにしわは寄っているが、彼は精悍な顔つきでモニターを見やった。ライディングギアの製造・販売トップシェアを誇り、アライランスの頂点に君臨する企業、アモウ・オート・インダストリアルの社長は、クレーターの中心で手を振る少年を静かに見つめた。


【ライディング・ホッパー:プロローグ終わり チャプター1へ続く】

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