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まあ、なんとなく⑥

いのち

この期間「堕ろす堕さない堕ろす堕さない」という会話を何度繰り返しただろうか。人間の都合でつくられた、すごい奇跡でそこに誕生してくれた生命を。簡単に「オロス」という言葉。「殺す」となんら代わりのないこの重たい言葉。平気で何度も言われた。私も平気で一度覚悟をした。私の姉はどんだけ辛い思いだったのだろう。お腹の中に命があると分かった瞬間から第一次母親となる。出産が子供の誕生だとすれば、母親の誕生がこの瞬間のようにも思える。とても不思議な感覚だった。もっともっといのちの重みについて、“母親になった大人”が伝えていくべきだとも思った。

いろはに千鳥に救われた年末年始

年末年始は毎年実家に帰省していた。今年こそつわりが鬼ほどしんどく、帰りたい!!!と思ったが、彼が病状があまりよろしくなく、今年は帰省せずにこっちにいる、と言っていたので私も彼に何かあったらすぐに駆けつけられるようにと1人暮らしの1DKの部屋で1人過ごすことにした。病状がよくないため会うことはできないが、気持ちの問題だった。その間はひたすらいろはに千鳥を観続けた。この年末年始、どれだけ千鳥に救われたか…。ありがとう、千鳥!!と年明け3日には彼が来るということで軽いお節料理と、母から彼と食べてとたくさん贈られてきていたふぐの刺身などたくさん用意した。が、やっぱり病状がよくない、と。結局来れなかった。

籍を入れるのか入れないのかどっちなんだい

子供を出産すると決意してから、彼とは普通に過ごしていた。病状もいいみたいだった。今度は籍を入れるのか入れないのかという問題にぶつかった。私はどっちでもよかった。が、問題は私の両親だった。子供のためにせめて籍を入れてほしい、と。昔の人間だからそうだろう。私は言われるがままに彼に伝えた。そんなある日、彼の母親が失踪した。

大借金のお母さん

彼から急に「実は3日前くらいから一緒に住んでいた母親がおらんくなった。自分がいつどうなるかわからんからとりあえずお金を渡した翌日やってんけど。ほんで、俺実は20歳くらいの時に何もわからずこれにサインをして、と母親に言われサインをしたやつが借金肩代わりの誓約書やって、このまま順当にいけば俺借金返済せなあかんくなんねん。そんな状況で結婚してもたら、俺がもしなんかあった時に⚪︎⚪︎にとんでもない負担をかけてしまうから、籍は入れん方がええ。」と連絡がきた。

こ・りゃ・た・ま・げ・た。

なんというドラマのような展開なんだ?!てかどないな母親やねん!!!と。「こちらの両親には心配かけたくないからこのことは言わんといてほしい。」とも言われた。

籍が入れられない理由

そうか。と彼をとても気の毒に思った。急に肺がんのステージ4になったかと思えば、その後信頼していた母親がお金を渡した瞬間に失踪。どんな人生歩んでいるんだ?!彼の気持ちを思えば思うほどに辛く思った。数日はずっと彼になんと声を掛ければいいのだろう…。とずっとお母さんについても聞かれず、ただただ彼に寄り添って過ごしていた。

なにかがおかしい。最初はその言葉も全て信じていたが、何か違和感があった…。


さすがにおかしい…。こんなにトントン拍子で大事件が起こるものなのか?まるで映画かドラマの中にでもいるヒロインのような胸糞悪い気分にもなっていた。その間、ずっと友達に相談していた。そして2人の友人から助言をもらった。

こうなったらもうラインをみろ

前も一度彼女おるんちゃうん?と疑ったことがった。その時は疑った私が悪かった、と思った。しかし、今はさすがにおかしいことが多すぎる。覚えてないレベルだが、日常的に彼が言っていることが事実とは異なっていることも多々あった。私は正直怖かった。付き合っている人の携帯などいまだかつて見ようと思ったこともないし、見たいとも思ったことがない。でも、みなければいけない。そう思った。彼が風呂に入っている間に、彼がつけていた簡単なロック画面だったおかげで安易に携帯を開くことができた。

身体の外に飛び出す程の鼓動

こんなことしたことない!!!こわい!!こわすぎる!!!バレたらどうしよう!!!そんなことを思いながらラインを開いた。


つづく

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