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台風19号に学ぶ。災害時はローカルメディアしか情報で人を救うことはできない

2019年10月12日、台風19号が日本列島を襲い、各地で深刻な被害をもたらしました。被災された方へお見舞いを申し上げるとともに、1日も早い復興を祈っております。

さて、僕の住む埼玉県秩父地域でも、今回の台風の影響はとても大きく、冠水というより、山間部ならではの土砂崩れなどの被害が多数出ております。(現在進行形で、土砂災害の復旧などにあたっていただいている皆さん、本当にお疲れ様です)

そんな台風19号に関して、今回僕は個人の情報発信として、9月末に休止宣言をしていたローカルメディア「ちちぶる」を緊急復活させて、台風関連の災害情報を発信し続けました。

この発信を通して、災害時における地域の情報発信については、様々な課題があったり、まだまだ仕組みが不足していることを強く感じたので、そのことについてまとめてみました。

まだ、被害が進行中の状況ではありますが、いつ襲ってくるかわからない天災に対する備えとして、1日でも早い検討・準備が必要なことと思い、記事を公開させていただきます。

前提としてこのnote触れるのは、インターネット上の「情報」についてで、全年齢ターゲットに情報を届けるには防災無線、消防団、役場などの人的に手段など、様々なことをハイブリットすることが必須だと考えています。踏まえて読んでいただけたら幸いです。


情報集約をしたストック型の情報発信の必要性

まず、なぜ僕がちちぶるで情報発信を行おうと思ったか。それはひとえに、情報の集約とストック型の情報発信が必要と感じたからです。

今回の台風における、最新情報の取得方法としては、
・ちちぶ安心・安全メール → 自治体が発信、もっともスピードが早い一次情報
・開局したてのローカルラジオ「ちちぶエフエム
・各自治体のSNS発信

等がありました。

我が家にはテレビはないのですが、今回のような広範囲の災害については、テレビなどのマスメディアでは、自分の地域に関わる解像度の高い情報を得ることはキャッチすることはほぼ不可能
そのため、ローカルに特化した情報媒体がとても役に立ちました

しかしながら、先に挙げた情報発信手段は全てフロー型の情報、つまり最新情報はキャッチできるが、情報が流れていきやすい、というデメリットもあります。

そこで必要なのがストック型の情報発信です。災害時には受け身で情報を待つだけでなく、能動的になるべく情報収拾をしたいという心理が必ず働いています。

そうした時に、時系列で並ばないFacebookタイムラインや音声で伝えるラジオなど、フロー型の情報は能動的に情報取得をすることが難しい場合があルため、ストック型の情報発信が必要になります。

本来であれば、各自治体のサイトがストック型のプラットフォームになるべきなのですが、自治体職員にもリソースの限りがあり、フロー型で最新情報を流すのが手一杯。ストック型をわかりやすく、こまめに発信し続けるというのには、スキルと人的リソースが必要になります。

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秩父地域の自治体のWebサイトは、そもそも台風に関する情報量が極めて乏しかったように思えます。

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ちなみに、他の自治体のWebサイトも様々チェックしましたが、現在も進行形で深刻な状況が続く相馬市では、サイトを災害モードに切り替え、ストック型に情報を掲載しています。(サイトへのアクセス負担を避けるため、リンクはせずキャプチャのみとします)

被災地への支援もこういった窓口からすぐに行えるので、ぜひ。


また、情報の集約も必要です。

特に秩父地域は1市4町で成り立つ地域で、情報を横串で管理するレイヤーの組織がありません。また、ダムの放水状況、電車やバスの運行情報など、それらの情報は主に管轄も変わるので、全てを自治体のサイトに集約するのは困難です。

このような考察から、情報集約とそれらの情報をストック型で発信すること今すぐ必要と考え、動いた次第です。


それではここからは、ちちぶるが発信した情報が実際のところどのくらいの人に届いていたのか、などをお伝えしていきます。

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こちらが、12日〜14日の2日間のアクセス状況です。休眠していたサイトにも関わらず、SNS拡散で一気にPV数を伸ばし、3日間で28,744ユーザー、51,059PVというアクセスでした。

秩父地域の1市4町の人口が約10万人であることを考えると、実に28%近くの人が、このサイトを閲覧したことになります。

まあ、全てが秩父にいる人からのアクセスではないとしても、これだけの数字だったことは、今回の情報発信の必要性を考える上で、無視できないデータではじゃないかと思います。

