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誰もが言語聴覚士につながるようにしたい。新規参入者としての挑戦【Vol.4】コトバネット 森聖晴さん

言語聴覚士。ことばによるコミュニケーションに難がある方に専門的サービスを提供し、自分らしい生活を構築できるよう支援する専門職である。

小さな子どもをもつ親は「子どもがなかなか言葉を話さない」「特定の発音が難しい」など、言語発達に課題や不安を感じたとき、彼らの支援を受けたくなるだろう。

しかし残念ながら、生活圏内でアクセスできる小児分野の言語聴覚士は非常に少ない。

そこでこの連載では、小児分野の言語聴覚士やその育成に関わる方に話を伺い、子どもの言語発達に関するトピックや、言語聴覚士としての活動内容などを紹介する。

子どもの言語発達に悩むすべての人に、この記事が届きますように。

今回お話を伺ったのは、言語聴覚士としてのキャリアを積みながら、依頼したい方と言語聴覚士との出会いの場を提供するサービス「コトバネット」を立ち上げた森 聖晴(もり きよはる)さんです。

なぜ新たなサービスを立ち上げたのか、どんな方にどのような支援を提供しているのかなどを伺いました。


コトバネット 森 聖晴(もり・きよはる)さん
大学で政治学を専攻し、卒業後はテレビ番組制作会社に勤務。養成課程で言語聴覚士免許を取得し、ケアミックス病院や児童発達支援・放課後等デイサービスに勤務。並行してオンラインプラットフォーム「コトバネット」を立ち上げ、運営中。

利用者・言語聴覚士双方に意味のあるプラットフォームを作りたい

——はじめに、きよはるさんが言語聴覚士になった経緯や、小児領域に関わろうと思った理由を教えてください。

きよはるさん(以下略):大学卒業後、テレビ番組の制作会社に勤務していました。元々多くのことに興味を持つタイプで、言語聴覚士もたまたま知って、興味を抱いたという感じです。それで養成校へ入学し、免許を取得したあとはケアミックス病院に勤務していました。現在は児童発達支援・放課後等デイサービスで勤務しています。

病院勤務時は、神経変性疾患の言語症状や行動神経学に興味があり、臨床と研究活動を行ってきました。その中で「人はどのように言葉や行動を獲得していくんだろう?」と興味を抱き、小児領域に飛び込んでみました。同時に、小児領域の言語聴覚士が少ないと聞いていたので、その実態と原因、解決策はあるのかを探してみたいという気持ちもありました。

——現在は並行して「コトバネット」の代表としても活動されています。なぜ「コトバネット」を立ち上げようと思ったのですか?

理由は大きく2つあります。1つ目は、支援を受けたい人が言語聴覚士とマッチングできないことです。親の抱える課題や悩みは経時的に変化しますし、言葉に関する課題感を抱えていても、健診を何事もなく通過してしまうことや、「〇〇歳まで様子を見ましょう」と言われる事例も少なくありません。

そんな悩みを直接相談でき、対応してもらえる言語聴覚士がいる場所を作りたいと思い開設に踏み切りました。

2つ目は、需要と供給のバランス調整です。言語聴覚士は、7割近くが病院に所属しており、病院市場において一定の言語聴覚療法を供給できています。それに比し、小児領域に限定すると全体の約1割程度です。聴覚・音声領域はもっと少なく、中学生から一般成人へのサポートは体制自体がないことが多いです。

需要側は、どこに?誰に?相談したら良いかわからない。供給側は、どこで?どうやって?言語聴覚療法を提供したら良いかわからないのが実情だと思います。

今困っている人に、必要な専門性を提供できてこその専門職です。言語聴覚士として自分のスキルを提供する場所を作ることで、需要と供給のバランスを整える一助になると思っています。

「コトバネット」とは

——「コトバネット」のサービス概要や、利用できる人について教えてください。

「コトバネット」は、スマホ一つで、あなたが求める言語聴覚士に24時間・365日繋がることができるサービスです。言語聴覚士は登録制になっていて、自分が得意とする領域の言語聴覚療法を提供します。そして利用者は、自分が今一番気になっていることをカテゴリから探して、支援を依頼します。

なお支援の幅はかなり広いので、子どもから大人まで幅広く対応できるようにしています。

希望できる支援のカテゴリ(引用:コトバネット公式サイト

マッチングまでの障壁をできる限り低くしたいと考え、登録や閲覧は一切無料。料金が発生するのは、サービスを希望して取引が成立したときだけです。オンライン決済に限定していて、当日に追加料金を払うことは原則ありません(追加で何か要望された場合などは除く)。

個人的なコンセプトとしては「気軽に探してつながれる言語聴覚士」というイメージですね。

——「コトバネット」をどんな人に使ってほしいと考えていますか?

まず利用者は、自分の課題や悩みに焦点を当てて言語聴覚士を探したい人や、仕事の都合上、日中に電話連絡や訪問などが必要なサービスを使いにくくて困っている人などを想定しています。

また「療育担当者からは経過観察と言われたけれど、セカンドオピニオンとして言語聴覚士の話を聞きたい」「地域に訪問してくれる言語聴覚士がいないから来てほしい」といったニーズにも応えられると思いますよ。

次に言語聴覚士は、自分の専門、得意とする領域にフォーカスして支援を提供したい人や、子育て中など時間が限られている中で働きたい人などに使っていただきたいです。また、複業で言語聴覚士のスキルを使いたい、オンラインでの言語聴覚療法にチャレンジしてみたいといった想いにも応えられます。

——「コトバネット」を利用する際の注意点はありますか?

