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97.頭に湯葉が張るような

病院帰りにいつも行く薬局があるのですが、薬を出してくれる薬剤師さんもいつも同じ方です。
ずっと前にnoteに書いたこともある「福耳薬剤師」さんです。
ご利益がありそうな、まるで神様からの贈り物を受け取っているような気分になるので、いつもありがたいのですが、ほんの一つだけ、文句とはいかないくらいの些細なチクチクが残るようになってしまいました。

それは「まだ」という言葉。

福耳薬剤師さんはいつもとても優しい方なのですが、通院を始めて半年が経つので、行く度に「まだ治らないの?」と言われてしまうんです・・・。
その「まだ」が、チクチク刺さってしまうんですよね。
軽く言ってるだけのただの言葉なのに、それにいちいち反応してしまう自分。
「まだ」という二文字が、こんなに刺さるとは半年前には思わなかったことです。
その福耳薬剤師さんにはもちろん何の悪意もなく、これはわたし個人の問題。
こんなに刺激に敏感になっていては、この先が思いやられるなー。

解決策としては、その福耳に意識を集中するくらいでしょうか。


刺激に敏感になる、ということは感覚が鋭くなるってことと通じると思うんですよね。
視覚、嗅覚、味覚、触覚、聴覚。要するに五感と呼ばれるものが、前よりも鋭くなった気がします。
これが良いことなのか悪いことなのかは判断がつきませんが、
「体が危機を感じている」
ということなのかもしれません。

もしかしてわたしは今、獣だらけの無人島にでもいるのでしょうか?確か平凡な街で、チョコミントのアイスが美味しいとか、卵って最強だとか、星野源ってマイクを握っていない時は変態に見えるな、でもそんなところも好きですとか、朝起きてまたよだれ垂らしてたとか、シャンプーの詰め替えを開ける時にミスって裸のままウロウロしてハサミを探したりとか、左右の眉毛を同じように書けなくてコンシーラーで整えながら書き足して結局ゴルゴみたいになるとか、そんな日常を送っているはずなんだけどな。

特に今は家にいる時間が多いので、危機も何もないどころか、五感が鈍くなっていってもおかしくないのに。謎です。

嗅覚が冴えているのに、今まで大嫌いで触ることすらできなかった臭いの王様カメムシを、素手で撃退することができるようになりました。火事場の馬鹿力ってことでしょうか。
カメムシにその力を使ってもな。ヤツらはただの虫なのに。
でもその臭さが、今のわたしの嗅覚にとっては命がけってことなのでしょう。

そんな訳の分からない感覚で過ごしている中、唯一劣ってきているのが「頭脳力」です。
何か考えようとする度に、頭の中に一枚膜が張って、考えの出口から出られないような感覚になるのです。言葉で説明すると難しいですが、このニュアンスが一番近い気がします。

なので、考えている途中でピタッと止まってしまい、それがとてももどかしくてたまりません。
その膜は、絶対に切れない湯葉みたいなイメージです。崩れやすいのに崩れない。
湯葉を刺身醤油で食べると美味しいのに。頭の中に張られると厄介です。
語彙力が足りないせいもありますが、語彙力うんぬん以前の問題な気がするんですよね。


頭の中の湯葉。
深いヒューマン映画にありそうなタイトル。そりゃもうボロボロ泣けるやつです。
主演は宮沢りえがいいな。舞台は地方の旅館。もしくは下町の駄菓子屋。
ストーリーは・・・と、ここで湯葉に引っかかるんです、いつも。

わたしの得意な一人遊びが進まなくてとてもさみしい。