見出し画像

赤字バスは本当に不要なのか?〜 自動車業界誌インタビュー①交通の知識編

 自動車産業専門の調査研究会社「株式会社 FOURIN (フォーイン)」が発行する「FOURIN 世界自動車法政策調査月報」というレポートにインタビュー記事が掲載されました。2022年3月4日開催第6回ReVisionモビリティサミットでご縁いただき、インタビューを受けたものです。ご好意でインタビュー記事の転載許可をもらいましたので、このnoteで紹介したいと思います。


記事タイトル:
「小山市、モビリティ・マネジメントでバス利用者数の増加に取り組み、2021年度は2017年度比27%増の84万人に」



小山の取組概要

 モビリティ・マネジメント(以下、MM)でバス利用者数を増やした小山市の取り組みを取材した。栃木県南部に位置する小山市は県内2位の人口(16.7万人)を擁する都市で、鉄道と幹線道路が東西南北に交差する交通の要衝である。最も多く利用される市内の交通手段は自動車で、2018年のパーソントリップ調査によると市内の交通機関分担率は自動車が69.0%、バスが0.3%(他都市の10分の1程度)であった。
 過度な自家用車依存を是正するため、小山市は市内のコミュニティバス「おーバス」の利用促進プロジェクトを2018年度に開始し、バス全体の利用者数を2017年度末の66万人から2021年度に84万人まで増加させた。バス利用者数を増やすために用いたのがMMである。MMとは市民が自発的に交通行動を変化するように促す交通施策である。コミュニケーションを中心としたソフト施策である点に特徴がある。
 
小山市は生活情報タブロイド紙Bloom!(ブルーン)を市内全戸に配布(5.3万戸/計18万部)し、市民のバスに対するマイナスイメージの払拭に努めた。また、おーバスの全線乗り放題定期券norocaを発売して、定期券よりも回数券の方が便利であるという従来の課題を解決した。今後は路線バスの更なる利便性向上やタクシーとデマンドバスの連携などにより、バスの利用者数を2040年までに210万人に増やす計画である。

1.なぜ日本では地方路線バスがジリ貧なのか

小山市は交通手段として自家用車利用が多く、バス利用が非常に少ないという特徴があります。その背景を教えてください。

 これまで日本の都市計画は自動車中心の計画で、車で便利に移動できる都市をつくってきました。小山市は、車中心の新しい街を郊外につくり、住民は車のある生活を前提に住まいを選び、車が増え続けました。車が増えるとバスが減る。渋滞が起きるとバスのダイヤが守れなくなり、さらに利用者が減っていき、2008年3月に民間路線バスは撤退しました。それ以来、市営コミュニティバスの「おーバス」しかなくなってしまいました。
 市バスしかない小山市では、免許を持たないお年寄りは外出をしない傾向があります。また母親は毎日子どもの通学に送迎をしています。これらの課題を解決し、市民に移動の自由を提供したいという思いでバスサービスの改善に取り組んでいます。

小山市内のバス利用者数と車台数

最盛期は年間のべ1,330万人いたバス利用者が2007年までに同15.2万人に減少しました。これでは採算がとれません。

 私見ですが、日本の公共交通市場は特殊で、公共交通が儲かる民間事業として成立して発展してきた歴史があります。自家用車が普及する前に人口が増えたため、移動するのに車ではなく鉄道やバスを皆が利用していました。ですから公共交通はギュウギュウに人を詰め込んで、多くの人を運び、かつ独占なので儲かった。私鉄が発展した要因の一つでもあります。黒字が当たり前になっているので、赤字になってしまうと事業として成立せず、不採算路線はなくなってしまいました。
 
そこが日本の公共交通は、昔は良かったけど、今危機に瀕している根幹的原因だと私は思います。海外でそういう国は私の知る限りありません。日本以外ではバスも鉄道も公共交通は赤字が当たり前です。フランスには交通税という財源制度があり、事業所に対して課税します。それが市町村(正確には、自体体連合)の財源になり、例えば小山市クラス(人口15万~20万人)の自治体連合で20億~40億円規模の財源となり、公共交通を運行しています。他の国でも一般財源から繰り入れて公共交通を運行しているという国は多いです。

<補足>
小山市の公共交通のコロナ禍前(2018年度)の予算は、約1.4億円、収支率46.3%でした。以下の各国の運賃カバー率(収支率)をみてる分かる通り、欧米の公共交通は赤字(収支率が100%以下)になっています。また小山市の公共交通の収支率は各国と遜色ありません。

