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クス楠木正成

中近東とかで食べられ、ほぼ主食にもなっているという世界最小のパスタを料理しながら、時代によって評価が随分と変わった人物を妄想した記録。


材料

クスクス    200グラム
ジャガイモ   1個
パプリカ    1個
ホウレン草   1杷
塩麹      大匙1
クミンパウダー 大匙2
ガラムマサラ  大匙2
オリーブ油   大匙1
塩       1摘み

皇居外苑に建つ騎馬の銅像、楠木正成。
高村光雲作で力強く馬の手綱を操るが、兜の眉庇に隠れて風貌はよく見えない。真の顔がよく見えないのがミソ。
鎌倉時代末期から室町時代初期に生きた河内の武士で、後醍醐天皇が鎌倉幕府打倒を呼び掛けると、それに応じて挙兵。千早城や赤坂城に籠り、幕府軍を引き付けて、熱湯を浴びせたり、案山子を使って城兵の数を多く見せたりと奇抜な戦術を用いて幕府軍を翻弄。
鎌倉幕府滅亡後、建武の新政が始まるが公家に厚く、実際に戦ったのに恩賞が薄く不満を抱いた武家が足利尊氏の元へ集結していく中でも、楠木正成は南朝方から離れず。


ジャガイモを圧力鍋で煮る。

新田義貞を討ち、尊氏とは和睦すべきと献策するも受け入れられず、九州で勢力を盛り返し都に迫る尊氏軍と不利を承知で湊川で合戦。七度生まれ変わっても国に尽くそう、つまり七生報国を誓い、弟の正季と刺し違えて自害というのが楠木正成の簡単な経歴。今回は正成本人ではなく、周囲の評価について妄想。
尊氏が担いだ北朝が天下を取ったから当たり前かもしれませんが、室町時代の楠木正成は逆賊。
それでも優れた軍略家だったことは評価されていました。
但し仏教的な観点から七生報国とは現世への妄執と見られていたと感じられる逸話が『太平記』にあります。


ホウレンソウを塩茹で。

自害した正成の首級を挙げたのは伊予国の武士、大森彦七。
足利尊氏は鷹揚なリーダー。戦って討ち取った訳でもなく、言わば首を拾ったと言える彦七に讃岐国を恩賞として与える。
俄かに身代が大きくなった彦七は成金根性というべきか、猿楽にうつつを抜かす。
近隣の金蓮寺で猿楽の催し。其処に出掛けるために屋敷を出ると、道端に蹲っている若い娘。
「歩けないのならば、おぶってやろうか」と声を掛ける彦七。
下心見え見え。逃げるかと思いきや、娘は素直に彦七の背に身を委ねる。
このままお持ち帰り?と思っていたら、歩いて行く内に背中が重くなってくる。不審に思い、振り返ると、額から角が生えて、身の丈も2メートル位の鬼女に変貌。
恐怖の叫びを挙げると、家臣達が駆け付けて、鬼女を背中から引きはがす。
「我は楠木正成の怨霊なり」
と叫んだ。


パプリカを細かく切る。

作り話?或いは大森彦七自身に不相応な恩賞を得てしまったという後ろめたさがあり、幻影を見てしまった?
仮に怨霊がいたとしても本当に正成か?つまり彦七を怖がらせるために名を語った?それとも本当に正成が怨霊と化したのか。
どちらにしても楠木正成は現世に強い執着を持っていたと、この逸話は示唆しているのではないか。


お湯を100mlとオリーブ油をクスクスに混ぜる。

正成の子孫が赦免されたのは正親町天皇の頃。
室町時代も末期というか織田信長の時代。北朝に背いた罪を許されたというだけで忠臣とは見做されてはいない。評価が変わって来たのが江戸時代。
徳川光圀、つまり水戸黄門は『大日本史』という歴史書の編纂を始める。その中で南朝を正統と認定。楠木正成は南朝に尽くした忠臣と位置付ける。
正成が自害した湊川の墓に刻まれた『嗚呼忠臣楠子之墓』という墓碑は光圀の揮毫。
光圀死後も『大日本史』の編纂は続き、尊王攘夷思想が此処から広まる。


野菜の準備が出来たら、ガラムマサラ、クミン粉、塩麹と共にクスクスに混ぜる。

幕末には倒幕派が尊王攘夷をスローガンとし、そうした志士達が明治維新を成し遂げる。
北朝と南朝、どちらを正統と見做すべきかと議会で論戦。
明治天皇が「三種の神器を持っていた南朝が正統」と発言したことにより、南朝天皇が皇統譜に加えられる。
北朝の血を引く孝明天皇の子、明治天皇が何故、南朝を認めたのか?
(だって南朝の血を引くとされている大室寅之助が睦仁親王と入れ替わったから)
それは兎も角、南朝が正統となったことから、楠木正成も忠臣として祀り上げられ、皇居前に銅像が建てられる。


軍国化が進むにつれて、忠臣正成像はどんどん膨らむ。呼び捨てになど出来ず、大楠公と呼ばないと非国民扱い?
大楠公のように天皇陛下のために戦って死ぬことが日本男児のあるべき姿。
そんな風潮は敗戦まで続く。
終戦後は一転して、軍国主義の象徴として忌避される。
正成自身は「天皇のために戦って死ね」なんて言っていないのに、イデオロギーのために都合よく利用された。


しっかりと混ざった。

正成の出身地、大阪の河内では「楠公さんを大河ドラマに」という運動があると聞きます。
反面、「楠木正成の大河ドラマ化を阻止する」運動もあるとか。
具体的に大河ドラマになるなんて決まってもいないのに?
反対派の言い分は、楠木正成を顕彰することで、軍国主義が復活するというものらしいのですが、如何にも左巻きな人が唱えそうな理屈。
そういう人達はどうしたいのか?楠木正成の存在自体をなかったことにしたいのか?


クス楠木正成

粒々な食感がいい感じ。その中に混ざる野菜達がしっかりと自己主張。
塩麹を混ぜたことで単純なしょっぱさではなく、甘さも混じる。ガラムマサラやクミンのスパイシーさが複雑な味わいを加える。
パプリカやジャガイモからビタミンC、ホウレン草から鉄分補給。
しかし、量が多過ぎた。半分の量で充分だった。

仮に楠木正成が大河ドラマになっても私はテレビを持っていないので視聴することはありませんが戦国、幕末はやたらとある大河ドラマでも、南北朝モノは足利尊氏を主役とした『太平記』しかないので、バランスを取る意味で南朝方の楠木正成や新田義貞を主役にしてもいいんじゃないの?と個人的には思う。
南北朝時代自体があまりドラマや映画になることが少ないというより殆どない。万世一系であるべき皇統が二つに割れて争っていたということが、保守派にとってはよろしくない。
天皇制反対と言っている左翼にも、軍国主義復活に繋がると思われてよろしくない。NHKは左右どちらにも忖度しているのかも。

楠木正成という人物は時代の空気やイデオロギーに翻弄されて、実像が余計にわからなくなっている。
そうした風評ではなく、純粋に彼自身の行動や理念のみで評価される日は来るのだろうか。そうした日が来た時こそ、日本が真に自立した国家、日本人が真に自立して物事を考えられる民族になる時かもしれない。
そんなことを妄想しながら、クス楠木正成をご馳走様でした。


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