やはり価格帯でしょうか。公的サービスではないので、利用料は自費となります。これまで病院や公的サービスを利用していた方は特に「費用が高い」と感じると思います。

「コトバネット」利用者の生の声

——これまで利用された方からは、どんな感想や意見をもらいましたか?

日頃から利用者へのアンケートを実施していて、常に生の声を受け取れるようにしています。今日はその中の一部を紹介しますね。

サービスを受けた人の声

・Aさん
「地元の療育センターの受診まで半年待ち。療育には通っているものの言語聴覚士はいないようで指導員?の方に見てもらっています。今回繋がった言語聴覚士さんには、療育センターを受診するまでの半年間、月に1回オンラインで相談しながら、家でできる取り組みを考えたり、実際に子どもと遊んでいる様子を録画して、確認しながら良い方法を探ってもらっています。とても物腰が柔らかい方で、私の話もしっかり聞いてくれて、内心めちゃくちゃ安心していますし、私には見つけられなかった子どもの一面も発見できたので本当に良かったです」


・Bさん
「Twitterで見て気になったので、サイトを見て登録して、DMも送らせてもらいました。私の父は失語症と言われ、病院でリハビリをしていて退院をしたのですが、ケアマネージャーに相談しても『言語聴覚士はいないから訪問リハビリはできません』と言われて不安になっていました。コトバネットで今のところ、2回zoomを使って、父と私で仕事終わりに言語聴覚士さんと一緒に言葉のリハビリをお願いしています。話すのはきつそうですが、言いたいことを理解してもらったり、言葉を翻訳してもらったりして笑顔になる父を見て、使って良かったと感じています。夕食後に一緒に笑顔になる時間が作れて本当に良かったです。その言語聴覚士の方には、今後もオンラインでのリハビリをお願いしようと思っています」

サービスを提供した言語聴覚士の声


・Cさん
「総合病院で働く2児の母です。普段は小児から成人を担当させていただいております。オンラインでのリハビリ・療育には興味がありましたが、なかなか機会がありませんでした。サイトに登録して、オンラインでお子様の発達および言葉の相談・療育を行わせていただきました。初めてのチャレンジだったので不安な部分や改善が必要な点はありましたが『相談して実際に診てもらうことができて良かった』と言っていただけました。勤務や家事、子育てもあるのでアルバイトなどはできませんが、自分の時間を使ってSTとしての幅を広げる経験ができて良かったです」

※匿名公開の許可を得て、内容を一部省略・簡略して記載しています。

あえて「がんばらない」ことが心のゆとりにつながる

——「コトバネット」の今後の方向性を教えていただけますか。

言語聴覚士の働き方を新しく創造していきたいです。具体的には、利用者のデータを集めさせていただき、学術集会や雑誌への投稿などを考えています。コトバネットで実施できるかは定かではありませんが、Gale-Shapleyアルゴリズムを実装することができれば、言語聴覚療法の分野に大きなパラダイムシフトが起きるのではないかと期待しています。

個人的な着地点としては、「コトバネット」は言語聴覚士と繋がるための第4の選択肢ぐらいがベストだと考えています。第1、第2選択肢は保険診療や公的サービスでしょう。ただこれらが「カラカラに乾いた土壌」になってしまっていると感じるので、このサービスが第4選択肢ぐらいになりえるかを皆さんに見極めてほしいと思っています。

また「コトバネット」の運営は基本的に一人で行っているので、言語聴覚士や課題や悩みを抱える当事者、その保護者、初めて興味を持った別分野の方など、新しい価値観を作るために活動したい方がいれば、ぜひ連絡をいただきたいです。

——最後に、子どもの言語発達に悩む保護者に向けてメッセージをお願いします。

全力で脱力してみるのが良いんじゃないかなと思います。今の時代、SNSを通して様々な情報を得ることができます。共感できる仲間や情報を見つけることができる反面、不安を助長するような情報に触れることも少なくありません。その結果、他と比べてしまう、どうにかしようと親と子どもに負担がかかってしまうのは最悪のケースじゃないでしょうか。

必死になる時や必死になれる人はやれば良いと思います。でも、不安という重圧に押し潰されて、息継ぎができなくなっている方がいることも事実です。体裁を整えようと頑張ることが、一番の苦しみを生み出していると思います。

周りの目や将来の不安、先入観など目に見えないものに振り回されずに、子どもと過ごせるのは親しかいないんじゃないでしょうか。子どもを大人の理想をする姿に変容させたりコントロールしようとせず、ありのままの姿を受け止めてみる、それだけでも心にゆとりができて見える景色が変わるかもしれません。

キツくなったら、周りに頼る!使えるものはなんでも使って助けてもらって良いんじゃないでしょうか。問題が起きたら自分のせいにするのではなく、タイミングが悪かったと思えるぐらい、気楽な気持ちで子どもと関わってほしいです!

「コトバネット」公式サイト
きよはるさんTwitter


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