予想外だったのが、台風が過ぎた翌日以降のアクセスが、引き続き多かったことです。

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リアルタイムのアクセスが常に100オーバーで、このアクセスは落ちることはありませんでした。(ちちぶるは休眠していたサイトなので、ベースのアクセスはあまりありません、ほぼ全てが今回の記事のアクセスです)

翌日もアクセスが落ちなかった理由は、検索からの流入が一気に増えていたことです。

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このグラフは検索流入の推移で、12日と13日で圧倒的な差があるのがわかると思います。なぜ、これほどまでに検索流入があったのか。

それは
「秩父 台風」
「秩父 災害 情報」
「秩父 通行止め」
「秩父 被害 状況」
「秩父 台風 被害」
など、秩父地域の台風関連情報を調べるキーワードで、ちちぶるの記事が軒並み1位になっていたことです。

アートボード 1

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アップして1日も経過していない情報が、自治体のサイトよりyahooや気象庁よりも上位に表示されていることには驚きでした。

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実は今回、情報発信は複数の記事に分けることをせず、全て1つのページにまとめて、このページを逐一上書きしながら(打ち消し線などを使って情報更新がわかるように)更新していきました。
結果的に、ページ単位のコンテンツ力が上がり、googleの評価に繋がっていたものと思われます。

このデータからもわかる通り、間違いなくユーザーは検索で最新の情報を取りに行く、という行動をしています

また、情報集約記事の他にもGoogle my mapを使って、避難所やライブカメラの設置場所などをまとめて発信してました。

このマップも実に50,000回以上表示され、いかに情報の集約性が重要かがわかると思います。

このように、ストック型の情報発信に対するニーズが確実にあることは、火を見るより明らかでした。

FacebookやTwitterでも情報はキャッチできますが、時系列の整理や、情報の前後関係、また情報の正確性担保など、全てをSNSで賄うのはなかなか難しいものです。

災害時には、こういった情報の集約化とストック型の情報発信、合わせてフロー型の情報発信の網羅性が不可欠と感じました。

ちなみに、こういった情報集約とストック型情報発信の必要性を謳ったところで、自治体職員だけでここまでやることはとても厳しいと思います。なので、災害時にはこの領域は民間への委託がベストなんじゃないかなって思います。

これは地域によって差が出ると思いますが、ローカル情報を発信しているローカルメディアは各地にあります。その地域に住み、地元の人としっかりとつながりを持っているローカルメディア運営者こそが、この情報集約とストック型情報発信に長けている存在です。

僕の仲間のローカルメディアでも、素敵な情報発信をしているローカルメディアがたくさんあります。

全国の自治体の皆さんは、こういったローカルメディアと災害時の取り組みなどを検討するのが良いと思います。それこそ予算もしっかりつけて。


ローカルマスメディアの絶妙な距離感が与える安心感

災害時はやはり自治体などの公共機関が主に動くことが当たり前、になっていると思います。ですが、情報発信についていえば、自治体だけの対応では限界であると考えた方が良いと思います。別にディスってるわけじゃないです(笑)

今回の台風19号で何よりも力を発揮したのは、10月7日に開局したローカルラジオ「ちちぶエフエム」です。

秩父地域では、自宅や避難所でちちぶエフエムの放送に耳を傾けていた人も多かったのではないでしょうか。

テレビや通常のラジオでは、秩父地域に特化するという解像度の高い情報発信は不可能ですが、「あのセブンイレブンの隣あたりある〇〇」といった、超高解像度の情報発信ができるメディアは、災害時にはとてもありがたい存在です。

災害時における、ローカルマスメディアといったところでしょうか。

もう一つ、ちちぶエフエムが機能したことの一つに、リスナーへの安心感を与える役割を担っていたのではないかなと思います。ローカルマスの情報発信は、マスメディアよりもグッと距離感が近く、発信される情報全てが“自分ごと”になりやすい。しかも発信者の顔が見える距離感であること。

この距離感による「安心感」や「コミュニティの団結感」は、情報発信の機能面とは違った側面の「意味」の部分での効果があったと感じます


情報の受け手側のリテラシーと野次馬性の問題

様々な情報発信の方法や仕組みを考えても、どこまでいってもこの根本はなんとか解決せねばならないと思っています。

それは、情報の受け手側のリテラシー問題です。

誰でも発信者になれるこの時代に、日頃からFacebook、Twitterでもフェイクニュースやデマが流れています。そして、それらのニュースを自分なりに判断したり咀嚼することをせず、拡散するという大きな社会問題があります。

