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春風の約束


桜の花びらが舞い散る公園のベンチで、遥(はるか)は静かに待っていた。手元のスマホを何度も確認しながら、胸の鼓動が徐々に速くなるのを感じていた。今日、彼女はついに決意した――自分の気持ちを伝えると。

「遅くなってごめん!」

澄んだ声が風に乗って聞こえてきた。振り向くと、遥の幼馴染みであり、彼女の心をずっと掴んで離さなかった美咲(みさき)が駆け寄ってくるのが見えた。美咲の長い髪が桜の風に揺れ、光を受けて輝いていた。遥は無意識に笑みを浮かべたが、胸の中には緊張が渦巻いていた。

「全然、気にしてないよ。ちょっと早く着いただけだから。」

遥は笑顔を作りながら、美咲の隣にスペースを空ける。美咲はそのまま座り、肩越しに大きく息を吸い込んだ。

「今日も天気がいいね、桜が綺麗だなあ。」

美咲の何気ない言葉が、いつもより遠くに感じられた。いつも通りの会話。いつも通りの光景。それでも、遥の心には今日という日が特別なものだった。

ずっと幼いころから一緒だった。小学校の頃は、放課後に二人で近所の公園で遊び、中学になってからも一緒に勉強をした。高校に入ってからは、互いの部活が忙しくなり少し距離ができたものの、いつも変わらない絆がそこにはあった。

しかし、遥の気持ちは変わってしまった。気づいたのは高校一年の終わり頃。美咲が他の友達と笑って話している姿を見たとき、遥の胸の中に妙な痛みが走った。それが何か理解するまでに時間はかからなかった。

「……ねぇ、美咲。」

「ん?どうしたの?」

遥の声に、隣で桜の花びらを見つめていた美咲が振り向く。その瞳は何も知らない、無垢な輝きを放っていた。

言わなければならない。もうこれ以上、隠しておくことはできない。

「私、ずっと前から……美咲のことが好きだった。」

その言葉は、遥が思っていたよりも静かに、でも確実に美咲の耳に届いた。

美咲は一瞬、何が起こったのか分からないような表情を浮かべていた。しかし、その言葉の意味を理解した瞬間、彼女の瞳が揺れ動くのを遥は見逃さなかった。

「え……?」

「友達としてじゃない。恋人として……美咲のことをずっと好きでいたんだ。」

遥の手は小さく震えていた。ずっと抱えてきた秘密が今、彼女の口から漏れ出た。それは解放感と恐怖が入り混じった感情だった。

一瞬、静寂が二人の間に降り立つ。遠くで子供たちの笑い声や犬の鳴き声が聞こえていたが、それすらも遥の耳には届かなかった。

「……遥……」

美咲は静かに口を開いたが、その声には迷いが含まれていた。彼女の目が大きく揺れている。何を言うべきか分からない様子だった。

「ごめん……私……そんな風には思えない。」

美咲の声は優しかったが、その言葉が遥の胸に深く突き刺さるのを感じた。拒絶されることは覚悟していた。だが、実際にその言葉を聞いたとき、彼女は自分がどれだけ傷つくか想像できなかった。

「そっか……そうだよね……」

遥は無理に笑おうとしたが、涙が滲んでしまい、それを抑えきれなかった。自分の想いを伝えたことで、友達としての関係すら壊れてしまうかもしれない――その不安が一気に襲ってきた。

美咲は何も言わず、ただ遥の手を取った。彼女の手は温かく、柔らかい。けれど、もうその温かさが恋人としての距離を縮めるものではないことを、遥は痛いほど分かっていた。

「でも、遥が大切なのは変わらないよ。これからも、ずっと。」

美咲の言葉は優しさに満ちていたが、それが逆に遥の胸を締め付けた。

「ありがとう……でも、少しだけ、時間をちょうだい。」

遥はそう言うと、そっと手を離した。美咲もまた、その手を追いかけることはなかった。

桜の花びらが、二人の間にそっと舞い降りていた。それは美しいものでありながら、遥にとってはどこか儚く、切ない光景だった。

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読んでくださりありがとうございます!!
少しでも心に響きますように𓂃🫧‪

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