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味噌サ婆娑羅ダ

先日、婆娑羅の代表と言うべき佐々木導誉について書きました。↓

少し書き残した感もあり、主にもう一人の婆娑羅、高師直について妄想しながら料理した記録。


材料

鯖の水煮  1缶
味噌    大匙2
胡麻油   大匙2
蜂蜜    小匙1
トマト   1個
レタス   半分
黒摺り胡麻 お好みで

高家は代々、足利家に仕える執事で同じ先祖から分かれた家。そこに生まれた師直。足利尊氏に忠実に仕え、既存の権威の破壊者にして文化人でもあったということでは佐々木導誉と似た面があり、正に婆娑羅。
私が学生の頃、教科書に載っていた図版で、鎧を着て太刀を担いでいる騎馬武者の絵がありました。従来、これは足利尊氏像と言われていましたが、最近の研究では馬具や刀の柄に描かれた家紋から高師直ではないかと言われています。


鯖缶を細かく潰す。

前述の騎馬武者像のイメージと重なりますが、主に戦で尊氏に貢献。四条畷の戦いで楠木正成の息子達を討ち取った功績もあり。その武力や胆力を背景としたものか、土地に関する法で足利幕府に貢献。
後醍醐天皇の建武政権では土地の処遇は甚だ曖昧。土地の所有権は認めているものの、持主の自助努力に任される面が大。
建武政権はお墨付きは与えるが、後は実力で守るか奪うかしろということ。
いくらお上の命令だから土地を譲れと言っても、既存の所有者が拒否すれば、どうにもならない。武力で奪うことになる。喧嘩の元。
こうした先例を改めて、幕府発給の文書に強制執行力を付与したのが師直。
幕府が認めた正当な所有者に土地を引き渡さないならば、幕府に討伐される恐れがあるということ。これにより余計な騒擾も起こらず、出来れば合戦などせずに済ませたい武士達にとっても歓迎され、武家達の足利家に対する求心力は向上。


味噌と蜂蜜、胡麻油を加えて混ぜる。

最初から鯖の味噌煮缶を使えば?と思う人もいるかもしれません。しかし水煮缶と違って、味噌煮缶には増粘剤とかアミノ酸という名の調味料が入っていることが多いので、出来るだけ添加物フリーを目指す私は敢えて水煮に味噌を加えています。
調味料としてのアミノ酸とはグルタミン酸ナトリウム。平たく言えば『〇の素』みたいな物。
化学調味料である『味の〇』みたいな物は使わずに調理。
気にしない人は最初から味噌煮缶に他の調味料を加えて下さい。

中世、神社や寺院は現代からは想像出来ない程に力を持っていました。荘園領主であり、商業の座元となり、僧兵や神人(じにん)という武装した私兵。これらにより、政治に度々介入。
師直は石清水八幡宮等の政治に介入する寺社勢力の焼き討ちを実行。
宗教が政治に嘴を突っ込むのを嫌ったという点では、織田信長が比叡山の焼き討ちを行う前に先例を作っていたことになります。

既存の権威といえば、朝廷がありますが、それについても過激な意見。
「天皇だの院だのは必要ならば、木とか金で作った置物にしておけ。本物は生きている間は島流しにでもしろ」
古い権威は否定し、己の実力のみを頼みとする婆娑羅らしい言葉。
朝廷といえば、これは師直の逸話ではないのですが、婆娑羅として名を馳せた者に土岐頼遠がいます。宴会帰りだったかと思うのですが、頼遠と供達は上皇の行列と出くわし、
「院のお通りであるぞ。控えよ」と言われると、
「院だか犬だか知らぬが、犬ならば矢でも射よ」と命じて、上皇の牛車に矢を射かけるという暴挙。酔った勢いとはいえ、流石にこれはやり過ぎで、頼遠は斬首に処されました。


千切ったレタスと切ったレタスを盛り、その上に乗せて黒摺り胡麻を散らす。

高師直は徒然草の作者、吉田兼好と交流があり、恋文の代筆を頼んだという話があります。
塩谷判官の妻が美人なので、師直が横恋慕。結局は袖にされて、逆恨みで塩谷判官に罪を着せて攻め殺したとか。
本筋から外れますが、忠臣蔵はこの話と赤穂浪士の討ち入りを組み合わせています。
吉良上野介を高師直に見立て、塩谷判官を浅野内匠頭に。
江戸時代には幕府の検閲があり、実名で作劇出来なかったので、芝居の作者は舞台を室町時代に、登場人物を他の人物に置き換えたということ。ついでに浅野内匠頭の刃傷沙汰の原因も師直と同じく色恋沙汰にしてしまったということ。
吉良家は幕府の典礼を司る高家、塩谷は赤穂には塩田があることに掛けているという巧みさ。忠臣蔵についてはこちらをご参照下さい。↓

師直は尊氏の弟、直義とは反りが合わず、この二人の対立から始まったのが観応の擾乱。南朝と戦っている最中に、北朝内でも対立。
最終的には尊氏と直義が武力衝突。戦ではほぼ負けない尊氏が珍しく敗北したのは、弟なので本気にはなれず?
和睦の条件として、師直と弟の師泰は出家することに。しかし護送途中に襲撃され、死亡。あっけない。


味噌サ婆娑羅ダ

油気がないとドレッシングぽくないので混ぜた胡麻油と摺り胡麻が鯖の風味を引き立てる。味噌と蜂蜜で甘めな味わい。
レタスやトマト以外の野菜でも、豆腐でもOKな味。

塩谷判官への仕打ちなど、ひどい話もある師直ですが、最後に少しいい話。
ある戦で、上山という武士が師直の陣に駆け込んで来ました。敵に襲われたものの平服なままなので、師直の鎧を拝借しようとしますが、師直不在なので、家来達は殿の鎧を勝手に貸す訳にはいかないと押問答。
そこに戻って来た師直、
「この師直のために戦ってくれる者に何故、鎧を貸し渋ろうか」と快く自分の鎧を貸しました。
これに感激した上山は奮戦。師直を守るかのように討ち死に。

既存の権威の破壊者という点では同じでも、佐々木導誉のみが生き残り、高師直や土岐頼遠等は生き残れなかった違いは何処にあったのか。そんなことを妄想しながら、味噌サ婆娑羅ダをご馳走様でした。

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