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自動車業界に伝えたい過疎地域の移動問題、自動運転、ウォーカブル 〜業界誌インタビュー③未来編

 自動車産業専門の調査研究会社「株式会社 FOURIN (フォーイン)」が発行する「FOURIN 世界自動車法政策調査月報」にインタビュー記事が掲載されました。
 ご好意でインタビュー記事の転載許可をもらいましたので、このnoteで紹介したいと思います。今回は、未来のことについて語らせてもらいました。


タイトル「小山市、モビリティ・マネジメントでバス利用者数の増加に取り組み、2021年度は2017年度比27%増の84万人に」


まだ①、②を読んでいない方はコチラから↓

10.デマンドバス?タクシー?どっち?

小山市は市街地で14の路線バス、郊外は5つにエリア分けして予約制デマンドバスを運営しています。ハブアンドスポーク方式にした理由は?

 もともとは市内を循環しているバスを走らせていました。ただ、車両が少ないため本数が1日3本とかいうレベルで乗る人は少なく「空気を運んでいる」という批判を浴びていました。そこで駅周辺など街の中心部に来る人が多い小山市の特性を活かして、中心部から放射状に移動できるようにしました。残された郊外部は、以前はバスが回っていましたが今はデマンドバスにしています。

小山市の公共交通網のイメージ(小山市立地適正化計画より)

 しかし早朝夜間・土日運休、更に運行エリアが限定されていて、駅や大きな病院に行くには路線バスに乗り継ぎが必要です。このように不便すぎて乗る人が非常に少ないのが現状です。
 本当に移動に困っている人以外乗らないので、それでいいのかとは思います。資金があるなら路線バスを走らせたいですが、そこまでの財力がないので悩ましいところです。

デマンドバスの概要

デマンドバスの台数は限りがある中で、どのように運用していますか?

 今は2時間半前までに予約を受けて運用しています。空いていれば迎えに行きますし、空いていなければ迎えに行ける時間で予約をしてもらいます。世の中ではそれをAIでマッチングすることが広まってきました。
 しかし、そこも課題で、便利にしすぎるとタクシー会社のお客様を奪ってしまいます。

 このデマンドバスの構造的欠陥は運行にタクシー料金相当(運転士と車両)の経費がかかることです。運賃は300円しか取れないので、その差額を市が負担しています。すると利用者が乗れば乗るほど小山市の負担が増えてしまう財政的に危険な仕組みになっていて、そこを今どうにか是正したいと思って制度設計し直しています。

解決手段はあるのですか。

 私は郊外部の移動はタクシーに委任したらよいのではないかと考えています。タクシーを定額で回数限定の割引にするのです。例えば指定地域に住んでいる方は月に10回1,000円の割引をするので、タクシーを好きに使ってくださいというように。市の負担総額は変わらずにユーザーは便利に使えるようになるはずです。
 更に、小山市はできたらですが、乗り放題の定期券とタクシーの割引を組み合わせるようにしたいと考えています。最寄りバス停までのタクシーでしたら利用者の負担は少なくて済みますし、バスに乗り換えしたくない方は直接、駅や病院までいけるという選択肢を提示できる。またタクシーは市内にたくさんあるので、予約しても乗れないという場面が減り、いつでも、どこにでも使えて今より便利になると思います。

<補足>
タクシー補助は様々な自治体の事例があります。小山市の近くでは前橋市が高齢者や免許返納者限定で割引を行っています。

前橋市マイタク(でまんど相乗りタクシー)のご案内より


サービスの提供方法として最終的にタクシーが最有力ですか?

 そんな気がしています。定期券保有者、デマンドバス利用者に対してタクシーの割引(1,000円上限の半額割引)実験を2021年度に3ヵ月間行いました。
 現在、結果を集計していて、デマンドバスを便利にするのか、タクシーを活用するのか、検証を行っています。

デマンドバスの仕組みを住民の皆さんはすぐに理解できましたか?

 相当難しかったようです。Bloom!第2号でデマンドバスの説明書を作りました。すると1ヵ月の間電話が鳴りやみませんでした。こんなサービスがあったのかという反応でした。

デマンドバスの説明書(見出し)
デマンドバスの説明書


説明がわかりやすかったということですね。

 ただ、使ってみると不便なことがわかります。
 使える時間が限定され、行ける場所が複雑なので、いつでも、どこにでも行ってくれるタクシーの方がいいのではないかと思います。
 やっぱりシンプルさは大切です。

デマンドバスの行ける施設・バス停(これを作るまで私も理解していませんでした)

11.自動運転は?

バスの自動運転はお考えですか?

 自動運転は小山市でも1回実験をやりました。おーバスの人件費は運行経費の7割くらいを占めるので、これがなくなれば全部黒字になりバスも増便できるという短絡的な狙いが当初はありました。
 しかし、やってみて、勉強してわかったのは人件費は減らないということです。運転手はいなくなっても、車椅子介助や路線案内、防犯のために、オペレーターや車掌のような人が必要になります。そうすると二種免許という特殊技能者がいらなくなるだけで人件費面ではほとんど効果がないことがわかりました。運転手の負担や交通事故を減らす意味で自動運転は大切ですが、現時点で小山市が多額の投資をして産業を育てるみたいなことは難しいと思います。

2022年に行われた自動運転実験


12.ウォーカブルシティが大切

小山市はおーバスの利便性向上等や都市の再整備により街の空間を車優先から人優先にするウォーカブルシティへの転換も目指しています

 ウォーカブルシティは、環境負荷低減、交通安全、まちの活性化など、よい面がたくさんあります。更に、人間の身体と心の健康にも関係していると思います。
 
 人類の歴史を振り返ると、これまで人間は獲物を獲って、コミュニティでみんなで暮らしてきました。生き延びるために歩いて食糧調達してきたし、集団で生活して情報を取得して、外敵から身を隠すために森の中で生きてきました。

現代のマイカー社会(歩かない)や孤独、コンクリート構造物だらけ(緑に囲まれない)の環境というのは、長い歴史をもつ人間にとって異常な環境と言えます。歩行数が少ない人、孤独な人は不健康になりやすいという研究結果が示すように、私たちの身体は異常な環境を拒否するようにできているのかもしれません。

だから、街はウォーカブルで、交流ができて、緑に囲まれている必要があると思います。歩いて移動しない社会が進めば、多分多くの人がもっと心も身体も不健康になっていくと思います。友達と歩いてすれ違って「最近どう?」という会話が自然に生まれる。待ち合わせしていないのに、オープンテラスや公園で偶然居合わせて交流が生まれる。コロナ禍でそういう時間がすごく大切になりました。多分人間が本能的に求めているのでしょう。都市に最後に残る機能は交流だと思います。

小山御殿広場で開催されるマルシェの様子。ウォーカブル、交流、緑を中心とした都市空間になる兆しを感じるイベント。

最後に

 こちら、インタビュー記事原本です。もしよかったらこちらもお読みください。この記事にはない写真などが掲載されています。

 プロジェクトの過程を詳しく記述した論文もありますので知りたい方はこちらもどうぞ。
 全市民対象のMMツール開発とその効果 -ブランディング及びコストダウンのプロセスに着目して-
全文公表ページ

FOURIN 世界自動車法政策調査月報<https://www.fourin.jp/monthly/law_repo.html>

株式会社FOURIN 自動車産業を調査・研究し、レポートを発行。自動車産業の最新情報お届け。<https://www.fourin.jp/>


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