『私を救ったのは騎士団――じゃなくて氣志團です! え?』

今日は、10年前、氣志團の綾小路翔が僕まで救ってくれた話をしよう。

彼のことを好きだったわけじゃない。
そのとき勤めていた会社からの帰り道に、携帯ラジオできくことがあっただけ。
しかし、たびたび救われ、今ではリスペクトしている。
昔あった紅白での事件もあっぱれだ。

(以下、綾小路翔では呼びづらいのでショウやんにする)

私はたいてい仕事で、うー書けないーと
悩んでいるのだが、そういうときショウやんのラジオは、
実に効果的だった。

話す内容はぜんぜん私の問題と接点はないのだが、
彼の他人に対する包容力や機転に触れると
なんだか、涙が出てきたり、
自分まで肯定された気分になったり、
ダメだ!と思っていた呪縛から、
知らず、解き放たれてしまったりするのだ。

ショウやんはラジオでお悩み相談を受ける。
先日――(といっても、この話は10年前だが)私が聞いたのはこんな相談だ。

学校の勉強や、友達のことでしんどくなり、
もう学校へ行きたくなくなってしまった女子高生がいる。
彼女は、学校にいきなさい!という親と対立し、
もうどうにもならなくなっている。

自分を押し殺して学校にいってみても続かない。
行かないと母親は絶望し、あなたが行かないなら
私は自殺するしかない、とまでこぼし、
かなり限界まで憔悴しきっている。

そんな親をみて、さらに苦しくなった彼女は、
最近、なんだか悪いことがしたくて
仕方がないのだという。
ふだんは真面目いっぽんで生活してきた彼女が、
もうパンク寸前で、話しながら泣いている。

けっこうシビアで困る相談だ。
ショウやんはどう答えるのだろう。
私は興味深く、耳を傾けた。

「おーい♪ なんだよ~。
なに泣いちゃってるんだよ~
困ったなぁおい。どうする?
学校いきたくない?」

「はい……」

「でも、おかあさん
死んじゃうっていうしなぁ」

「……」

「で、悪いことしたくなっちゃった?」

「はい……」

「悪いことかぁ。あんまり薦められないなぁ。
人殺しとかまずいしなぁ。
どんなことしたいの?」

「……ふだん、どちらかっていうと、
真面目に生きてるので、何したらいいか
わからないんですけど、自殺とかは
考えたりします……」

「そうかぁ~」

ショウやんは受け止めて、心配しながらも
あくまで明るい(難しいトーンだ)。

彼女はまだしくしく泣いている。

どうするショウやん、と思っていると、
いきなりスコーンとやられる。

「よし!
じゃぁ、俺とセックスしよう!」

「…え?」

「セックスしたことある?」

「……ごにょごにょ」

「え? なに?」

「(テレながら)……まだです」

「なんだよぉ~、まだかよ~、
いっとくけど、スゲーぞセックスは!
マジで半端ねぇぞ。
でもそうか、まだセックス知らないか~」

故意なのかどうなのか、
とにかくショウやんは「セックス」を連発した。

そして、このあたりから女子高生が、
あきれてるのか、なんなのか、
泣いてるのが止まって苦笑みたいなのが
漏れ聞こえるようになっていた。


「あれ!? いけね!
でもその年齢じゃオレがパクられるじゃん!
やべぇよ!」

「フフフ……」(ここではもう声になってクスクスきてる)

「あ、じゃぁ、まず!
オレとセックスする前に、
その一歩前の手順として、もてる女になれ!」

「……ん~、は、はい」

「お前、もてるってのは悪いことだぞぉ~。
だって皆にひがまれるしさぁ。
もう、もてまくって、彼氏つくって
学校でみせびらかしてやりなよ。
これ悪だよ」

「はい」

「で、大人になったら、オレとセックスな」

「はい」

「オレとじゃいやか?」

「ショウやんとだったら、いいです」

「よし! じゃぁ、大人になったらオレとセックスして、
で、そのあと、オレにふられる。
どうだ。これ悪いだろう?
オレとだと不倫になるし」

「フフフ、悪いですねぇー」

泣いてた、声が明るくなってる。

「よーし、だから約束しろ。
それまで死ぬな。
ワルになってもてろ」

「はい」

「そして、オレとセックスな。
いいか?」

「はい」

「じゃぁとりあえず、親にあやまんな。
学校だけはいくから、心配かけてごめんて」

「…はい」

「親はさぁ、自分らが死んだときの
きみの将来が不安で、うるさく言ってるだけだから。
わるぎないんだし」

「はい」(さすがに返事がかたくなる)