災害時の情報発信では、緊急性と正確性が天秤にかけられます

両立をさせたいところですが、ファクトチェックが緊急性を遅らせるということはあります。

今回ネット上での情報取得としてとても役に立ったのは、秩父の情報を共有し合うFacebookグループです。

とにかく秩父中にいる人たちがあらゆる情報をアップしたり、情報をシェアしていくので、情報量とスピードはめちゃくちゃ助かるものばかりでした。

しかしながら、個人の発信であるため、ファクトチェックがされていない情報がシェアされる可能性もあります。先ほどの天秤でいうと「緊急性」に特化した情報と考えると良いかなと思います。

どこまでいっても、この緊急性と正確性の天秤はついてくる問題なので、あとはここに受け手側の「判断」という軸を加えるべきだと思っています。

人命に関わる重要な情報発信もあるので、発信側は徹底的にファクトチェックを行い、受け手側は必ず自己判断を入れる必要があるということです。

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災害の最前線は何も整備されていません。本当に危険が目の前にあり、自己判断が必要になるものです。与えられた情報を鵜呑みにするのではなく、複数の情報をえて、その上で咀嚼し、最終的には自己判断をしなければなりません。このことを常日頃から啓蒙する必要があると思います。

発信側は、決してフェイクニュースを流したいわけではありません。常に緊急性と正確性の天秤で戦っています。あとは、受け手側のリテラシーを整備することで、正確な情報の伝達は著しく改善できると思います。

もう一点だけ、個人発信のリスクを共有しておくと、発信している情報の中には野次馬性を感じるものがあります

必要以上に煽る、反応が良さそうなひどい状況の写真だけをアップする、こうした野次馬的な情報発信は判断を狂わせます
ただ、気持ちはわかるんですよね…メディアって反応の大きさがアイデンティティみたいなものですから。発信した情報の反応が良いと気持ちいいものなんです。
だから、野次馬ってのは存在するわけで。

そんなことから、個人発信の情報には野次馬性が潜んでいる場合があるので、特に自己判断が重要になると感じました。


ローカルインフルエンサーの活用

ローカルのラジオ、ローカルメディアと同じように、ネット上でメディアとして機能するのが、ローカルインフルエンサー(地方における影響力の大きい人)です。

もっともわかりやすい例は、自治体の首長の情報発信です。

これは首長ごとのスタンスにも寄ると思うので、一概にこれがいい、とは言い切れませんが、少なくともネット上で情報収拾をしていた僕の観点からは、絶え間なく情報発信をしていた首長は頼もしくそして、全てが公的な一次情報という感覚で捉えることができるので、その力は大きいと感じました。

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昼夜問わず、リアルタイムに災害関連の情報発信をFacebookで行なっていた鎌倉市の松尾市長。コメント欄にも好意的なものが多く、市長と市民の距離感の近さを感じました。

ツイッターでの情報発信に長けている千葉市の熊谷市長。災害時も絶え間なく情報発信を行い、どのTweetも数百リツイートに達し、情報発信の一旦を担っていました。

リプライにも可能な限り対応している姿は、多くの人に勇気を与えていることと思います。

今回、甚大な被害があった長野県佐久市の柳田市長。Twitterで事細かに災害の状況やボランティア募集のことを発信し続けています。


こうした、ローカルインフルエンサーとしての首長の存在。首長は全ての自治体にいる存在なので、このような情報発信に取り組むだけで、地域における1メディアとして機能するのは間違いないと感じました。しかも信頼性のあるメディアとして

また、ローカルインフルエンサーは首長だけではありません。
地元で頑張っているお店の人、経営者、スーパー公務員など。Facebookに投稿したら、毎回100いいね以上つく人っているじゃないですか。

そういう人を災害時のローカル情報発信アンバサダーにして、自治体やメディアと連携して情報発信をしていくのもいいんじゃないかなって思いました。


以上、今回の台風19号を完全に自分ごと化して感じたこと、そして数値から得られる示唆をまとめてみました。

やはり自治体だけで情報発信を行うのは、人的リソースとスキルの面で、極めて困難。であれは住民主体の情報発信を行なっていくことがとても重要なのかなと感じました。

今回情報発信の大きな役割をになったちちぶエフエムも民間企業です。

あらかじめ、民間のメディアとローカルインフルエンサー、ローカルメディアが手を取り、情報の網羅性やファクトチェックのレポートラインの構築などを行なっておけば、災害時の情報発信はかなり改善されるんじゃないかなと思います。

今後起こり得る災害に向けて、少しでも今からできることを。

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