見出し画像

早朝

目の前で、男の人が転んだんです。
早朝6時過ぎ。わたしはいつものルートで散歩中でした。

川沿いのサイクリングコースによくある「自転車はあまりスピードを出さないで下さいね」の柵、自転車で通り抜けようとしているのですが、なんかマゴマゴしてたんですよね。
わたしは歩きながら、なんかマゴついてるなって思っているわけです。
そしてその男の人まで15m、10m、8m・・・と近づいたところで、バチコン!と自転車ごと倒れちゃいました。

『うわ!どうしよう。大丈夫ですか?って声かけた方がいいのかな』
普段なら駆け寄って声をかけているところなのですが、躊躇してしまいました。
だってその男の人は、
「ロードバイク」「ヘルメット装備」「タイツみたいなピッチリパンツ」「ハンドルに付けるスマホケース」「ロードバイク用のスパイク」
という、フル増備なのです。
もしここで声をかけてしまった場合、彼のプライドを傷つけてしまうかもしれない。
フル装備なだけに、ロードバイクについてはわたしなんかよりもプロなわけです。
だけどとても痛そうにしている。
あっ、起き上がった。あっ、倒れたロードバイクを拾った。あっ、ヘルメットのズレを直した。あっ、ケースから飛び出たスマホを拾った。
ここでわたしは、彼の横を何事もなかったかのように通り過ぎました。

逆に声をかけて、プライドを傷つけるどころか焦らせてしまってもね・・・。
わたしの心臓も口から飛び出そうでした。
ちょっと歩いてから、チラリと後ろを振り返ってみると、ロードバイクに跨る彼の後ろ姿。
早朝からヒヤヒヤさせるぜ・・・。

そのまま散歩を続け、いつものファミマで折り返し、彼が転んだ道をまた歩くと、なにか落ちていました。
黒くて角になっている部分。あー・・・スマホケースか。
多分、彼は大丈夫だとしても、スマホは確実にやられたんだな。
しばらくの間、彼が残していった気まずさのかけらを眺めた後、また歩いて帰ってきました。

そんな早朝。家に着いたら7時。