「あ、学校行きたくないときは
ぶっちゃけ行かなくていんだけど
いろいろな経験から言わせてもらうと
出ておいたほうが楽!社会にでたときに。
まぁでも、覚悟あるなら全然行かなくてもいいけどな」

「でも…親に迷惑かけるから…」

「いや、かかんないよ。
実質的には親にはそんなにかかんないから大丈夫。
ただ、親が心配してんのは君の将来なんだよ。
行かないと、君が君自身に
迷惑かけることがあるかもってだけ」

「はい」

「生き抜く覚悟あるなら行かなくて全然OK。
でも、オレから言わせてもらえば
学校行って、彼氏つくって
セックスして遊んでおけ。
すげーぞセックスは!
社会にでるとつらいことばっか、多いよ、マジで。
そのぶん楽しいこともあるにはあるけど」

「はい」

「でもどうせなら、学校にいるだけいてさ、
働かなくてよくて、守られてるうちに
たっぷり遊んでおけ」

「はい」

「卒業してから、学校いってて
よかったってわかる時がくるよ、うん」

「はい」

「よし! わかった?
じゃぁね!」

「はい、ありがとうございます」

「おう!バイバーイ!」

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字面だと伝わりにくかったかもしれない。

が、

とにかくショウやんは、この世の中にいなきゃ困る、
人の苦しみやどうしようもなさを知っている
最高の不良だと思う。

仕事のことで肩肘張った状態だった私は、
これを聞いて、おもわず何かに許された気がして、
泣いてしまった。

そして、はっとした。
それが何かの感覚に似ていたからだ。

「インザプール」のイラブ!?

私は奥田英朗が「インザプール」という小説で描いた
イラブというヘンタイ医者の話を思い出した。

注射フェチでマザコンで色白でデブの精神科医で、
常識では考えられないような、言動をとって
患者をふりまわす。

しかし、そのデタラメぶりに振り回されるうちに
いつのまにか、常識の箍(たが)がはずされていて、
なんだか真剣に考えてるのさえバカバカしくなって
症状もへったくれもなくなってしまうのだ。

ショウやんの話も、強引で滅茶苦茶だけど、
それが実に効果的なアドバイスになってた気がするのだ。

あんなやり方、ショウやんにしかできないだろう。

私は、自分の問題とはまったく関係なかったのに、
ショウやんの型破りなアドバイスに一瞬あっけにとられ、
いつのまにか、深刻に悩んでる自分も包み込まれていて、
その安心感につい涙してしまっていたのだ。

仕事はきちんとせにゃならん。
同じやり遂げねばならんのだったら、
切羽つまってやるよりも、ゆとりを持ってやったらどうだ?
急いでやっても、楽しみながらやっても
締め切りはかわらない。

険しい山をのぼらねばならないとき、
つらいなぁ、やだなぁと思いながらやるよりも、
難しそうだからこそ面白い、自分をためせる!
と楽しみながら、心だけでもゆとりをもってやれた方が
ゲームみたいで楽しいし、
次もまたのぼりたいと思えるだろ?

別に出来なかったんなら、出来なかったでいいじゃん、
失敗したっていいじゃん、人間なんだし。
それが永遠にとりかえせないわけじゃなし。
今日はダメだったけど、明日は書けるかもしれない。
な?

うん。

泣いて笑って、肩の力が抜けた私は、
そう自分自身に言い聞かせることもできるようになっていた。

ショウやんに、改めて礼を言わねばなるまい。
ありがとう、ショウやん。
これからも、お悩み相談で
ショウやん節をぞんぶんに聞かせてくれ。

そしてまた私に、
明日を生きる勇気を取り戻させてくれ。

「おう!」


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水もしたたる真っ白い豆腐がひどく焦った様子で煙草屋の角を曲がっていくのが見えた。醤油か猫にでも追いかけられているのだろう。今日はいい日になりそうだ。 ありがとうございます。貴方のサポートでなけなしの脳が新たな世界を紡いでくれることでしょう。恩に着ます。より刺激的な日々を貴方に。