地方都市圏におけるモード横断的な公共交通の財務についての調査研究より引用


2.都市計画課が交通事業を担当している幸運

淺見様が小山市に出向した2017年に小山市のコミュニティバス担当が市民生活部生活安心課から都市整備部都市計画課に所管替しました。

 そのころ都市計画課はLRT(Light Rail Transit)の検討をしていたのですが、バスもセットで検討しなければいけないというのが当時の市長のお考えでした。自分が所属する部署にバスがあるのは幸運でした。都市計画の中で公共交通を整備するということは大切な視点です。私は大学で都市計画を専攻し、バスの研究をしていたこともあり、所管しているバス事業をどうにかしたいと思いました。
 赴任初年度である2017年度予算は前任者が組んでいましたが、小山市には年度途中でも国の地方創生推進交付金に採択されれば新規予算が組める仕組みがありました。そこで当時のバス担当者とバス改善プロジェクトの企画書をつくり、それを申請しました。
 そして庁内や議会にご理解いただき、年度の途中からプロジェクトを始めることができました。私もプロジェクトリーダーとして最初から参画して、管理職の部長だったのですけれど、イチ担当者のように口を出し手を動かして、チーム一丸となってやるしかないと思って始めたというのが経緯です。

3.パーソントリップ調査ってなに?

交通計画を策定するにあたり実施したパーソントリップ調査とはどのようなものですか?

 人の1日の移動を朝から晩までいつどこで何をしたのかをアンケート形式で集計して移動データとして市民の動向を調べるものです。大きい都市は5年に1回実施することになっていますが、小山市クラスの都市は対象外です。小さい都市だとパーソントリップ調査は予算がなくて到底できません。
 小山市の場合は3,700万円かかりました。小山市はLRTの事業成立性の検証というミッションがありましたので、調査費の予算を確保することができました。この調査のデータがあるおかげで現状や課題がわかります。
<補足>
パーソントリップ調査は、 「どのような人が、どのような目的で、どこから どこへ、どのような時間帯に、どのような交通手段で」移動しているかを把握するためのとても重要な交通調査です。この調査を行うと、交通機関分担率(移動にどのような手段が使われているかを、手段毎のシェアで示したもの)を算出することができます。(他にもたくさん使い道はあります)

小山市パーソントリップ(人の動き)調査結果概要をリンクしておきます。

パーソントリップ調査とは(2018年小山市パーソントリップ調査結果概要 より)
全国パーソントリップ調査の対象都市70都市(国土交通省HPより)

4.モビリティ・マネジメントってなに?

現状と課題を把握したうえで、小山市は自動車中心の交通環境を是正するために全市民に対してモビリティ・マネジメントという手法を展開しました。モビリティ・マネジメントとはどのようなものですか。

 モビリティ・マネジメントは狭義では「1人1人のモビリティが社会的にも個人的にも好ましい方向に自発的に変化することを促すコミュニケーションを中心とした交通施策」と定義されます。例えば「200m先のコンビニに車で行くよりも歩いて行きませんか」とか、「小山市から東京へは車よりも電車で行きましょう」という呼びかけをします。というのも、過度に車を使うと交通渋滞を引き起こし、環境にも問題があります。そういう情報を一緒に提供し、車の使い方に関する正常な判断をしてもらうためのコミュニケーションを行う施策です。
 最近は広義のモビリティ・マネジメントというものもあります。小山市でいうと、1人1人への呼びかけプラス公共交通の改善や料金などすべてを含んだものをモビリティ・マネジメントとする解釈もあります。

<補足>
人間は、「カネ」、「チカラ」、「コトバ」で行動が変わると言われています。モビリティ・マネジメントは主に「コトバ」を使って人々の行動の自発的変化を促すものです。コトバだけでも人々の行動は変わり得るのですが、小山市では「カネ」の力も使ってモビリティ・マネジメントを行いました。

筑波大学谷口綾子教授「モビリティ・マネジメントのココロ」より

もっと詳しく知りたい方は、谷口綾子教授の動画や書籍がおすすめです。

【動画】
第45回EST創発セミナー in小山〔関東〕
モビリティ・マネジメントのココロ

【書籍】

国土交通省発行のパンフレットもあります

本編は以上です。引き続き、小山のプロジェクトの裏側を紹介した続編を読んでもらえたら嬉しいです。

FOURIN 世界自動車法政策調査月報<https://www.fourin.jp/monthly/law_repo.html>

株式会社FOURIN 自動車産業を調査・研究し、レポートを発行。自動車産業の最新情報お届け。<https://www.fourin.jp/>

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?